AIは実社会でどのように活用されているのか⑧ー画像認識(6)(Image Recognition)
はじめに
前回は、医療におけるAI活用事例の中から、主に画像認識による病巣発見の取り組み状況を紹介しました。今回は検知対象を無機質に切り替えて道路や橋、トンネル、送電線などのインフラの異常を発見する取り組みを見ていきましょう。
インフラの点検AI
私の会社では、工場で生産される製品の外観検査をAIで行っています。4年前から取り組んでいるのですが、さまざまな企業の製造現場を知るにつけ、想像以上に人による目視検査が多いことを再認識しました。ディープラーニング技術により、こうした作業を軽減する取り組みは社会的価値もあり、やりがいのあることだと感じています。
視点を建物の外に移すと、道路や橋、トンネル、送電線などインフラを点検して安全な社会を守っている人たちがたくさんいます。実は当社でも電力会社の依頼でドローンやヘリで撮影した画像をもとに送電線の異常検知のPOC(実証実験)を行ったことがあるのですが、送電塔に登ったり送電線を渡ったりする技能者をLINE MANと呼ぶことを初めて知りました。“ラインマン”で検索するといろいろな画像が見られますが、その中から1つ、太陽電気工事株式会社という送電線架線電工会社のホームページの画像を紹介しましょう(かっこいいですね)。
現在、ラインマンの人手不足問題が発生しているそうです。こうした人たちの点検作業を助けるAIを開発しよう、今回は、そんな取り組み状況を紹介します。
送電線点検
基本的な原理は医療や工場製品の異常検知と同じです。あらかじめ撮影した正常画像と異常画像を用いて機械学習しておき、図1のように学習済AIを用いて本番画像に異常がないかを判定します。AIが異常の可能性ありと判断した部分にヒートマップ(色付け)を付けてくれるので、それを人間が確認して異常かどうかを判断します。
前回と同じくAI活用に取り組んでいる会社のリリースを中心に現状を見ていくことにしましょう。表1は、送電線や鉄塔の異常検知の取り組み事例をまとめたものです。この中から2つほどピックアップして紹介します。
企業 | 内容 | リリース |
---|---|---|
東京電力、ブルーイノベーション、 テプコシステムズ |
送電線点検用ドローン自動飛行システム | 2021/5/11 |
TDSEと 東京電力パワーグリッド |
架空送電線AI診断システム | 2021/5/18 |
三豊AI開発 | 「AI送電線点検システム」 | 製品情報 |
アラヤ | AIドローンによる送電線点検 | 2020/5/16 |
テラドローン | 配電設備向けUAV点検サービス | 2019/10/9 |
Automagi | AIを活用したインフラメンテナンス事業 | 2020/8/28 |
ブルーイノベーションと東京電力HGほか
2021年5月11日に東京電力ホールディングス、ブルーイノベーション、テプコシステムズの3社は「送電線点検ドローン自動飛行システム」を共同開発し、翌月から東京電力パワーグリッド社がこれを使って送電線の点検業務を開始すると発表しました。ヘリコプターからの撮影や地上から高倍率スコープを使って目視検査する作業に比べて、効率化とコスト削減が可能になったそうです。
この発表で注目すべきは、ドローンの自動飛行です。送電線の位置を検知する「対物検知センサー技術」や、ドローンと送電線の距離を一定に保つ「飛行制御技術」、送電線をブレなく撮影するための「振動制御技術」など、長年の苦心が見事に花開いています。この発表では、AIによる異常判定は含まれていませんが、ヘリ撮影や高倍率スコープの目視確認する技術者の確保と手間を考えたら画期的な技術だと思います。まだニュースの続報は見当たりませんが、予定通り点検業務に実運用されて効果が上がっていることを期待しています。
TDSEと東京電力パワーグリッド
撮影した画像をAIが判定している取り組みもあります。AIベンチャーのTDSE社と東京電力パワーグリッド社が共同開発した「架空送電線AI診断システム」です。こちらはヘリで撮影した画像を使っており、2016年10月に“熟練の保守作業員がこれまでに確認した異常についてAIでも同じように検出できるか”というテーマでPoCを行い、2017年11月から開発しています。
