KubeCon Europe 2023共催のWasm Day、Cosmonicが作成したWASMを解説する絵本を紹介

2023年7月21日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
KubeCon Europe 2023共催のWASM Day、Cosmonicが作成した絵本とその露出戦略を紹介

KubeCon+CloudNativeCon Europe 2023の共催イベントであるCloud Native Wasm Dayから、CosmonicのBrook Townsend氏によるWebAssemblyを紹介する絵本朗読のライトニングトークを紹介する。

椅子に腰を掛けて絵本を朗読するTownsend氏。スライドを操作するのはBailey Hayes氏だ

椅子に腰を掛けて絵本を朗読するTownsend氏。スライドを操作するのはBailey Hayes氏だ

Wasm DayではAdobeやShopifyなどのユースケースも紹介されたが、テクノロジーそのものを解説するのではなく、WebAssemblyが開発された背景や特徴などを解説する内容となっている。Kubernetesコミュニティが作成した絵本を手本にしていると思われるが、その絵本は当時Microsoft所属で、現在はFermyonのMatt Butcher氏とKaren Chu氏によって作成されたコンテンツだ。

●参考:THE ILLUSTRATED CHILDREN'S GUIDE TO KUBERNETES

このKubernetesの絵本は「チルドレンズガイド」と題されているが、内容はPHPで書かれたアプリケーションがKubernetesによってどのように実装されるのかを解説しており、Kubernetesを知らないエンジニア及びIT部門の管理職向けと言って良いだろう。それをWebAssemblyに応用した絵本が今回の朗読の内容となっている。WebAssembly版の絵本のタイトルは「WHERE the server GOES, Nobody KNOWS!」、クラウドでアプリケーションを開発するデベロッパーがビジネスドメインに合ったプログラミング言語を選択する必要がある、開発用のラップトップでは動くが本番環境では動かない、脆弱性などから守る術がない、などの問題点を、デベロッパーを農夫に見立ててWebAssemblyが解決するという内容になっている。文章もちゃんと韻を踏んでおり、非常に良く練られたコンテンツだ。

●動画:Where the Server Goes, Nobody Knows!

約5分弱という短い時間の朗読だが、絵本はWebAssemblyの特徴を良く表現しており、ファイルフォーマットであること、さまざまな言語から生成できること、ブラウザーで動くプログラムからサーバーサイドで動くように進化したことでクラウドベースのワークロードに対応できること、高速実行、サンドボックスによるセキュリティなどの特徴を紹介している。Matt Butcher氏のFermyonがWebAssemblyのサーバーレスでの利用に重きを置いていることと比べるとバランスが取れた内容と言える。Kubernetesの絵本との違いはKubernetesの絵本はPHPのアプリやKubernetesを動物に模してKubernetesのメカニズムを説明しているが、WebAssemblyの絵本の場合はもっと直接的にアプリケーションを開発するデベロッパーがクラウドからやってきたWebAssemblyに問題点を解決してもらうという構図になっていることだろう。問題点と解決策がよりシンプルに表現されている。

制作したのはCosmonicで必ずしもコミュニティによるアイデアではないものの、Cosmonic、Fermyon、Second State、Suborbitalなどのベンチャーが露出を強めているWebAssemblyのエコシステムにおいて、迅速に結果を出すという意味ではベンダー主導で行ったのは正しい判断だろう。2023年4月18日の段階でまだサンプルしかできていなかったというが、その1冊しかないサンプルを提供してくれたという。

ブースで絵本を手にするCEOのLiam Randall氏(左)とTownsend氏(右)

ブースで絵本を手にするCEOのLiam Randall氏(左)とTownsend氏(右)

露出という意味では、CosmonicはwasmCloudをCNCFのサンドボックスプロジェクトとして提供しており、エコシステムの中のブースと同時に自社ブースをショーケース内で展示を行っていた。

wasmCloudのブース。担当はBailey Hayes氏

wasmCloudのブース。担当はBailey Hayes氏

前掲のRandall氏とTownsend氏の写真はそのCosmonicブースで撮影したものだ。どちらのブースもいつも混みあっており、ここでもWebAssemblyへの興味の高さが伺えた。2つのブースで露出を高める作戦は効果があったと言えるだろう。

Cosmonicのブースで参加者に説明を行うRandall氏

Cosmonicのブースで参加者に説明を行うRandall氏

2つのブースには参加者が絶えず訪れる状況となっていたが、日本からの参加者も例外ではなくサイバーエージェントの青山昌也氏もCosmonicのソリューションには興味を持ったようだ。

サイバーエージェントの青山昌也氏

サイバーエージェントの青山昌也氏

全体としてwasmCloudのユースケースとしてのAdobeのセッション、Bailey Hayes氏によるWebAssemblyの過去からの振り返りとコンポーネントモデルのイントロなどWebAssemblyの現状を確認しながら、この先の未来を見せてくれたCosmonicは良い仕事をしたという印象だ。

Wasm Dayの最後にクロージングとしてLiam Randall氏が登壇し、最初のKelsey Hightower氏のオープニングを受けて、コンテナオーケストレーターの覇権を争う最初期の話題を振り返り、今の段階でWebAssemblyのエコシステムを形成するソフトウェア同士が競争するのは止めて協力していこうと語った。

Kelsey Hightower氏のオープニングを受けて協力することを訴える

Kelsey Hightower氏のオープニングを受けて協力することを訴える

またコンテナに入れただけでリアルなビジネスが実装できるわけではなく、結果としてKubernetesというオーケストレーターが必要となった歴史を踏まえて、WebAssemblyのワークロードを協調させるコンポーネントモデルについて「Componentize is the new Containerize」(コンポーネントモデルを使うことが次の世代のコンテナ化となる)というフレーズを紹介してこの日のセッションを締めくくった。

「コンポーネント化が次のコンテナ化」と強調するRandall氏

「コンポーネント化が次のコンテナ化」と強調するRandall氏

ちなみにRandall氏が例に挙げたコンポーネントモデルの解説は、FastlyのエンジニアによるJavaScriptとRustのコードを協調させるデモを解説するものだ。詳細は以下のFastlyのエンジニアによるコンポーネントモデルの解説セッションを参照されたい。

●動画:Future of Component Tooling - Peter Huene & Guy Bedford, Fastly

最後に冒頭のTownsend氏が朗読した絵本を作成するサービスが存在しており、今回の絵本はそのサービスを使って作成されたことを紹介。Webサイトではいわゆるアメコミの画調になっているが、企業としてはイングランドに拠点を置いているそうだ。アメコミ調以外にも今回の例のようにさまざまなスタイルやテイストが実現できると思われる。実際に材料を提供してから数日で完成するという説明があるが、とかく固くなりがちなITを、スライドやデモ動画以外に噛み砕いて伝える表現方法として検討に値する方法だろう。

●参考:Make Me A Comic

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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