Open Infrastructure Summit上海、SK Telecomの5GプラットフォームはOpenStack on Kubernetes
Open Infrastructure Summitでは「エッジのインフラストラクチャーをどうするのか?」に関するセッションが数多く行われた。今回はその中から、韓国のテレコムオペレーターであるSK Telecomのセッションを紹介したい。内容は、OpenStackとAirshipを活用して構築した5Gに向けたプラットフォームに関するものだ。
前回紹介した楽天モバイルの完全仮想化プラットフォームは、CiscoとNokiaによるOpenStackをデータセンターとエッジに展開するものだった。一方今回紹介するSK Telecomの場合は、OpenStackとAirshipによる自動化を解説するものとなった。
参考:Open Infrastructure Summit上海、楽天モバイルのフル仮想化ネットワークに注目
Airshipは2018年5月に発表されたAT&T、SK Telecom、そしてIntelによるオープンソースプロジェクトで、Helmを使ってOpenStackの導入を自動化するというものだ。2019年8月には新たにDell Technologiesもロジェクトに参加し、現在はOpenStack Foundationにホストされている。
Airshipについては2018年5月にバンクーバーで開催されたOpenStack Summitのキーノートでも紹介されている。以下の記事を参照されたい。
参考:@<href>{https://thinkit.co.jp/article/14376,OpenStack Summit 2018 Vancouver開催 リアルな情報交換の場となったイベント
Ahn氏は、Airshipの概要を4つのポイントを挙げて説明を行った。
最初のDeclarative(宣言的)とは、すべての構成が「Manifest」と呼ばれるYAMLファイルで定義されていることを指している。そして2番目の「コンテナがソフトウェアデリバリーの単位となった」というのは、Kubernetesがコアのコンポーネントとして使われており、OpenStack自体をKubernetesのPodとして実装することを意味している。ワークフローと最後のフレキシブルという辺りは、Ansibleによる構成情報の管理及び自動化を指していると思われる。
そしてモバイルオペレーターとしてOpenStackがプラットフォームの要点であることは変わりないものの、クラウドネイティブなシステムに移行していくとして解説した際に使われたのが、このスライドだ。
現在の構成はベアメタルサーバーの上でOpenStackが稼働し、その上でモバイルネットワークの機能がVNFとして実装されるというものだが、ここからまずOpenStackとKubernetesが並立する段階を経て、ベアメタルとパブリッククラウドをまたいだ形でKubernetesがプラットフォームとして定着し、その上でOpenStackベースのVNFとコンテナベースのCNF(Containerized Network Function)が稼働する段階に進化するということを挙げている。
これは2019年5月にバルセロナで開かれたKubeConで、CNCFが立ち上げたTelecom User Groupでも議論になったものだ。現状では、多くのテレコムオペレーターがOpenStackベースで構築しているネットワークを、いかにクラウドネイティブなシステムに移行していくのか? という課題に関するものだ。これに対するSK Telecomの回答が、「OpenStackからAirshipを使ってKubernetesに移行する」というものと見ていいだろう。CNFやTelecom User Groupについては、以下の記事を参照されたい。
参考:KubeCon Europe、テレコムオペレータを集めたTelecom User Groupは議論百出
そして5Gを見据えた方向として、これまでクラウドで実行されていたワークロードがエッジ側での処理に移行していくという部分を表現したのが次のスライドだ。
これは主にレイテンシーを少なくするための方法論であり、IoTや自動運転などの機能をクラウドまで持って行かずにエッジ側で処理したいという意味である。前回紹介した楽天モバイルによる、OpenStackでデータセンター側とエッジ側を統一して仮想化プラットフォームで処理するという発想と共通する部分はあるが、クラウドネイティブなシステムまで視野に入れているのがSK Telecomの特徴的な部分だろう。
ただこのスライドに「モバイルエッジはクラウドネイティブなアーキテクチャーにする予定(planned)」と書かれているところを見ると、現状ではあくまでも「予定」であり、実装はこれからという状況も透けて見えてくる。
そして韓国では需要の多いと思われるエンターテインメント系の動画コンテンツについても、5Gのネットワークに載せる予定であることを解説した。
そしてAirshipを発展させた形として、SK Telecom独自の実装であるTACO(SK Telecom All Container Orchestrator)を紹介した。
具体的なアーキテクチャーを見れば、HelmチャートとパッケージイメージをKubesprayを使って実装するものであることがわかる。KubesprayがAnsibleのプレイブックであることを考えると、Kubernetesの上でOpenStackを実装するための現実的な仕様となっているように思える。
Ansibleがコアとなって、Ironicを使ったベアメタルサーバーのプロビジョニングからストレージであるCephの導入、Ansibleの複数のプレイブックを束ねるArmadaを使って複雑なOpenStackのプロビジョニングを行う仕様になっていることがわかる。Helmの役割は、チャートリポジトリーという位置づけだろう。
そしてSK Telecomとしては、このアーキテクチャーで5Gからビッグデータ、メディアストリーミングまでカバーする予定であることを表したのが次のスライドだ。
SK TelecomとしてはTACOをOSFに準拠したオープンソースプロジェクトとして発展させたいという意思があるようで、SK Telecomのインフラストラクチャーに関するリポジトリーの一部として、GitHub上で公開されている。
写真:IMG_1634.jpg
GitHub:SK Telecom Open Infrastructure
しかしテクニカルな内容を解説したブログについては、まだ韓国語による記述のみのようで、オープンなコミュニティを形成するためには英語によるドキュメンテーションも必要だろう。
また将来の計画として、Airship 2.0を使ってリージョナルコントローラーとして稼働するクラスターの配下に複数のKubernetesクラスターを配置するいわゆるマルチテナンシーも想定しているようだ。この辺りは、CNCFのKubernetes-SIGで検討されているマルチテナンシーの方向性とも擦り合わせが必要となってくると思われる。
スライドからは今後の予定に属する情報が多く、実際にPoCから本番環境にどこまで進んでいるのかは良くわからないというのが本音だ。2019年12月に開催されるKubernetes ForumでSK Telecomのエンジニアと再会する約束を取り付けているので、より詳細にはその機会を待ちたいと思う。
連載バックナンバー
Think ITメルマガ会員登録受付中
全文検索エンジンによるおすすめ記事
- KubeCon Europe、テレコムオペレータを集めたTelecom User Groupは議論百出
- OpenStack Summit 2018 Vancouver開催 リアルな情報交換の場となったイベント
- KubeCon China開催。DPDKとCI/CDのプレカンファレンスを紹介
- 中国人のためのイベント、Open Infrastructure Summit上海開催
- OpenStack Days Tokyo開催。インフラからコンテナに繋がるクラウドネイティブなソリューションを提案
- OpenStackとコンテナの技術動向
- IntelとAT&Tが推進するEdgeプラットフォームAkrainoとは?
- Open Infrastructure Summitで日本人コントリビュータ座談会を実施。今回のカンファレンスの見どころは?
- OpenStack Days Tokyo 2018開催 ユースケースから見える最新のインフラとクラウドネィティブコンピューティングとは?
- Open Infrastructure Summitで紹介されたCERNやAdobeの事例