PR
連載 :
  インタビュー

スケジュール管理と経路検索が連携する「RODEM」の開発チームが味わった産みの苦しみ

2018年12月3日(月)
羽山 祥樹 (はやま よしき)

交通費の精算がめんどうだ――。外回りの多い会社員には、共感できる悩みではないだろうか。

駅すぱあと」の株式会社ヴァル研究所が開発した「RODEM(ロデム)」は、カレンダーに行き先を登録するだけで、経路の検索から、交通費の精算までを自動化する、画期的なサービスだ。手間を87%も削減できるという。

そのプロダクトオーナーをつとめるのが伊藤英明さん(HCD-Net認定 人間中心設計専門家)だ。ベテランのUXデザイナーでもある。

伊藤英明さん(株式会社ヴァル研究所)
伊藤英明さん(株式会社ヴァル研究所)

RODEMの開発では、シビアな判断も迫られた。プロダクトオーナーとしての工夫と苦労を、伊藤さんに聞いた。

――RODEMの開発中には、苦しい意思決定もあったと聞きました。どのようなものだったのですか。

もともとは、RODEMはモバイルアプリとして、つくりはじめたんです。でも、ベータテストで利用してもらったら、コンセプトからして、ユーザーの行動をとりちがえていたことに気がつきました。

だから捨てたんです。モバイルアプリをバッサリと。まるまる3カ月分ぐらいの工数を、です。

忘れもしない、リリース前の開発中、ゴールデンウィーク明けの、開発合宿でのことです。アプリもできあがっている。ベータテストのデータを集めて、今後の方針を決めようとしていました。

ところが、ベータテストの結果、「モバイルアプリでは、出しても使われない、使いものにならない」というデータがそろってしまったのです。

2日間の合宿の、その終盤。「これはやっぱり、出しても使われないよね」という話になりました。

チーム全員で、出さない、と決めました。

――出さない、という話を切り出したとき、チームの反応はいかがでしたか。

「やっぱりそうだよね」という感じでした。開発チームの中では「しょうがない、たしかにそういう状況だ」という納得感がありました。反発はあまりなかった。

むしろ、ここまでつくってしまったけれど、リリースしなくて、社内的に大丈夫なのか、という心配をしていたほどです。

――リリースしない、とまで思わせる材料というのは、何だったんですか。

ゴールデンウィーク前までしていたベータテストは、具体的には、UXデザインのプロセスでいう「行動観察」を行うためものでした。

RODEMのモバイルアプリを、社内外の営業など外出のあるメンバーに使ってもらいました。そのようすを見るために、僕も営業回りを一緒にしました。行動観察にはポイントがあって、営業メンバーがRODEMを使っているところで、いっさい口出しをしないこと。操作を間違っても、困っていても、どう使うのかずっと見ている。

朝の混雑する時間帯で、RODEMが提示したとおりには乗り換えられない、というような場面にも遭遇しました。そういうときに、営業メンバーを観察していると、あれ、駅すぱあとで調べているな、とか、Googleマップを見ているな、とか、そういう行動をとっていました。

「移動中に、RODEMは見ないんですか?」と、何度も聞きそうになってしまうんですけど、ただ黙ってこらえて。

モバイルアプリとしてルート検索をするならば、駅すぱあとやGoogleマップに、ユーザーは慣れている。そこからスイッチして、RODEMのアプリを使ってもらうのは難しい。それが、すぐに見てとれた。

行動観察は僕だけではなく、開発のメンバーで分担しました。それぞれが、やはり同じような場面に出くわしていた。

そういうふうに、ユーザーの行動について、共通の理解があったので、リリースしないということに、開発チームの納得感はあった。

つくっちゃったから、という理由で、使われないものを出す、というのは、よくないという結論に至ったわけですが、このモバイルアプリを捨てたことで得たものもありました。

このサービスのメインインタフェースが、モバイルアプリから、想定ユーザーが普段利用しているGoogleカレンダーやOffice365 Outlook予定表などのクラウドカレンダーサービスに変わったのです。

そうなることで、RODEMのシステムはカレンダーサービス、行き先指定に用いる名刺管理サービス、交通費精算サービスなどを繋ぎ、連携して機能させる「アグリゲーションサービス」という立ち位置になりました。これが現在まで続くサービスの大きなコンセプトとなった瞬間でもありました。

――RODEMの開発はどのように進めていったのですか。

2015年末からプロジェクトをたちあげて、翌年の夏にはリリースしました。

最初は、毎月の交通費の精算を、より楽にできるようにする新しいサービスをつくろう、という、ぼんやりとしたところからスタートしました。BtoBのサービスという点だけが決まっていた。

そこで、まず価値検証からスタートしました。

具体的には、ビジネスマンの、とくに交通費の精算が多い人に、インタビューをすることからはじめました。

どういう課題がありますか、というインタビューではありません。この段階では、ふだんの交通費の精算をどうしているか、まず現状を教えてください、というインタビューです。

