連載 :
インタビューHCDプロセスは顧客と伴走型でサービスを考えていくSIerにとっても必要なスキル
2022年12月6日(火)
はじめに
毎年恒例、HCD-Net認定人間中心設計専門家へのインタビュー。2022年は、日本を代表するSlerである株式会社NTTデータの宮島雄一さんに、BtoBの受託案件で取り組む人間中心設計プロセス(HCDプロセス)の取り組みについて伺いました。
イタリアの現地UXチームに参画して得られたユーザー視点
HCDとの出会いはいつごろだったのでしょうか。
- 宮島:私は新卒でNTTデータに入社しました。入社後は様々なシステム開発に従事し、複雑なシステム開発の基本スキルやプロジェクトマネジメントスキルを磨いていきました。しかし、システム開発を一通り把握した頃から、今後はお客様に言われた通りにシステムを開発するだけでは不十分であり、お客様は当社に対してより付加価値のあるシステム開発を求めているのではないかと感じることが多くなりました。その結果、もう少し上流から受託したサービスがどのような価値を創出するかを検討することが、当社にとっても必要だという認識に至りました。そのような背景の中、当社のイタリアの専門組織がユーザ目線でのサービス設計をシステム開発に連携する「上流検討のサービスデザイン」に取り組んでおり、私は2017年頃にこの専門部署に参画する機会を得ました。イタリアの現地チームと現地プロジェクトに加わり、お客様と接し納品まで取り組んだ経験がHCDに関わるきっかけになりました。
そのときは、どのような関わり方をされていたのですか。
- 宮島:UXデザインを担当しているデザイナーたちが4、5人でチームを作っていました。その中にメンバとして参画し、基本的なサービスデザイン業務に従事しました。クライアントはイタリアの大手鉄道会社だったのですが、経営層のヒアリング結果や調査結果などを元に鉄道会社の将来的な業務の流れをオペレータやエンドユーザの目線で整理していきました。クライアントはVRを活用し、より効率的に業務を遂行する方式を検討しており、技術専門チームと連携しながらVRを駆使した業務オペレーションを整理していきました。それらの検討結果を鉄道会社の経営幹部層にプレゼンテーションし、その後の検討やシステム開発につなげるような動きをとりました。
そのなかで、UXチームから宮島さんには実際にどのようなタスクが渡されたのですか。
- 宮島:サービスデザインに必要な基礎調査や、オペレータやエンドユーザを含めたCX全体の整理に従事しました。日本人が発案したということで狩野モデルを用いた機能の優先度付けを取り込みたいというリーダーの要望があり、それらの要望を含めて全体のCX整理に尽力しました。最終的に鉄道会社の現状とあるべき姿をモデル化し、それらを実際の技術チームと連携してVRを駆使したプロトタイプまで落とし込み、最終的に経営層への提案プレゼンの一部を担当しました。当時常駐していたイタリアのデザイン組織には日本人が他にいなかったため、組織のトップからも様々なレクチャーやアドバイスをもらいました。特に、「ビジネス目線とユーザ目線を取り込みながらシステムやサービスを考えること」が今後は非常に重要であり、創出したサービスやシステムの成功に向けて情熱をもって取り組むことが大切だという話はとても印象に残りました。この経験を契機にユーザを中心に据えたサービスデザインとシステム開発を融合させていくことの重要性を改めて理解することができました。
その後、帰国されて様々なプロジェクトに参加されたそうですが、HCDプロセスはどのような点に反映されていますか。
- 宮島:帰国後は日伊合同プロジェクトや、サービスデザインとシステム開発をセットにしたプロジェクトの提案、実施を推進してきました。また、既存の大規模システムの刷新や改善をエンドユーザ目線で遂行するようなプロジェクトも、HCDのプロセスを導入して推進しています。既存サービスの改善の場合、操作ログ、アプリの評価コメント、などからユーザに価値が提供できていない機能の優先度をさげてMVPの範囲を整理したり、開発の優先度を設定するなどの実践を行っています。また、当社が扱う基幹系システムは高い品質を満たす形でサービスを提供していますが、新規のサービスはこれらの基幹システムとの連動を通じて作り上げていきます。そのためユーザ目線での開発に加えて、基幹システムの開発サイクルと連動したプロジェクトのリードが重要となります。
