CloudNative Days Spring 2021開催。CNCFのCTOが語るクラウドネイティブの近未来
キーノートにCNCFのCTOが登壇
クラウドネイティブなシステムに関するテクニカルセッションをメインにしたオンラインカンファレンス「CloudNative Days Spring 2021 ONLINE」(CNDO)が、2021年3月12日、13日の2日間にわたって開催された。初日の最初のセッションは、キーノートとしてCloud Native Computing Foundation(CNCF)のCTOであるChris Aniszczyk氏が登壇し、クラウドネイティブなソフトウェア、エコシステムの概況と近未来を予想する内容の講演を行った。
動画:Cloud Native 2021 and Beyond
Aniszczyk氏はCNCFのCTOでもあるが、The Linux Foundation(LF)のデベロッパーリレーションのVPでもある元エンジニアで、IBM、Red Hat、Twitterなどの企業に所属した経歴を持つ。またオープンソースを企業や組織において活用することを支援するTODO Groupの共同創業者でもある。
TODO Groupは企業内にOpen Source Program Officeと呼ばれる組織を設置し、企業におけるオープンソースソフトウェアを活用する中心的な役割を果たすことを推進しているオープンな組織で、LFと協調して活動している。ベンダーに頼ることができないオープンソースソフトウェアを、いかに企業が使い、コミュニティに還元するのか? をリサーチし、コミュニティやメンバーに還元することを主な目的としていることが特徴で、ソフトウェア主体となりがちなオープンソース系団体の中では経路の変わった存在だ。
このセッションは20分という短い時間の中に、CNCFの活動のアップデート、2021年の予想、クラウドネイティブなブラウザーベースのIDEの解説など多くの内容を詰め込んだ形になった。
このスライドではCNCFの概要を解説した。CNCFは「LF配下の非営利組織としてKubernetesをホストする団体」として認識されていることが最も多い組織と思われるが、単にオープンソースプロジェクトをホストして人的、マーケティング的な支援をするだけではなく、プロジェクトを「サンドボックス」「インキュベーション」「グラデュエート」というフェーズに分けて成熟を促進する手法で、クラウドネイティブなソフトウェアをサポートしている。
CNCFは、ホストするプロジェクトの活動についてはシビアに評価を下しており、活動が低下し、ユーザーにおける導入が減少したプロジェクトについては支援を打ち切る裁定を下すなど、単に支援を行うだけの応援団ではないことは知られるべきだろう。ちなみにインキュベーションプロジェクトから支援を打ち切られた例として、コンテナランタイムのrktが挙げられる。CoreOS(Red Hatが買収済み)が開発をスタートさせたプロジェクトで、2017年にインキュベーションプロジェクトとして採用されたが、2019年にはインキュベーションの資格を満たさないとしてアーカイブされた。
エンドユーザーとソフトウェアの関係を示すTech Radar
またCNCFはベンダーだけではなくエンドユーザーからの参加も重要視している。実際KubeConのセッションでも、ベンダーよりもエンドユーザーのセッションを重点的に採用していた記憶がある。今回はエンドユーザーが新しいテクノロジーやソフトウェアをどう評価しているのか? についてTech Radarという見せ方で公開を始めたことを解説した。
Tech Radarは、エンドユーザーとクラウドネイティブなソフトウェアの関係を「Adopt(導入)」「Trial(試行中)」「Assess(調査段階)」という3つの段階に分けて分類するものだ。技術そのものの評価ではなく、エンドユーザーがどの程度受け入れているのか? を示すものだ。2020年6月から始まったこのリサーチでは、CNCF配下のプロジェクトだけではなく商用サービスなども含まれていることから、エンドユーザーから見たCNCFのプロジェクトの客観的な評価を示すものとなっている。
CNCF End User Technology Radar
データベースの例ではMySQLがAdoptなのに対して、YouTubeの膨大なアクセスを捌く水平にスケールアウトできるMySQL互換のデータベースVitessがAssess段階なのは残念な結果と言えるだろう。Vitessについては以下を参照されたい。
参考:Kubernetes Forum@ソウル、YouTubeの本番で利用されるVitessのセッションを紹介
新たなイベントのフォーマットKubernetes Community Days