チームリーダーの人、管理職の人、バリバリの営業回りをする方、いろいろなタイプの人の話を聞きました。

共通してわかったのは、交通費の精算をするためには、まず自分の予定を思い出す必要があるということ。精算作業で、まず最初にすることは、今月の自分のカレンダーを見直して、いつ外出があったのかを思い出すところからはじまるんです。

そして、どういう乗り換えで、いくらかかったのか。だいたいは覚えていないので、駅すぱあとで、わざわざ乗換検索をする。

それだけでなく、さらに、わかったことがあります。

そもそも、アポが取れたとき、たとえば、ヴァル研究所で来週に商談があります、というのが決まったら、多くの人が最初にするのは、ヴァル研究所のウェブサイトを見るか、もしくはGoogleで検索して、最寄り駅を調べる。弊社だと高円寺ですね。

それから、商談が14時からの約束だったら、その10分前ぐらいに高円寺の駅に着く、という到着時間を指定して、駅すぱあとで検索して、会社を出る時間を何時ぐらいにしようかと計画する。

当日になると、具体的に何時何分の電車に乗ろうかというために、また調べ直す。

つまり、アポが取れた日と、当日と、同じことを検索する。場合によっては、移動中に、乗換駅はどこだったか、もう一回、検索をする。

そして、月末に精算するときに、また乗換検索する。けっきょく何回も何回も検索している。そういうことが日常的にある。それに気がついたんです。

じゃあ、どうしたらこの課題を解決できるだろうか。そこで考えたのが、カレンダーです。いつ、どこへ行く、というスケジュールをベースにして、移動予定を自動的につくり、精算のデータもつくる。

最初の検索をしたときに、ぜんぶ終わらせないと、そのあと何回も検索することになる。だから、1回目の検索のときに、全て完結するようにしたんです。

そして、既存のGoogleカレンダーとかOffice365 Outlook予定表をインターフェースにして、それをできるようにした。いつも使っているものからスイッチすることなく、RODEMを利用できるようにしたんです。

――伊藤さんはプロダクトオーナーという立場だったわけですが、開発チームとのコミュニケーションはどうされていたのですか。

開発チームへ、タスクを「開発してください」とただ共有するだけだと、たんに指示をカタチにする、というだけになってしまいます。

そこで、開発タスクごとに目的を明らかにしました。ユーザーはどのような行動をしていて、それをどのように変えたいのか。指標はどうするか。

MVPキャンバスをアレンジしたシートを使って、すべての開発タスクに目的づけをしました。タスクに対して、MVPキャンバスを1枚ずつつくる。キャンバスのサイズを後先考えずにA4にすると、あっという間にホワイトボードが埋まる(笑)。A4の半分サイズにしましたが、それでもスペースが足りなくて、最終的にはデジタルのツールと併用しました。

※MVPキャンバス…効率的な開発を目指して仮説と検証に用いるシート。仮説や検証理由、検証の方法、コストや結果など10の項目を記入する。AppSociallyの高橋雄介氏とリクルートテクノロジーズの黒田樹氏が開発。

RODEMのチームでは、次のスプリントに先駆けて、MVPキャンバスをチームに共有するようにしていました。仕様が不明なところはあらかじめ議論ができる。だから、スプリントに入ったときには、すぐ開発にとりかかれる。没頭できる。

スプリントの2週間はあっという間なので、コミュニケーションの齟齬による手戻りが発生すると厳しい。スプリントの前に意思疎通ができる、というのは大きいと感じました。

それも最終的には、早く改善して、ユーザーに届けて、ユーザーが使う、フィードバックを得る、次の機能を考える、という繰り返しをなるべく早くするためでした。

――お話を伺っていると、ほとんど理想的なUXデザインのプロセスを実現できているように感じます。実現できたのはなぜですか。

ここまで自由にできたのは僕の功績ではなくて、RODEMのプロダクトマネージャーを担当していた上司の成果です。社内のほかのサービス開発と切り離した、本当に独立して動けるチームをつくってくれたからです。このRODEMの開発に没頭できるチームがあった。

アプリを出さないと決めたときに、社内からあがった反論に対応してくれたのも上司です。僕らに対して、影響が出ないようにしてくれました。

それから、チームもよかった。RODEMのチームは7人で、エンジニア5人、プロジェクトマネージャとして僕の上司、プロダクトオーナーとして僕、という編成でした。その年齢層が、ほとんど同じ30代の後半だったんです。働き盛りだし、知識も十分だし、そういったバリバリ働けるメンバーで構成されていました。

ふつうだったら、中堅として後輩の育成もしながら、いろいろやらなきゃいけない立場になる年齢です。それが、同じ年代しかいないので、RODEMをつくることに没頭できた。

社風としても、カンバンによる業務の可視化など、柔軟な業務改善に繋がるマインドが根づいていました。「カイゼン・ジャーニー」の著者の一人が弊社の社員であるように、もともとアジャイル開発の流れがある会社なんです。変化を柔軟に受け入れる地盤は、もともとあった。

ユーザーを見る、ということもチームでやりました。インタビューにもエンジニアが同席しました。それから、プログラミングでペアプロやモブプロをするのと同じように、ユーザー分析もペアやモブワークでやったんです。