この取り組みは、東京電力グループのYouTubeチャネルで動画が公開されています。ヘリだけでなくドローンの撮影も手掛けており、東北電力ネットワークとも相互利用するとのことなので、さらなる性能向上と実用化に期待です。
AIを利用した異常検知は、実は撮影技術が非常に重要です。学習に用いた画像と本番で判定する画像の撮影状態が異なると正常に判定できません。私達がやっている工場製品の異常検知は製造ライン上に定点カメラを設置し、均一な照明となるようにライトの設置に気を配って撮影しているのですが、それでも輝度のばらつきがあったりして苦労します。医療現場の場合は、一人ひとりの個体差があるほか、内視鏡やエコーなどはスコープ自体が動き回るので難易度が増します。
インフラの異常検知は、ドローンやヘリなどの撮影画像なので、天候や明るさ、写真を取る位置などが大きく異なり、さらに動きながら撮影した画像なので大変です。できるだけ安定した画像を撮り、その画像を学習で学んだ画像に近づけるように調整する、などの前処理がとても重要なのがインフラ系の難しいところです。
道路点検
目線を空から陸に下げて、道路の点検作業にAIを活用する取り組みを見てみましょう(表2)。道路の点検のポイントは対象範囲が広いことです。全国にくまなく広がる道路の異常を見つけるには、やはり一般の車自体が撮影マシンとなる必要があります。
企業 | 内容 | リリース |
---|---|---|
アーバンエックステクノロジーズ | スマホやドラレコから道路点検 | 2021/3/17 |
イクシス | 道路ひび割れ点検・ガードレール支柱の錆点検をリリース | 2021/5/13 |
NTTフィールドテクノと NTT西日本 |
AIを活用した道路路面診断ソリューションの提供を開始 | 2018/3/29 |
福田道路とNEC | 舗装損傷診断システム「マルチファインアイ」開発 | 2017/1/31 |
近藤組 | スマホで撮影した動画で道路の損傷を点検する「AI-PATROL」 | 2020/7/15 |
インフロニアHDと NTTドコモ |
道路運営事業のDX協業による実証実験を開始 | 2022/4/18 |
西日本高速道路と NEXCO西日本イノベーションズ |
高速道路構造物点検にAIを導入し、ひび割れを自動検出 | 2021/4/21 |
リコー | AIを活用した路面モニタリングサービスの提供開始 | 2019/8/1 |
NTT | 道路などのインフラ設備の錆を検出 | 2022/5/16 |
首都高技術、朝日航洋、 エリジオン |
GISと3次元点群データを活用したインフラ点検システム「インフラドクター」 | 2017/9/11 |
東芝 | インフラ点検向けのAIを開発 | 2022/5/23 |
キヤノングローバル | AIを活用した高速道路の点検サービス | 2021/12/23 |
アーバンエックステクノロジーズ
アーバンエックステクノロジーズ社は、スマホやドライブレコーダーから取得した映像データをAI分析することにより道路損傷箇所を検出するサービス「Road Maneger」を開発・提供しています。注目ポイントは、撮影用に高額な専用車両を走らせる代わりに、スマホやドライブレコーダーを車に積むだけで簡単に画像データを収集できる点です。これまで全国20の自治体の協力を得てデータを蓄積し、三井住友海上火災保険社の専用ドラレコを積んだ「ドラレコ・ロードマネージャー」という商品を021年12月から販売開始しています(図2)。
イクシス
イクシス社は、2022年5月13日に道路AI解析サービスを発表しました。図3のように一般車両に搭載した市販のドライブレコーダーで撮影した動画をAIが自動解析し、道路舗装面のひび割れやガードレールの支柱の錆などを点検できます。
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