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AIは実社会でどのように活用されているのか⑦ー画像認識(5)(Image Recognition)

2022年6月9日(木)
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)

はじめに

2018年のAIブームの頃に、AI活用が大きく期待された分野の1つが医療です。皮膚がんを見分ける、内視鏡でがんを発見する、創薬分野で新薬を生み出す、慢性病の予防、など多くの取り組みが紹介され、世界中でスタートアップ企業が誕生しました。あれから4年、医療分野におけるAIの浸透、実用化はどうなっているのでしょうか。

医療への取り組み(ガバメント)

まずは、厚生労働省の取り組み状況から見ていきましょう。

保健医療分野AI開発加速コンソーシアム

厚生労働省は、2018年に「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」を設置し、保健医療分野におけるAI利活用を加速するための検討を行っています。2018年7月の第1回 検討会資料では「AIの実用化が比較的早いと考えられる領域」として下表①〜④、「AIの実用化に向けて段階的に取り組むべきと考えられる領域」として⑤⑥が挙げられ、それぞれの実用化に向けた工程表を示しています。

4年後の2020年5月に開催された第11回検討会の資料では、これらの6領域に加えて⑦〜⑨の3領域が追加され、これまでの進捗を踏まえて2020年以降の工程表が提示されています。

表1:保険医療分野AI開発加速コンソーシアムの工程表

第1回の工程表(2017〜2021以降) 第11回の工程表(2020〜2023以降)
①ゲノム医療 ①ゲノム医療
②画像診断支援 ②画像診断支援
③診断・治療支援 ③診断・治療支援
④医薬品開発 ④医薬品開発
⑤介護・認知症 ⑤介護・認知症
⑥手術支援 ⑥手術支援
⑦予防(PHR)
⑧人工知能開発基盤
⑨支払業務の効率化
関連する法制度

各領域の関係は、図1の俯瞰図がわかりやすいです。医療分野全体を「予防」「診断」「治療」「ケア」領域と「医療・支援技術」「基盤整備」領域に整理し、表1の9項目がマッピングされています。

健康・医療・介護・福祉分野においてAIの開発・利活用が期待できる領域

図1:健康・医療・介護・福祉分野においてAIの開発・利活用が期待できる領域【出典】保健医療分野AI開発加速コンソーシアム

2つの工程表を比較してみると、2018年の(参考)工程表では3年後の2021年頃には各領域で「実用化」を期待していたのに対し、2020年の工程表では少し遅れている状況が見てとれます。

2022年4月に行われた第12回検討会では、2021年10月から5回にわたって行われた「新AI戦略検討会議」のアウトプット「新たなAI戦略について」が説明されています。この資料の中でも「各取り組みはおおむね計画通り進捗しているが、進行中の取組が多く、効果に付いては、まだ十分に実感できていない」と認めており、新たなAI 戦略の目標設定を行う必要があるとして5つの戦略目標を掲げています(図2)。

  • 戦略目標0:非日常への対処
  • 戦略目標1:人材
  • 戦略目標2:産業競争力
  • 戦略目標3:技術体系
  • 戦略目標4:国際
「AI戦略2022」の概要

図2:「AI戦略2022」の概要【出典】新AI戦略検討会議

人材を育成し、産業競争力を付け、技術体系を確立し、国際社会と連携するという4つの戦略目標とともに、目標0としてパンデミックや大規模災害など“非日常への対処”を差し迫った危機への対処として挙げているのが特徴ですね。

今後「特に重点的に議論していく内容」として「AI利活用を支えるデータの充実」「人材確保等の環境整備」「日本が強みを有する分野とAIの融合」の3つを掲げており、具体的な取り組みは民間企業や大学などの研究機関に、その支援はAMEDなどに任せて、政府の立ち位置を意識した戦略を論じる方向性を感じます。

AMED(Japan Agency for Medical Reserch and Development)

AMEDとは日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Reserch and Development)の略で、2015年に設立された日本の医療研究開発を支援する独立行政法人です。日本版NIH(アメリカの国立衛生研究所)とも呼ばれる組織で、図3に示す6つの「統合プロジェクト」モダリティ(分類)において研究開発の推進と成果の実用化に取り組んでいます。

6つのプロジェクトを横断して疾患研究を推進

図3:6つのプロジェクトを横断して疾患研究を推進【出典】AMEDのホームページ

画像診断支援の仕組み

CADの機械学習

AIによる取り組みで期待が大きい画像診断支援(表1の③)の現状を見てみましょう。一般にAIなどコンピュータによって病巣の検出や診断を行う技術のことをCAD(Computer Aided DetectionまたはDiagnosis)と呼びます。DがよくあるDesign(設計)ではなく、Detection(検出)やDiagnosis(診断)になっているのでご注意ください。どちらもCADだとややこしいので、検出(Computer Aided Detection)をCADe、診断(Computer Aided Diagnosis)をCADxと呼びます。CADeは病変を疑う箇所にマーキングするAI、CADxは病変の良性・悪性の度合いを数値化するAIです。

