KubeCon+CloudNativeCon North America 2023のキーノートとショーケースを紹介
2023年のKubeCon+CloudNativeCon North America 2023は、イリノイ州シカゴでの開催となった。2023年11月7日から8日までの2日間に加えて、前日にはCo-located Eventも複数開催された。オンサイトでの参加者約9000名に加えて、オンラインでの視聴回数は数え切れないだろう。CNCFはそれぞれのセッションの動画をYouTubeで公開しており、参加登録を行わなくても無償で視聴が可能だ。その意味では、パンデミック後としては最大のオープンソース関連のカンファレンスとなったと言えるだろう。
とはいえ、現地に行かないとわからないことも多い。ベンダーやコミュニティが展示を行うショーケースの雰囲気や参加者がセッション後に登壇者に質問する状況などは動画だけでは伝わらない。そこで筆者は、前日のCloud Native Wasm Dayと初日の前半に絞って参加した。この記事ではキーノートとショーケースの雰囲気を紹介する。
●動画:Keynote: Welcome + Opening Remarks
キーノート
キーノートの最初のセッションは、CNCFのエグゼクティブディレクターのPriyanka Sharma氏によるイスラエルで起きている戦闘行為による被害者に対する黙祷から始まった。
その後、生成AIがセンセーションを起こしていると説明し、過去のKubeConでOpenAIをキーノートに招いてKubernetesの採用を紹介していたことも踏まえて、クラウドネイティブが生成型AIにおいても重要なプラットフォームであることを強調した。
特にLarge Language Model(LLM)についてはマッキンゼーが出した全世界規模で約4.4兆ドルの経済的な効果を及ぼすというレポートを例に挙げ、IT業界だけではなく広い領域で生成型AIが重要になってくることを説明した。
プラットフォームとしてKubernetesが選択されていることから、LinuxがサーバーOSとしてデファクトスタンダードになったことになぞらえて、同じモメンタムがKubernetesでも起こっていると語った。
その後にオープンソースソフトウェアだけで構成されるLLMのモデルを、実際にプレゼンテーションで使ったMacBookで実行するデモを実施。
このデモはCNCFのGitHubページに公開されているのでぜひ、実行してみて欲しい。実際のデモはデータベースのためのPodが想定した時間内に立ち上がらなかったため、予め用意した動画を使って紹介したが、果敢にリアルなデモに挑戦したSharma氏は賞賛に値する。ただWasm DayでMichael Yuan氏が紹介したWebAssemblyでLLMを実行する先進的なものではなく、Python使っていたところが残念とは言えるだろう。
●参考:https://github.com/cncf/llm-starter-pack
そしてパネリストとしてGoogle、Intel、NVIDIA、Adobeのエンジニアを招いて生成型AIについて語らせるという演出を行った。
その後、コミュニティにおけるアクションアイテムとしてKubernetesの問題点、特にDynamic Resource Allocationについての意見を求めること、エンドユーザーからの声を拾い上げるためのリサーチグループを作ったこと、エンドユーザーによるテクニカルアドバイザリーグループ(Technical Advisory Board、TAB)を作ったことなどを紹介した。
ここでSharma氏のセッションは終わり、次の登壇者にステージを譲った。
その後のキーノートセッションで特に印象的だったトピックはZero to Mergeという新しい試みだ。
これはCNCFのプロジェクトに参加したいと思うエンジニアに対する4週間のトレーニングプログラムで、プロジェクトにおけるコミュニケーションの仕方、問題の見つけ方、イシューへの対応、プルリクエストのマージの方法などを包括的に教えるというものだ。これまでコントリビュータを増やすためにさまざまな取り組みを行ってきたCNCFが、コミュニティへの参加の仕方を実地で教えるという内容のものになると思われる。
すでに参加のための登録ページもあるので、興味のあるエンジニアは参照して欲しい。
●参考:Zero to Merge: Registration and Details
写真で見るKubeCon+CloudNativeCon
ここからはショーケースの展示を駆け足で紹介しよう。
Microsoftはミニシアターを設置してプレゼンテーション主体の展示。デモ主体の展示だったRed Hatとは対照的だ。
Ciscoはアムステルダムでは「OpenClarity」という名称でクラウドネイティブなブランディングを訴求していたが、ここでは新たに「outshift」を訴求。ブランディングに力を入れるのは自由だが、毎回新しい名称を持ち込んで顧客やパートナーを置いてきぼりにしないで欲しい。
AWSは多くのカンファレンスでアーケードゲームマシンを持ち込んで客寄せに使っているが、効果の程はよくわからない。
OpenShiftが絶好調のRed Hatだが、ここではデモをメインに訴求。
KubeConはエンドユーザーがブースを設けて展示を行うのが当たり前になっている。ユーザー企業がカンファレンスに出展するのは、主にエンジニアのリクルートのためであろう。クレジットカードのDiscoverも少し大きめのブースで展示を行っていた。
Wasmでストリーミング処理を高速に実行するRedpandaも小さなブースで展示を行っていた。Apache KafkaをリプレースするAPI互換のソリューションである。
●参考:Wasmでストリーミングエンジンを実装したRedpandaを紹介
Wasmでサーバーレスを実行するためのフレームワークSpinを開発するFermyonのブースでは、CEOであるMatt Butcher氏、かつてMicrosoftでButcher氏とKubernetesの絵本を作ったKaren Chu氏、WasmConでインタビューを行ったRadu Matei氏が新しく作った絵本を手に出迎えてくれた。2023年9月にシアトルで開催されたWasmConでMatei氏にインタビューした記事も参考にして欲しい。
●参考:WasmCon 2023でFermyonのCTO、Radu Matei氏に訊いた。WASI進化の注目ポイントとは
インフラストラクチャーのためのコードとアプリケーションのためのコードを同時に記述できる新しいプログラミング言語であるWingもブースを展示。新しいベンチャーが積極的にクラウドネイティブコンピューティングのエコシステムに参入しているのを感じる。
Wingについては以下の記事を参照して欲しい。
●参考:インフラとアプリを同時にコーディングできる新言語、Winglangを紹介
CNCFのプロジェクトショーケースのコーナーでLimaのブースにNTTの須田氏と徳永氏を発見。須田氏は今回のカンファレンスで「あのコントリビューションの多さは複数のエンジニアがsudaの名前でチームとしてやっているに違いないと思っていたが、実際には独りのエンジニアだったことが判明した」とジョークのネタにされるくらいにコンテナランタイムのコミュニティでの貢献を行っているエンジニアだ。
Cosmonicが開発するWasmのためのアプリケーションプラットフォームのwasmCloudのブースでは、Taylor Thomas氏が説明員を担当。AdobeなどでWasmワークロードを実行するために使われているのがwasmCloudだ。wasmCloudについては以下の記事を参照して欲しい。
●参考:WasmCon 2023からCosmonicのCEOがコンポーネントモデルを用いたデモを紹介
以上、キーノートとショーケースの内容をごく限られた範囲で紹介した。
次回のKubeCon+CloudNativeCon North America 2024は、ユタ州ソルトレイクシティで2024年11月12日から15日に開催が予定されている。すでにスポンサーのための告知が行われており、エンドユーザーが出展するためのスポンサーフィーは8,000ドルだ。エンジニアをグローバルにリクルートしたい企業は検討に値すると思われる。
●参考:KubeCon+CloudNativeCon North America 2024
引き続きKubeCon+Cloud Native Conには注目していきたい。
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