プロジェクト支援、リサーチ活動、エンジニア教育など、年次報告書「The Linux Foundation Annual Report 2021」に見る、Linux Foundationの活動トピックス
こんにちは、吉田です。今回は、12月7日に公開された最新の年次報告書「The Linux Foundation Annual Report 2021」から、今年のトピックスを紹介したいと思います。
プロジェクト支援
Linux Foundation(以下、LF)は、過去20年の間に、Linuxカーネルという単一のプロジェクトのサポートから、多くの異なるプロジェクト コミュニティへと拡大してきました。1,900人を超えるメンバーと数十万人の開発者が、最も重要かつ活発なオープンソースプロジェクトに参加し、クラウド、セキュリティ、ブロックチェーン、Webなど、業界を超えた技術領域で協力しています。
LinuxとKubernetesは、おそらくLFのプロジェクトの中でも最も目立っているわけですが、それだけではありません。ここでは、それらの取り組みのいくつかを紹介します。
- The RareCamp Projectは、患者が希少疾患のための遺伝子治療法を生み出すことを可能にするOpenTreatmentsソフトウェアプラットフォームのソースコードとオープンガバナンスを提供しています。Sanath Ramesh氏は、ご自身の息子が希少遺伝子疾患と診断されたことをきっかけに、このプロジェクトを立ち上げました。
- 毎週2億2千万人の顧客をより良くサポートするために、WalmartはHyperledger Fabricを搭載したシステムを用いて、5つの異なるサプライヤーから提供される25以上の製品の原産地を追跡できるようにしています。
- 火星ヘリコプター「Ingenuity」は、LFのYocto Project(現在は複数の惑星で展開されている)というカスタムデバイス開発用のLinuxディストリビューションで動作しています。
- Prometeo Projectは、看護師、消防士、開発者により、人工知能とIoTを使って消防士の安全を守るシステムとして作られました。最近では、携帯電話や腕時計との連携を強化し、双方向のアラートを提供したり、毒素暴露の平均値を時系列で把握したりしています。
このように、従来では考えられなかった分野でのオープンソース活用にLFが役立っていることがお分かりいただけると思います。
Linux Foundationリサーチの活動
LFはプロジェクト支援だけでなく、さまざまな団体と協力し、オープンソースにかかわるさまざまな調査を実施しています。今年は、下記の4つのレポートをリリースしました。
- 「The Fourth Annual Open Source Program Management (OSPO) Survey」
TODO GroupとThe New Stackとの共同で実施したオープンソースプログラムの普及と成果、主要なメリットと採用の障壁などを調査結果。 - 「2021 Data and Storage Trends Survey」
SODA Foundationと共同で実施したクラウドネイティブ、エッジ、AI、5Gの時代におけるデータとストレージの現状の課題、ギャップ、トレンドについての調査結果。 - 「2021 State of Open Source in Financial Services Report」
FINOS、Scott Logic、Wipro、GitHubと共同で実施した金融サービス分野におけるオープンソースの状況調査。 - 「The 9th Annual Open Source Jobs Report」
edX社との提携により、オープンソース人材の状況に関する実用的な洞察を提供。
ライブ&ハイブリッドイベントの新時代に向けて
今年は、対面でのイベント開催に戻ることが期待されながらも、変異株の蔓延などによりなかなか実現には至りませんでしたが、9月に米シアトルで実施された「Open Source Summit」を皮切りに、その後「KubeCon + CloudNativeCon」「Open Source Strategy Forum」「OSPOCon」などを立て続けに対面で開催しました。とはいえ、まだまだオンラインとのハイブリッド開催であり完全に戻ったわけではありませんが、少しずつ日常が戻ってきているように思います。このまま、早期に戻ることが期待されます。
ソフトウェア・サプライチェーン・セキュリティの重要性