レントゲンやエコー、MRIなどの診断画像をもとにがんやポリープなどの疾患を発見するCADにおけるAIは、医療を飛躍的に向上させる技術として期待されました。そして、現在に至るまで世界中で実証実験や実用化が行われています。

AIと言っても、SVM(サポートベクターマシン)などの統計技術ベースで異常を検知する手法とディープラーニングを使う方法があります。基本原理は図4のように学習フェーズと本番フェーズからなる機械学習です。ディープラーニングのケースで解説しましょう。

ディープラーニングによる画像診断の学習と推論

図4:ディープラーニングによる画像診断の学習と推論

学習フェーズでは、正常な患部画像と病巣のある画像とを用いて診断AI(Diagnostic)を学習します。AIが正常か病巣ありかを判定し、間違った場合にそれをフィードバックすることで誤差逆伝播という仕組みでAIの判定能力が高まっていきます。

推論フェーズでは、学習済AI(高い精度で異常を指摘できる)を実際の読影に使います。AIの学習は「学習用のデータを用意するのが大変」という課題がありますが、こうして本番で使った画像はそのままラベル(異常あり/異常なし)を付けて蓄積できるため、それらを使うことで追加学習し、精度を高くできます。

CADの利用形態(AIと医師の位置関係)

AI(CAD)が医師の助手だとして、助手の立ち位置が前か後かによって3つの利用形態があります。

  • a. First Reader:AIがスクリーニングし、異常の可能性がある画像のみ医師が診る
  • b. Concurrent Reader(同時リーダー):AIが判定した画像を医師も同時に読影する
  • c. Second Reader:医師が読影した後、AIが画像診断する

図4の推論フェーズの場合、AIがスクリーニングして病巣の疑いがある画像だけ医師が診るのがFirst Readerです。一方、AIの判定(一次)した画像を全て医師が判定(二次)するのがConcurrent Readeです。こちらは医師の省力化にはなっていませんが、医師が見過ごしてしまうような異常をAIが発見することが期待できます(文書ソフトが入力ミスの疑いある箇所に下線を引いてくれるような役割ですね)。

一方、最初に医師が読影し、その後AIが判定するのがSecond Reader(図5)です。従来通りの読影作業の後段に、AIが念のために読影漏れを調査するスタイルです。現在、薬事承認を受けているAIはほとんどSecond Readerで、AIの診断に影響されずに今まで通りやりなさいということですね。人体に関わることなので慎重にAI活用が試されている段階です。

Second Reader

図5:Second Reader

AIの画像診断は、レントゲン(X線検査)、CT(コンピュータ断層撮影検査)、MRIやMRA(磁気共鳴画像診断検査)、エコー(超音波検査)、PET(核医学検査)、内視鏡検査など、さまざまな検査で取り組まれています。テレビドラマの「ラジエーションハウス」で一躍知られるようになった放射線技師の仕事はこれらの撮影と読影補助ですが、AIがそれを支援してくれるわけです。

人間の体を製品に見立てれば、工場における異常検知と仕組みはほぼ同じです。工場の製造ラインの検査の多くがリアルタイム検査なのに対し、診断AIは画像をバッチ処理で判定できるケースも多いのが特徴です。人間ドッグや学校健診などで撮影された大量画像を一気に検査・スクリーニングしてくれるAIという感じですね。ただし、内視鏡やエコーなどは医師が体内を診ながら検査する方法なので、AIも疑わしい箇所をリアルタイムでマーキングします(同時リーダー方式)。

<<Note>>世界初の商用CAD

世界で初めて商品化されたCADは、R2テクノロジー社のImage Checkerです。マンモグラフィー(乳房専用のX線撮影)の画像から乳がんを検出するもので、1998年に米国FDAから認可を受け、2000年に日本の薬事承認を得ています。それから20数年間の間に撮像技術が多様化する中で、AIの登場により検出や診断技術の飛躍的な向上が期待されているのです。

著者
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
株式会社システムインテグレータ

東芝、SCSKを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立し、現在、代表取締役社長。2006年東証マザーズ、2014年東証第一部上場。

前職で日本最初のERP「ProActive」を作った後に独立し、日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」を開発・リリース。日本初のWebベースのERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発し、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」、アプリケーション設計のCADツール「SI Object Browser Designer」など、独創的なアイデアの製品を次々とリリース。最近は、AIを利用したサービスに取り組んでいる。

主な著書に「Oracle8入門」シリーズや「SQL Server7.0徹底入門」、「実践SQL」などのRDBMS系、「グラス片手にデータベース設計入門」シリーズや「パッケージから学ぶ4大分野の業務知識」などの業務知識系、「実践!プロジェクト管理入門」シリーズ、「統合型プロジェクト管理のススメ」などのプロジェクト管理系、最近ではThink ITの連載をまとめた「これからのSIerの話をしよう」「エンジニアなら知っておきたいAIのキホン」を刊行。

「日本のITの近代化」と「日本のITを世界に」の2つのテーマをライフワークに掲げている。

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