連載 [第14回] :
  月刊Linux Foundationウォッチ

Linux Foundationが複数のクラウド環境でマイクロサービスの構築・運用を促進する「NextArch Foundation」を設立、ほか

2021年11月30日(火)
吉田 行男

こんにちは、吉田です。今回は、11月2日、3日に米国カリフォルニア州ナパバレーで開催された「Linux Foundation Membership Summit」に合わせて発表された内容を紹介したいと思います。

Linux Foundation、多様なコンピューティング環境に対応する
次世代アーキテクチャを構築するNextArch Foundationを発表

Linux Foundation(以下、LF)は、複数のクラウドコンピューティング環境にまたがるマイクロサービス間の相互運用性を促進するフレームワークと仕様を定義するNextArch Foundationを設立しました。このFoundationには、Tencent、Arm、Kong、Ampereなど40以上の組織が参画し、3つのバーティカルな産業向けのフレームワークに加え、2022年に10のテクノロジープロジェクトへの貢献をコミットしています。

【参照リリース】Linux Foundation Announces NextArch Foundation to Build Next-Generation Architecture that Supports Diverse Computing Environments
https://www.linuxfoundation.org/press-release/linux-foundation-announces-nextarch-foundation-to-build-next-generation-architecture-that-supports-diverse-computing-environments/

このFoundationでは、マイクロサービスの構築に継続的インテグレーション/継続的デリバリー(CI/CD)プラットフォームをどのように採用するか、高度に分散されたコンピューティング環境に存在するマイクロサービス間のレイテンシーをどのように低減するかなどを重点的に検討しているとTencent Open Source Alliance会長のMark Shanは述べています。

現在、クラウドネイティブコンピューティング、人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)、エッジコンピューティングなどの新しい技術を導入することで、企業は大きなチャンスと変革の道を歩もうとしています。市場調査によると、世界のデジタルトランスフォーメーション(DX)市場規模は2020年に3,361億4,000万米ドルとなり、2021年から2028年にかけて年平均成長率(CAGR)23.6%で成長すると予想されています。しかし、インテリジェントな集中型アーキテクチャがないため、企業や、これらの技術に基づいてイノベーションを生み出す開発者が、その可能性を十分に活かすことができません。

企業がソフトウェアの構築とデプロイにマイクロサービスを採用するにつれて、アプリケーション内の複数のマイクロサービス間に依存関係が存在することから、マイクロサービスを管理するための一連のDevOpsベストプラクティスを確立する必要があります。

マイクロサービスの管理に関連する課題は、企業のマイクロサービス採用を阻害する要因になっているわけではありませんが、十分に移行を遅らせる要因になっています。マイクロサービスが持つアジリティとレジリエンスのレベルはデジタルビジネスの変革に不可欠であるため、一般的には本番環境で稼働するマイクロサービスベースのアプリケーションの割合が急激に増加すると予想されています。

LFのExecutive DirectorであるJim Zemlinは次のように述べています。「今日の開発者は、さまざまな技術インフラストラクチャや、さまざまな問題に対応するための適切なツールの中から、不可能とも思える決断をしなければなりません。どのツールも学習コストや複雑さをもたらし、開発者はそれに対応する時間がありませんが、加速する開発やイノベーションに対応することが期待されています。NextArch Foundationは使いやすさを向上させ、開発者が次世代テクノロジーアーキテクチャの進化を推進するためのコストを削減します」

次世代アーキテクチャとは、データストレージや異種ハードウェアからエンジニアリングの生産性や通信など、さまざまなアーキテクチャの革新を表しています。これまで、この巨大な課題に対応するエコシステムは存在していませんでした。NextArchは、アーキテクチャと設計を通じてインフラストラクチャ抽象化ソリューションを活用し、開発、運用、プロジェクトプロセスを自動化して開発チームの自律性を高めます。企業は、デジタルトランスフォーメーションの過程で、製品化や商業化の問題を解決するための使いやすく費用対効果の高いツールを手に入れることができます。

また、LFのシニアバイスプレジデント兼プロジェクトゼネラルマネージャーであるMikeDolanは、次のように述べています。「これは大きな使命を持った重要な取り組みであり、オープンソースコミュニティでなければ実現できません。我々は、このコミュニティをサポートし、エコシステム全体の開発者に利益をもたらすオープンガバナンスの構築を支援できることを嬉しく思います」

