Open Infrastructure Summit上海、ドコモのセッションは玄人好み
今回の記事では、Open Infrastructure SummitのセッションからNECとNTTドコモが共同で行ったセッションを紹介する。この連載で紹介している他のレポートは、楽天モバイルがざっくりとしたシステムの概要のプレゼンテーションで、SK TelecomがOpenStackとAirshipを使ったライフサイクルマネージメントのプレゼンテーションだった。それらに比べるとNECと共同で行ったNTTドコモのプレゼンテーションは、正面からネットワーク機能仮想化(以下NFV、Network Functions Virtualization)の実装を解説する内容となった。
参考:
Open Infrastructure Summit上海、楽天モバイルのフル仮想化ネットワークに注目
Open Infrastructure Summit上海、SK Telecomの5GプラットフォームはOpenStack on Kubernetes
最初に出てきたこのスライドで、2017年からOpenStackによるモバイルネットワークが実装されていることがわかるが、一番大事な数字はノードのうち45%が仮想化されているという部分だろう。楽天モバイルは100%仮想化、SK Telecomはパーセンテージは言わないもののOpenStackベースで多くの機能が実装されているという紹介だった。それに対してドコモのコアネットワークにおいては、仮想化は半分に届いていない。そして仮想化されたアプリケーションという部分では、2017年の段階で4種類、2019年においても10種類のアプリケーションしかないという。ここでは全数ではなく「種類」であることに注意する必要があるが、携帯キャリアのトップとしてまだ多くのレガシーなシステムが残っていることを感じさせる内容となった。
またドコモのネットワークは、欧州電気通信標準化機構(ETSI:European Telecommunications Standards Institute)に準拠したマルチベンダーで構成されたOpenStack環境だとわかるのが、このスライドだ。システム構成図はETSIが使う構成図に準拠した形となり、MANO(Management and Orchestration)のインフラとして、OpenStackが記載されていることがわかる。
そしてここからこのマルチベンダー構成の仮想化プラットフォームの課題を紹介したのが、次のスライドだ。
課題の一つ目が複数のベンダーが開発するVNF間のインターフェースを合わせること、そして二つ目が5Gへの対応とそれに伴うコンテナ化されたVNFへの対応である。そしてその解決方法として挙げられたのが、OpenStack Tackerだ。
TackerはOpenStackのプロジェクトとして開発が進んでいるソフトウェアで、VNFのオーケストレーションの役割を担う。
OpenStackのアクティビティの分析を行うStackalyticsによれば、TackerへのコントリビューションはNEC、NTTのエンジニアによって活発に行われていることがわかる。
参考:https://www.stackalytics.com/?module=tacker-group
NECはレビューやコミットではトップ3に入る貢献ぶりだ。ここではマルチベンダー間の調整を個別に行うのではなく、オープンソースプロジェクトとして開発することでスタンダードを実践する姿勢が見えていると言えるだろう。
ここで再度、TackerによってベンダーをまたがるAPIの調整とKubernetesによるコンテナ化に対応することが挙げられている。そして将来のOpenStackのリリースにおいて、NTTとしてTackerをETSIのNFVで定義されるプロトコルとデータモデルに準拠させていうということが書かれている。ちなみにETSI NFV-SOLとはNFV Solutionの略語で、プロトコルとデータモデルを指すという。ETSIに限らずネットワークオペレータは、3文字略語が好きであるということがここでも露出した形になる。
その後、TackerにおいてKubernetesの連携やNECが主導するテスト環境の改善について、NECからプレゼンテーションが行われた。
最終的なまとめとして、NTTとNECが協力してテレコムオペレーター向けにTackerの開発を進めていくこと、ETSIに準拠してKubernetesサポートを推進していくことが提示された。NEC、NTT、そして顧客となるNTTドコモの3社が、業界標準とデファクトスタンダードとなったKubernetesに対応することが解説されたセッションとなった。
楽天モバイルの仮想化がCiscoとNokiaによるベンダーソリューションであったこと、SK TelecomがAT&Tとの共同プロジェクトであるAirshipから独自のカスタマイズであるTACOを開発し、それを個別のオープンソースプロジェクトとして推進していく予定であることは別のレポートで紹介した。そしてNECとNTTは、ETSIに準拠しながらもプライベートクラウドの実装であるOpenStackを最大限に活用し、コミュニティとの歩調を崩さないようにKubernetesを取り込もうとしていることがわかった。この3社のそれぞれの立ち位置と方向性が垣間見えた内容となった。
楽天モバイルは開発の速度と安定性をベンダーに求め、SK Telecomは独自のソリューションを作ったのち、それを公開するというやり方だ。
一方NECとNTTは、あくまでも既存のオープンソースプロジェクトと業界が定めた標準に準拠しながら開発したものを、コミュニティに還元していくという姿勢が明らかになったように思える。ベンダーごとの開発を行えばもっと短期間に開発ができるだろうが、敢えて時間の掛かるコミュニティファーストな方法論を選択したことは、もっと評価されて良いと思う。その点でも、日本と韓国のモバイルオペレーターの違いが印象的なカンファレンスとなった。