KubeCon EU 2022のショーケースからみるKubeConの変化とは
KubeCon+CloudNativeCon EU 2022は、パンデミックの影響によるオンライン開催となった昨年、一昨年から、ついにオンラインと会場での開催が統合されたカンファレンスとなった。2021年にロサンジェルスで行われたKubeCon NA 2021では会場でのカンファレンスとしては余りに参加者が少なかったことから、筆者の目線では「イベントとして持続できるのか?」という疑問が浮かんだものだった。しかし今回のバレンシアのカンファレンスでは参加者も増加し、充実した内容となった。今回はその総評としてショーケースの一部を紹介する。
このキーノートの座席の埋まり具合からも、多くの参加者がリアルプレゼンテーションを聴き、対話するという機会に飢えていたことが感じ取れる。
実際には2日目、3日目のキーノートでは空席も目立つようになり、キーノートセッション自体の吸引力が落ちていることは否めない。2020年にガンで亡くなったDan Kohn氏がExecutive Directorを務めていた時期、2019年にサンデエィエゴで行われたKubeCon NA2019辺りまでは、Kubernetes自体がまだ成熟しておらず、Kubernetesを使ったデモやCNCFのプロジェクトの進化を紹介するだけでテクニカルな内容を求めていた参加者にとっては、リアルで参加する意義が大きいキーノートセッションであった。だが今回のキーノートでは、ウクライナへの支援、メルセデスベンツの成功事例などの他にはCNCFの組織変更の紹介(あまり詳細には語られなかったがSIGがTAGに変更されたことはもっと知られるべきだろう)や、コミュニティの育成の仕方がメインだった。個々のプロジェクトに言及するのではなく、サンドボックスからインキュベーションに移行する際のノウハウなどが多く、テクニカルな「Wow!!」を期待するイベントではなくなったのかもしれない。
ちなみにカンファレンスで何度か耳にした「Kubernetes is Boring(Kubernetesは退屈)」はKubernetes自体が安定してきたことを賞賛する一方で、本体にそれほどの革新が見られなくなったという失望の混ざった決まり文句と言ったところだろう。
しかしネットワークの領域ではeBPFをベースにしたCiliumが確実にユーザーを増やしているように見えるし、Lyftが開発した軽量ProxyであるEnvoyをベースにしたAPIゲートウェイのEnvoy Gatewayの発表もあり、周辺のエコシステムは充実していると言える。ContourとEmissaryがEnvoy Gatewayにマージされることとなったが、これはOpenTracingとOpenCensusがマージされたことと同様にコミュニティが重複を避ける決断をしたと言える。
Envoy Gatewayを発表するEnvoyの開発者、Matt Klein氏のブログ:Introducing Envoy Gateway
この写真はCNCFがホストしているプロジェクトを集めたスペースに存在していたEmissary Ingress(かつてはAmbassadorと呼ばれていたプロジェクト)のブースだが、すでにEnvoy Gatewayにマージされることが発表されたためか、誰もいない看板だけのスペースとなっていた。
サービスメッシュではLinkerdを開発するBuoyant、Envoyを使ったサービスメッシュのKumaを開発するKong、Ciliumを開発するIsovalent、Nomad、Consulを開発するHashiCorp、Istioをベースにしたサービスを提供するSoloなどが、多くの参加者の注目を集めていた。セキュリティについてはすでにベンダー同士の統合が始まっているのに対し、ネットワークについてはまだまだエコシステムが変化していくことが予想される。
またWebAssemblyを使ったエッジからオンプレミス、クラウドまでを相互運用できるソリューションを提供するCosmonicも元気な姿を見せていた。
IBMやRed Hat、Microsoftなどのメジャーな企業もブースを出展していたが、全般的に小さめでシアター形式による対話を重視した設計となっていたように思える。
HCLはCloud Foundryからのアプリケーション移行をサービスとして解説しており、Cloud Foundryがすでにレガシーな扱いとなっていることを感じることができる。
またKubernetesがコード署名に採用したSigstoreも最小サイズのブースながら注目されていた。
現在のCNCFはGraduation(卒業)したプロジェクトが16、インキュベーションとして採用されているプロジェクトが39、それに加えてサンドボックスのプロジェクトが75という大所帯のため、各プロジェクトのステッカーも専用の引き出しを使って配布するようになっていた。
またショーケースに設けられているノベルティショップでは、各プロジェクトのTシャツは隅に追いやられ、Kubernetesのロゴをメインにした商品が並んでいる状態となった。
バレンシアの市中はすでにマスク着用者は20%程度、ショップやスーパーマーケットなどでもマスク着用はまれな状況であったが、カンファレンス内はマスク着用が守られており、参加者の感染に対する意識の高さが現れていた。
ただ全参加者向けパーティでは野外での設定ということもあり、マスクはほぼ着用されずに各々食事やアルコールを楽しんでいた。
他にもRed HatやAWSなどはプライベートなパーティを主催して参加者をもてなしていた。また恒例となった5kmの早朝ランニングやレンタルサイクルを使った市内バイクツアーなども行われ、参加者にとってはカラダを動かす機会となり、バランスのとれた内容となっていた。2022年10月にデトロイトで行われるKubeCon NAにも期待したい。
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