AIは実社会でどのように活用されているのか⑧ー画像認識(6)(Image Recognition)

2022年7月20日(水)
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)

橋梁やトンネル、ダムの点検

普通に生活していると気づきませんが、橋やトンネル、ダムなども安全確保のためさまざまな人たちが点検作業を行ってくれています。これらの作業を支援するために、いろいろな業界から参入してAIの開発を行っています(表3)。

表3:橋梁やトンネルの点検支援の取り組み事例

企業 内容 リリース
日本ユニシスと
日本海コンサルタント
AI橋梁診断システム「Dr.Bridge」を提供開始 2020/5/29
大日本コンサルティングと
FLIGHTS
ドローンを利用した橋梁点検と劣化推定AI 2022/2/25
2019/12/6
NTTドコモと京都大学 動画撮影で橋のたわみと車両重量から橋梁劣化推定AI開発 2019/12/5
PAL構造 橋梁ひび割れなどの点検のためのAI橋梁点検・診断支援システムの開発 2022/1/26
フォーラムエイト AI損傷度判定支援システムで橋梁の点検支援をクラウドサービス化 2022/3
LiLzと
新日本コンサルタント
リモート点検サービスLiLz Gaugeを用いて橋梁の維持管理(予防保全) 2022/6/24
応用地質/td> トンネル点検を効率化・高精度化する「トンネルAIシステム」を開発 2020/9/10
sMedioと西松建設 山岳トンネル覆工コンクリートの表面品質評価を行うAI「A.E.SLiC」を開発 2021/3/19
八千代エンジニヤリング 鳴子ダム堤体コンクリートAI点検 2020/11

ユニシスと日本海コンサルタント

日本ユニシスと日本海コンサルタントは、AI橋梁診断システム「Dr.Bridge」を開発・発売しています。橋梁やトンネルは5年に一度の目視橋梁の点検が義務化されており、全国70万もの橋の点検作業に多くの人手がかかっています。スマホやデジカメで撮影するだけでAIが劣化診断し点検調書を自動撮影してくれるので、これらの点検作業の効率化が期待されます。わかりやすいプロモーションビデオ動画が公開されています。

FLIGHTSと大日本コンサルタント

大日本コンサルタントは、2019年頃から橋梁劣化推定AIの開発・実証実験を行っていましたが、ドローン総合サービス会社FLIGHTSと共同で2022年4月からドローンによる橋梁点検の運用受託サービスを開始しています。橋梁点検は送電線点検と同じく撮影が大変なので、「ドローンで撮影」+「AIで劣化診断」という組み合わせが黄金パターンとなりそうです。

コンクリートの状態チェック

道路や橋梁、トンネルなどの点検に使われるAIの基礎技術として、コンクリート状態の品質判定AIがいろいろな企業で開発されています。主な事例を表4にまとめましたが、この中から2つピックアップして紹介します。

表4:コンクリートの状態チェックの取り組み事例

企業 内容 リリース
日工 コンクリートプラントに導入可能な「骨材判定AI」を開発して運用開始 2022/2/28
鹿島 アジテータ車から荷卸しされるコンクリートの状態を判定する「コンクリート・アイ」を開発 2019/12/25
安藤ハザマと金沢工業大学 コンクリートの締固めAI判定システムを開発し実証実験 2021/6/21
會澤高圧コンクリートと
アイザワ技術研究所
生コンクリートの品質判定AIを開発して実証実験 2021/1/19
太平洋セメント スランプ予測技術 2019/5/23
首都高技術、産業技術総合研究所、東北大学 コンクリートのひび割れをデジタル画像から自動検出 2017/8/3
ニコンシステム コンクリート構造物点検アプリ「SwallowAI」発売 2021/4/26
キヤノングローバル ひび割れ検知AI技術 2019/11/19
三菱電機 AIひび割れ自動検出技術 2021/11/4

日工

株式会社日工は、コンクリートプラントに導入可能な骨材判定AIシステムを開発し、2022年3月より運用を開始しました。これは、プラント受材設備に骨材(砂利や砂などの総称)を受け入れるときに、オーダー通りの骨材かどうかをAIが判定するものです。図4のような骨材の違いをAIが自動判定することにより、人間の判断だけで行って生ずる骨材違いのミスを防止します。

日工の骨材判定AI

図4:日工の骨材判定AI【出典】日工のニュースリリース

鹿島

コンクリート自体の良否を判定するAIの事例も紹介します。鹿島はアジテータ車(生コン運搬車)から土木現場に荷卸しされる動画をモニタリングし、コンクリート品質をAIが判定するシステムを開発しています。コンクリートの品質は、豆板(空隙の多い不均質な部分)や未充填などのトラブルにつながるため、一般にアジテータ車5〜35台に1回程度の抜き取り検査をやっている状況だそうです。

これをサンプリングではなく全量検査にするため、図5のように荷卸し受け入れ部分にビデオカメラを付け、全アジテータ車から荷卸しされるコンクリートをAIがリアルタイムで自動品質判定します。全量検査なので、品質を大きく安定させることが期待されます。

アジテータ車から荷卸しされるコンクリート状態を監視

図5:アジテータ車から荷卸しされるコンクリート状態を監視【出典】鹿島のニュースリリース

<<Note>>AI異常検知の導入目的

工場製品、医療、インフラなど対象は異なりますが、一般に目視検査に頼らずAIを使った外観検査を導入する目的として次のような点が挙げられます。

  • a. チェック漏れを防ぐ(二重チェック)
    人が見過ごしてしまう異常をAIが発見し、品質チェック精度が高まる
  • b. 全量検査を実現
    サンプルチェック(抜き打ち検査)していたものを、AIが全量リアルタイムチェックを行う
  • c. 省力化・負荷軽減
    目視検査を行っている人たちの作業負荷の軽減や省力化を実現する

おわりに

医用分野と同じく、インフラ分野でもAIの画像認識技術を使った異常検知がようやく花開こうとしている状態です。品質の良い画像を撮影しにくいという課題を乗り越え、画像処理技術の工夫や改良を続けた結果、実証実験(POC)を超えた“本番運用”の事例が色々と出てきそうですね。

著者
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
株式会社システムインテグレータ

東芝、SCSKを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立し、現在、代表取締役社長。2006年東証マザーズ、2014年東証第一部、2019年東証スタンダード上場。

前職で日本最初のERP「ProActive」を作った後に独立し、日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」を開発。日本初のWebベースのERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発し、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」など、独創的なアイデアの製品を次々とリリース。

主な著書に「Oracle8入門」シリーズや「SQL Server7.0徹底入門」、「実践SQL」などのRDBMS系、「グラス片手にデータベース設計入門」シリーズや「パッケージから学ぶ4大分野の業務知識」などの業務知識系、「実践!プロジェクト管理入門」シリーズ、「統合型プロジェクト管理のススメ」などのプロジェクト管理系、最近ではThink ITの連載をまとめた「これからのSIerの話をしよう」「エンジニアなら知っておきたいAIのキホン」「エンジニアなら知っておきたい システム設計とドキュメント」を刊行。

「日本のITの近代化」と「日本のITを世界に」の2つのテーマをライフワークに掲げている。

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