受託型から伴走型への変化
HCDを知った後、プロジェクトマネジメントをするうえでの変化はありましたか。
- 宮島:HCDを理解する前は、プロジェクトの意義や目的の多くは顧客から提示されるものであり、我々はシステムをどのように創り上げるかというHOWの部分を中心に取り組んでいました。HCDを理解した後では、プロジェクトマネジメントにおいてユーザへの提供価値への意識を強く持つようになりました。最近ではサービスデザインと大規模システム開発をセットで提案して遂行する案件が増えてきています。
その後プロジェクトマネジメントするなかで意識している点はありますか。
- 宮島:ビジネス検討とユーザ目線でのデザイン検討、システム開発は一体になってサービスを創り出して行くべきだと考えています。しかし、実際にはシステム開発として定められたQCDでシステムを提供していく必要もあるため、検討を現実的に実現可能な形に落とし込むことも重要と考えています。限られた予算とリソースの中でビジネスオーナー、デザイナー、システム開発メンバが協力しながら落とし所を決めていけるように意識してプロジェクトを推進するようにしています。そのためにも関係者の意識があっているか、ギャップが出ていないかを意識しながらHCDの検討プロセスを整え、推進することが重要だと思っています。
体系的にスキルが棚卸しできた
宮島さんがHCD専門資格を取るに至った背景を教えていただけますか。
- 宮島:認定資格を取得した当時は、サービスデザインのスキルを社内で測る仕組みが存在しておらず、HCD-Netが日本では人間中心設計の資格としてはデファクトになりつつあると思ったので、取得しました。私自身は、一つの専門性を深く追求するタイプではなく、様々な業務経験やノウハウを有するゼネラリスト型の人材を目指しています。その中で自分の主軸としたい領域が幾つかありますが、そのうちの一つがHCDだったこともあり、受験しました。ロジカルシンキングのような基本スキルとしてもデザイン力、人間中心設計スキルは重要になると感じています。私自身が専門性の高いデザイナーをめざしているわけでないですが、デザイナーの方々と協業して大規模案件をリードしていく際にHCDの体系的なスキルは非常に重要だと考えています。
実際に受験されていかがでしたか。
- 宮島:書く量が結構大変だなと思いました。これまで経験してきたプロジェクトと、発揮したスキルをマトリックスで見ることで、自分の経験を体系的に棚卸しできたのは非常に良かったと思います。
これから受験される方たちに伝えたいことがあれば、ひと言アドバイスをお願いします。
- 宮島:ご自分が所属している会社がサービスデザインを専門としている会社でなくても、今後様々な職種においても「ユーザ目線」に立って物事や企画を考えることは基本的なスキルになると思います。デザイナーとしての専門性を追求する人以外にとっても、HCDのプロセスを理解し、業務に組み込んで進める力は重要になると感じています。
宮島さんにとって、「ユーザー目線」とはどのように捉えていますか。
- 宮島:HCDのアプローチはプロダクトアウト的な発想よりもマーケットインに近いと考えています。エンドユーザやマーケット、顧客側の目線から価値を考えることを基本姿勢として持つことが必要だと思います。当社はBtoBやシステム開発という分野において、顧客の要望を理解するスキルは元々持っていますので、顧客に加えてエンドユーザーについても考える範囲を広げることが重要だと考えています。
ありがとうございました!
人間中心設計専門家・スペシャリスト認定試験
あなたも「人間中心設計専門家」「人間中心設計スペシャリスト」にチャレンジしてみませんか? 人間中心設計推進機構(HCD-Net)の「人間中心設計専門家」「人間中心設計スペシャリスト」は、これまで約1600人が認定をされています。ユーザーエクスペリエンス(UX)や人間中心設計、サービスデザイン、デザイン思考に関わる資格です。
人間中心設計(HCD)専門家・スペシャリスト 資格認定制度
受験申込受付期間:2022年11月15日(火)~12月6日(火) 16:59締切
主催:特定非営利活動法人 人間中心設計機構(HCD-Net)
応募要領:https://www.hcdnet.org/certified/
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