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「Open Source Forum 2019」開催 ― キーマンが語る企業や社会の要素となるOSS技術とは

2020年3月4日(水)
高橋 正和

Linux Foundationはカンファレンスイベント「Open Source Forum 2019」を2019年12月16日に開催した。Linux Foundation会員を対象に毎年開催される、招待制のイベントだ。

開会の挨拶に立ったLinux Foundationの日本担当バイスプレジデントの福安徳晃氏は、Open Source Forumはその年の注目のプロジェクトのリーダーとふれあうのが主旨と説明。2019年は特に企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)や社会インフラが主なテーマであり、そこで使われるエッジコンピューティングやAI、ブロックチェーンなどについての講演がなされた。

Linux Foundation 日本担当バイスプレジデントの福安徳晃氏

本稿では、Chris Aniszczyk氏によるLinux Foundationの活動についての講演と、Arnaud Le Hors氏によるHyperledger Fabricについての講演をレポートする。

Linux Foundationのプロジェクトになるには

Linux FoundationのDeveloper Relations担当バイスプレジデントでありCNCF(Cloud Native Computing Foundation)のCTO/COOであるChris Aniszczyk氏は、「Bringing an Open Source Project to the Linux Foundation」と題し、開発プロジェクトをLinux Foundationに参加させる方法について解説した。

Linux FoundationのChris Aniszczyk氏

Aniszczyk氏はまず、Linux FoundationのプロジェクトがRISV-VやAIなど幅広い領域にわたっていることを紹介。そして、持続可能なプロジェクトを対象にしており、Projects(プロジェクト)→Products(プロダクト)→Profits(利益)→Projects、というサイクルによるエコシステムを築くことを目的にしていると語った。

広い領域にわたるLinux Foundationのプロジェクト

持続可能に必要なのは1組織が支配的にならないことだという。Aniszczyk氏はプロジェクトの一般的なライフサイクルを「Launch(立ち上げ)」「Commercialization(商用化)」「Maintain(メンテナンス)」「Sustain(持続)」の4段階に分けて、Linux Foundationはそれぞれの段階をサポートすると説明した。それぞれのフェーズで必要な支援は異なるという。そして、Linux Foundationは、それぞれフェーズの違うプロジェクトを集めることで投資信託のような役割を果していると語った。

プロジェクトのライフサイクルの4段階

Aniszczyk氏は、Linux Foundationのさまざまなプロジェクトを、「コードか仕様か」「単一かアンブレラ(包括的な)プロジェクトか」の2つの軸でプロットしてみせた。中でもコード+包括の象限にはCNCFやHyperledgerなどが入り、いまLinux Foundationでも伸びている領域だという。

「コードか仕様か」「単一かアンブレラプロジェクトか」の2つの軸でプロジェクトを分類

CNCFの例

プロジェクトにとってLinux Foundationがもたらすものは何か。これについてAniszczyk氏は、透明性のある中立な場所であることを挙げた。たとえばKubernetesはGoogleの1社から始まったが、Linux Foundationのプロジェクトとなることでコントリビューターが増え、Googleのコントリビュートは量は増えているにもかかわらず割合は減少し、いまでは25%だという。「多くのプロジェクトは単一のオーナーから始まり、多様性によって健全に発展する。Linux Foundationの価値がそこにある」(Aniszczyk氏)。

また、GitHubにプロジェクトを置くだけの状態との違いとして、「プロフェッショナルな組織によるプロレベルのサービス」をAniszczyk氏は挙げた。

KubernetesへのGoogleのコントリビューションは量は増えているが割合は減少

Linux Foundationへの参加は、多くの場合は、プロジェクトとLinux Foundationとで話すことから始まる。プロジェクトへの支援は、知的所有権問題や、コミュニティ運営の支援などがあり、たとえばイベント開催の支援なども行なっているという。

こうした支援において、Linux Foundationは「アンナ・カレーニナの法則」、つまり「うまくいっているプロジェクトはどれも似ているが、困っているプロジェクトはそれぞれに違う」という方針で動いており、「『Linux Foundation Way』という決まったやりかたはない」とAniszczyk氏は説明した。

Linux Foundationに参加しようとするプロジェクトの要件には、OSI承認オープンソースライセンスであることや、Linux Foundationのメンバーのサポート、資産を中立にできることなどがある。「特に大切なのは、技術的なdo-ocracy(自発的な行動重視)のモデルで、それにより技術とビジネスを分ける」とAniszczyk氏。「また、商標の問題も大切だが、なかなか理解してもらえない。商標を持っていないと、たとえば『Kubernetes as a Service』という名前を使えなくなる」。