さらに、LF AI&DataのエグゼクティブディレクターであるIbrahim Haddad博士は「顧問の役割でNextArch Foundationに参加できることに本当に興奮しています。過去5年間で、クラウド、人工知能、IoT、AR/VR、量子コンピューティング、サーバーレスコンピューティングなど、さまざまなテクノロジードメインで大きな進歩が見られました。これらの進歩により、膨大な量のオープンソースソフトウェア資産が生み出されました。主要な課題は、多様なコンピューティング環境をサポートし、エンタープライズデジタルトランスフォーメーションを可能にする単一の次世代アーキテクチャの下で、これらすべてのテクノロジーとソフトウェア資産を橋渡しすることです。NextArch Foundationはこの取り組みの中心であり、コミュニティを構築し、組織とコミュニティを結び付けてオープンな環境でこの課題に取り組むエコシステムを実現します」と述べています。

Linux FoundationとGraviti、オープンデータに
誰もがアクセスできるようにするプロジェクト「OpenBytes」を発表

米Graviti社は、開発者やデータサイエンティストのコミュニティをリードし、誰もが貢献できるデータ標準とフォーマットを作成します。

【参照リリース】LLinux Foundation and Graviti Announce Project OpenBytes to Make Open Data More Accessible to All
https://www.linuxfoundation.org/press-release/linux-foundation-and-graviti-announce-project-openbytes-to-make-open-data-more-accessible-to-all/

LFは、米Graviti社が先導する新しいProject OpenBytesを発表しました。Project OpenBytesは、データの標準やフォーマットを作成することで、オープンデータをより利用しやすく、アクセスしやすくすることを目的としています。

米Graviti社の創業者であるEdward Cui氏は、Uber社のAdvanced Technologies Groupで機械学習の専門家として活動していました。「長い間、実際のユースケースからの高品質のデータが一般的に不足しているため、多数のAIプロジェクトが妨げられていました」とCui氏は述べています。「AIの開発を進めるには、より高品質のデータを取得することが最も重要です。そのためには、コラボレーションとイノベーションに基づいて構築されたオープンデータコミュニティが緊急に必要とされています。Gravitiは、私たちの役割を果たすことは私たちの社会的責任であると信じています」

Project OpenBytesは、オープンデータの標準とフォーマットを作成することで、データ提供者の責任リスクを軽減できます。データセットの所有者は、様々なデータライセンスに関する知識がないため、データセットの公開に消極的な場合が多くあります。データ提供者のデータ所有権がしっかりと保護されており、自分のデータが悪用されないことを理解すれば、より多くのオープンデータにアクセスできるようになります。

また、Project OpenBytesでは、オープンプラットフォーム上で公開、共有、交換されるデータの標準フォーマットを作成します。統一されたフォーマットによりデータ提供者や使用者が必要な関連データを簡単に見つけられ、コラボレーションを促進することに役立ちます。これらのOpenBytesの機能により、高品質なデータがより入手しやすくアクセスしやすくなりますが、これはAIコミュニティ全体にとって大きな価値があり、繰り返し行われるデータ収集にかかる金銭的・労働的リソースを大幅に節約できます。

LFのジェネラルマネージャー兼プロジェクト担当上級副社長のMike Dolanは「Project OpenBytesとコミュニティは、より高品質なオープンデータセットへのアクセスを可能にし、AIの展開をより迅速かつ容易にすることで、学術的にも専門的にも、また大企業から中小企業まで、すべてのAI開発者に恩恵をもたらすでしょう」と述べています。

最大手のハイテク企業は、オープンデータの可能性と、オープンデータがいかにして学術的な機械学習の斬新なブレークスルーをもたらし、大きなビジネス価値を生み出せるかをすでに認識しています。しかし、さまざまな組織が協力して中立的で透明性の高いガバナンスを持つ、確立されたオープンデータコミュニティは存在しません。OpenBytesは、LFのガバナンスのもと、データの標準やフォーマットを作成し、良質なデータの提供を可能にするとともに、さらに重要なこととして、協調的で透明性のある方法でガバナンスを行うことを目指しています。

2000年頃からメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進、技術検証を実施、OSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。また、社内のみならず、講演執筆活動を社外でも積極的にOSSの普及活動を実施してきた。2019年より独立し、オープンソースの活用支援やコンプライアンス管理の社内フローの構築支援を実施している。

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