次に解説したのは、Kubernetes Community Days(KCD)という新しいフォーマットのイベントだ。KubeConを始めとして多くのカンファレンスがオンラインに移行したことを受けて、これまではリアルのみで行われていたKCDをオンラインとリアルのハイブリッドで開催できるようにプラットフォームを開発したという。
KubeCon+CloudNativeConについては、これまでも共催されるミニカンファレンスが多数存在していた。ここでは新たにメモリーセーフなプログラミング言語Rustと、ブラウザーでCなどの言語で書かれたコードをネイティブに実行するWASMに関するミニカンファレンスが含まれていることに注目したい。RustもWASMもCNCFとは直接関係ないプロジェクトだが、それぞれRust Foundation、WebAssembly Foundationを設立して、ニュートラルな立ち位置で活動を続けている。
RustとWebAssemblyについては以下の記事も参考にして欲しい。
参考:WebAssemblyとRustが作るサーバーレスの未来
コロナ禍による業界への影響
クラウドネイティブなソフトウェアが進化するに従って、それらを開発する企業やサービスを提供する企業が統合されるようになったことを紹介するのが、次のスライドだ。
めぼしい例としてはDeis、GitHubがMicrosoftに、CoreOSがRed Hatに、そしてRed HatがIBMに買収されたことが挙げられる。そしてこれ以外にも多くのスタートアップが、VMwareなどの大企業に買収されていることを解説した。クラウドネイティブなシステムの市場に巨大な資金が動いていることを示す一つの指針と言えるだろう。
また新型コロナウイルスによるパンデミックが、オープンソースとパブリッククラウドの利用を促進したというIDCなどのリサーチを紹介し、リモートワークが間接的にクラウドの利用、オープンソースによるクラウドネイティブなシステムの利用を加速したことが解説された。
FinOps
クラウド利用に伴うコストに注目しているのがFinOpsという新しい組織だ。
FinOps公式サイト:FinOps: Collaborative, Real-Time Cloud Financial Management
LF配下に新しく創設されたFinOps Foundationはパブリッククラウドでのコストを可視化し、最適化することなどを目的としている。実際にAWS、Azure、GCPでKubernetesを利用した際のコストを分析するコードがGitHubに公開されている。
このツールは元Googleのエンジニアが開発したもので、3大パブリッククラウドでのコストを可視化できる。
クラウド/サーバーからエッジ/IoTに拡がるKubernetes
Kubernetesはすでにクラウドネイティブのデファクトスタンダードとなっているが、サーバー側だけではなくエッジ側のプラットフォームとしても注目されていることを紹介したのが次のスライドだ。ここではK3s(Rancher)、KubeEdge(Futurewei)、K0sなどが紹介された。KubeEdgeはCNCFのサンドボックスプロジェクトだ。
サーバー側だけではなくIoTのエッジにもKubernetesのワークロードを実装することで、エッジでのソフトウェア開発のハードルを下げるというのが目的だろう。OSの領域ではLinuxがサーバーから組み込み系までをカバーしているが、オーケストレーションの領域でKubernetesに同じことを実現させようという意図を感じる。Linuxも当初は「ホビーのためのソフトウェア」と評価されていたが、徐々にエンタープライズでの評価を勝ち得ていった。この経緯をなぞるような動向と言える。Kubernetesが「クラウドのLinux」と呼ばれるのも理解できる。
エンドユーザーが主導するOSS
ここではオープンソースプロジェクトの主導的な立場を、ベンダーではなくエンドユーザーが勝ち取りつつあることを紹介した。NetflixのOSSやSpotifyのBackstage、LyftのEnvoyなど、ユーザーが自社の必要に応じてソフトウェアを開発し、それをオープンソースプロジェクトとして公開されるということは、アメリカでは大きな流れになっていると言える。
ソースコードを公開するだけではなく、コミュニティの支持を得てエコシステムを拡大することで、最終的に自社にも利点があるというロジックは、理解はできても実際に実行するのは難しい。その手助けとなるのが、Aniszczyk氏が起こしたTODO Groupである。TODO Groupが支援するOpen Source Program Office的な組織を作ることで社内のコンセンサスを取り、社外に拡げるというアプローチが有効ということだ。
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