プロジェクトの要件

なお、現在では新規プロジェクトがLinux Foundationに参加するときには、できるだけ類似のアンブレラプロジェクトの傘下に誘導しているという。

たとえば、クラウドネイティブストレージのRookとKubernetesパッケージマネージャーのHelmはCNCF傘下に、機械学習モデルの共通フォーマットのONNXはLFAI傘下に、デスクトップアプリフレームワークのElectronはOpenJS傘下に入ったとAniszczyk氏は紹介した。

できるだけ類似のアンブレラプロジェクトの下に誘導

最後にAniszczyk氏はTipsとして、カスタマイズされたライセンスはやめてOSI承認オープンソースライセンスを選ぶこと、OSSプロジェクトがベストプラクティスに従っていることを認定するCII Best Practices Badgeを取得すること、コミュニティ作りが大事であること、セキュリティ開示プロセスの策定などを語った。

OSI承認オープンソースライセンスを選ぶ

なお、質疑応答では、プロジェクトが終了するときについてや、日本からの参加状況などについて会場から質問がなされた。

Hyperledgerはエンタープライズ向けブロックチェーン

IBMのArnaud Le Hors氏は、「Hyperledger Fabric - Blockchain for the Enterprise」と題して、ブロックチェーンのHyperledgerプロジェクトについて解説した。

IBMのArnaud Le Hors氏

Hors氏はまずブロックチェーンの基礎から説明した。現在の取引で使われている台帳(ledger)では、取引する企業ごとに個別の台帳(SoR)を持つため、非効率的で何かが間違ったときには照合が必要になるという。それに対してブロックチェーンでは台帳が互いに同期されていることが保証されるため、照合が不要になる。

ブロックチェーンでは台帳が同期されていることが保証される

ブロックチェーンにはいろいろな種類のものがある。「ビットコインなどの仮想通貨のイメージがあるが、IBMはブロックチェーンを新しい種類のデータベースであり、あらゆる業界で適用できるものと考えている」とHors氏は言う。

HyperledgerプロジェクトのHyperledger Fabricは、ブロックチェーンをエンタープライズで使うものだ。「既存のブロックチェーンではエンタープライズの要件を満たせないと判断して開発した」とHors氏。特徴としては、匿名ではないこと、プライバシーを守ること、パブリックではない許可型ブロックチェーンであること、ストアドプロシージャのようなスマートコントラクトの機能があること、マイニングをしないこと、モジュール型であることなどがあるという。

Hyperledger Fabricは、AWSやAzure、Google CloudなどさまざまなクラウドでホストされていることもHors氏は紹介した。

Hyperledger Fabricはエンタープライズ向けブロックチェーン

まだPoCだが、Hyperledger Fabricアプリケーションの事例もHors氏は説明した。IBMMが海運企業のマースクと始めたTradeLensは、海運コンテナのトレーサビリティの技術で、「ブロックチェーンにより、マースクだけを一方的に信頼する必要がない」(Hors氏)。

また、IBMがウォルマートと始めたIBM Food Trustは、食料品業界のサプライチェーンをブロックチェーンで透明化するもので、カルフールなども参加している。

TradeLensの事例

IBM Food Trustの事例

Hyperledger Fabricの主要なコンポーネントとしては、参加者を識別するMembership Servicesや、アプリケーションを開発するためのいろいろな言語のSDK、トランザクションを順序づけするOrderingと賛同をもらうEndorsementの2つのノードなどがある。

ただし「アプリケーション開発者はそんな細かいことを気にしなくていい」とHors氏。直接扱うのはSDKとスマートコントラクトだけだという。

Hyperledger Fabricのアーキテクチャと主要コンポーネント

アプリケーション開発者が直接扱うのはSDKとスマートコントラクト

Hyperledger Fabricは講演時点で、バージョン2.0の最終版に向けているところで、2020年1月にリリース予定。それ以降については、プライバシーと機密性、スケラビリティ、使いやすさなどの変更作業をしているという。

Hyperledger Fabric 2.0が近日リリース予定

Hors氏は最後に、VSCodeの拡張機能としてIBMが開発した「IBM Blockchain Platform」も紹介した。Hyperledger Fabricのアプリケーションやスマートコントラクトをローカルで作れるという。

VSCode拡張機能の「IBM Blockchain Platform」

* * *

クラウドとDXが従来型業界の重要課題となるにつれて、そこで活躍するOSSも開発プロジェクトの運用がより重要になってきている。Aniszczyk氏の講演は、Linux Foundationがどのように数多くのプロジェクトを支援しているかについて「フェーズの違うプロジェクトを集めて投資信託のように」「できるだけアンブレラプロジェクトの傘下に誘導」といった現在の方針が語られたのが興味深かった。

フリーランスのライター&編集者。IT系の書籍編集、雑誌編集、Web媒体記者などを経てフリーに。現在、「クラウドWatch」などのWeb媒体や雑誌などに幅広く執筆している。なお、同姓同名の方も多いのでご注意。

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