12月に入って「Log4Shell」問題が発生するなど、今年もサイバーセキュリティに関する話題に事欠かない1年になりました。欧州連合(EU)のサイバーセキュリティ機関であるENISAは「Threat Landscape for Supply Chain Attacks」で、2021年は2020年に比べて4倍のソフトウェアサプライチェーンへの攻撃があると予測しており、さらに『この傾向は、政策立案者とサイバーセキュリティ・コミュニティが今すぐ行動を起こす必要性を強調している。そのため、将来起こりうるサプライチェーン攻撃を防ぎ、その影響を軽減しながら対応するための斬新な防御策を早急に導入する必要がある』と言っています。
2021年5月に米国で「国家のサイバーセキュリティの改善に関する大統領令」を発表するなど、サプライチェーンに攻撃の対象が移ってきているように感じます。LFでもこれに対応するようにOpen Source Security Foundation (OpenSSF)の立ち上げ、世界最大の認証局であるLet's Encryptの拡大、SBOM規格としてのSPDXのISO標準化、重要なオープンソースソフトウェアの脆弱性の特定と修正のための資金提供、安全なコーディング手法を向上させるための新たなトレーニングカリキュラムの構築などを行ってきました。
「Open19」でオープンなハードウェアエコシステムを構築
2021年4月に「Open19」というプロジェクトが開始されました。このプロジェクトでは、コンピュート、ストレージ、ネットワークのメーカーやエンドユーザーが競争力のある知的財産を保護しながら、差別化されたハードウェアソリューションを開発できるようなハードウェア標準にフォーカスしています。このOpen19が加わったことで、仮想化の屋根の下でハードウェアとソフトウェアの両方を提供することになります。
Open19は、エッジ環境から大規模なカスタムクラウドまで、あらゆる規模のハードウェアイノベーションにアクセスし、展開するためのフレームワークを提供することで、新しいソリューションの市場投入までの時間を短縮するとともに、運用コストを大幅に削減できます。
もともとこのプロジェクトは2016年にデータセンター展開におけるコスト、効率、運用の課題を解決しようとするクラウドインフラストラクチャのイノベーターのコミュニティによって設立されたもので、Open19テクノロジーをベースにしたソリューションは、現在、世界の主要プロバイダーで展開されています。
「Open Mainframe Project」で
次世代COBOLプログラマーを育成する
「Open Mainframe Project」は今年、記録的な貢献の伸びを見せました。これまでにOpen Mainframe Projectコミュニティから1億531万行以上のコードが書かれ、9,600以上のコミットがされています(20のプロジェクトおよびワーキンググループで100%の増加)。このプロジェクトがメインフレームを近代化し、IoT、クラウド、エッジコンピューティングへの道を開くためのガバナンスとイノベーションの礎であり続けるため、これらの数字はさらに増加することになると思います。
しかし、メインフレームの労働力は高齢化しています。実際に多くの組織でメインフレームが採用されていますが、担当する半数以上のエンジニアがまもなく定年を迎えます。多くの学校ではメインフレームのスキルやCOBOLやアセンブラのような重要な言語を教えることからシフトしているため、労働力の高齢化は世界的な問題になってきます。メインフレームが何であるかさえ知らない学生や、毎日メインフレームを使っていることに気づいていない学生もいます。
問題は、メインフレームはなくならないので、若いエンジニアをどのように獲得していくかということになります。LFは、教育やトレーニングを通じてスキルギャップを解消する支援を行うことを選択し、Open Mainframe ProjectのMentorship プログラムを通じて、BMC/Compuware、Broadcom、IBM、Micro Focus、Rocket Softwareなどのメンバー企業のリーダーたちと、オープンソース環境での実地体験を提供しました。
今後もLFはメインフレーム技術の礎として、次世代に向けたトレーニング、アクセス、リソースを提供する予定です。
* * *
このように、LFの多岐にわたる活動の内容を要約することは大変難しいことでしたが、多くの方にLFの活動を通じて、オープンソースがさまざまな場面で皆さんのお役に立っていることを知っていただければと思います。
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