ユーザーの行動を僕だけで分析するのではなく、開発チームと一緒に取り組む。エンジニアも、生のユーザーの行動を見て、こういうふうに使っているんだ、というのを見る機会をつくった。そうやってユーザー像を共有していきました。

――UXデザインに必要な、さまざまな要素をうまくそろえることができたのですね。

もうひとつ、パートナーとして、ギルドワークスという会社と一緒にやれた、というのもあります。ユーザーのフィードバックを取り入れながら開発をまわしていく、というマインドのギルドワークスと一緒にやったことで、ユーザー視点を大切にするチームの体制が短期間でできました。

――RODEMを導入する会社は、どういうところが多いのでしょうか。

RODEMを導入される顧客の担当者は、経理部門や営業部門であることが多いです

経理部門は、会社全体としての精算作業のボリュームを減らしたい。営業の現場の人たちは、毎月の精算のための残業を減らしたい。

営業の現場でも、精算にかける時間は会社に利益を直接もたらす工数ではないので、できるだけ減らしたいという意図があります。

先日、RODEMも連携しているマネーフォワードさんのイベントで、NewsPicksのマネジャーの方と対談をしました。NewsPicksのマネジャーの方は、部下が深夜に申請を出してくるのに、心理として耐えられなかった、とおっしゃっていました。ただでさえ忙しくて、いっぱいまで仕事をしている。そこに交通費の精算の申請がある。それがなかったら、もっと早く家に帰せるだろう。そう思ったのがきっかけだったと。

世の中にある、いわゆる精算システムは、じつは現場が楽になっていないんです。

システムから登録されてくるデータというのは、整頓されたデータで、経理部門の負担は減ります。けれども、その登録をしている営業は1件1件、乗換検索をして入れている。そのために自分のカレンダーを見直す。現場は変わっていないんです。

その問題に気がついている経理部門の方もいます。従来のサービスだと、じつは効率化されていないところがある。そういう人たちに、今、リーチしています。

――ありがとうございました。

[取材・文:羽山 祥樹(HCD-Net)/写真:編集部]

[PR]HCD-Net認定 人間中心設計専門家・スペシャリスト 受験者を募集(申請締切: 12月20日)

現場のエンジニア・デザイナー・ディレクタ-の方、あなたも「人間中心設計専門家」「人間中心設計スペシャリスト」として認定を受けませんか?

人間中心設計推進機構(HCD-Net)が実施する「人間中心設計専門家」「人間中心設計スペシャリスト」は、日本で唯一の「人間中心設計(HCD)」の資格として注目されています。

資格認定者の多くは、企業・団体において、

  • 人間中心設計
  • UXデザイン
  • ユーザビリティ評価
  • Web制作
  • システム開発
  • ユーザーリサーチ
  • テクニカルライティング
  • 人工知能
  • IoT

などの従事者や研究者として、第一線で活躍しています。

ユーザーエクスペリエンス(UX)や人間中心設計にたずさわっている方は、ぜひ受験をご検討してみてはいかがでしょうか。

「人間中心設計専門家」「人間中心設計スペシャリスト」の、今回の受験応募は、11月20日(火)に開始します。受験申請の締め切りは12月20日(木)です。

  • 人間中心設計(HCD)専門家・スペシャリスト 資格認定制度
  • 申込受付期間:2018年11月20日(火)~2018年12月20日(木)
  • 応募要領: http://www.hcdnet.org/certified/
著者
羽山 祥樹 (はやま よしき)

インフォメーションアーキテクト。使いやすいウェブサイトを作る専門家。担当したウェブサイトが、雑誌のユーザビリティランキングで国内トップクラスの評価を受ける。専門は人間中心設計(HCD)、ユーザーエクスペリエンス(UX)、情報アーキテクチャ(IA)、アクセシビリティ。HCD-Net認定 人間中心設計専門家。CNET Japanブロガー。また、大規模CMSのエバンジェリストも努める。

翻訳書に『メンタルモデル ユーザーへの共感から生まれるUXデザイン戦略』『モバイルフロンティア よりよいモバイルUXを生み出すためのデザインガイド』(いずれも丸善出版)がある。

連載バックナンバー

サーバーインタビュー

GPUの隠れた競争相手、推論を高速に処理するFPGAとは? ザイリンクスに訊いた

2018/12/12
ザイリンクスのFPGAは、GPUよりも高速に推論が実行可能、かつ消費電力も低いという。ザイリンクスが提唱する「データセンターファースト」について取材を行った。
ストレージインタビュー

仮想化に特化したストレージのTintri、破産後にDDNの元での再出発をアピール

2018/12/7
破産後にDDNの一部として再スタートしたTintriがイベントを開催。日本のユーザーに対してロードマップなどを紹介した。

Think IT会員サービス無料登録受付中

Think ITでは、より付加価値の高いコンテンツを会員サービスとして提供しています。会員登録を済ませてThink ITのWebサイトにログインすることでさまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think IT会員サービスの概要とメリットをチェック

他にもこの記事が読まれています