Cloud Native Wasm DayからWebAssemblyのスケジューラーWADMを解説するセッションを紹介
2023年11月6日に開催されたCloud Native Wasm Dayから、wasmCloudを開発するCosmonicのエンジニアが担当したセッションを紹介する。これはwasmCloudで利用されている新しいスケジューラーのWADM(WebAssembly Deployment Manager)についてデモを交えて解説したものだ。タイトルは「Orchestrating Wasm: Reconciliation Loops Aren't Owned by Kubernetes」で、セッションを行ったのはCosmonicのエンジニアリングディレクターのTaylor Thomas氏とインフラストラクチャーリードのDan Norris氏だ。
●セッションの動画:Orchestrating Wasm: Reconciliation Loops Aren't Owned by Kubernetes
最初にこのセッションの中身を紹介し、まずCosmonicが開発するwasmCloudを紹介、そのうえでどうしてwasmCloudのために新しいスケジューラーが必要になったのかという背景を解説したのち、動作を解説しデモで実際に動かしてみせるという内容だ。
wasmCloudはCosmonicが開発しオープンソースソフトウェアとして公開しているソフトウェアで、Cloud Native Computing Foundation(CNCF)のサンドボックスプロジェクトとして2021年7月13日に採用されている。
ここではwasmCloudがどんなコンピューティングシステムに適しているのか、また適していない使われ方は何か、などを解説している。データが複数の場所に分散し、プロセッサもデータセンターからエッジまでヘテロジニアスな形態で行われるような場合に最適であると解説している。特に後半のデモでも示されているように、ノートPCで実行したものをそのままオンプレミスのサーバーやパブリッククラウドで実行するなどの開発スタイルが可能になっていることから、単一のクラスターで完結するようなシンプルな構成では不足するようなユースケースを想定しているようだ。
またサーバーレスのような小さなプロセスが起動~終了を繰り返すような使われ方にも適していないと説明し、FermyonがWebAssemblyをサーバーレスで実行することを強力にプッシュするSpinとは違うポジショニングをしているように思える。
ここでは前のスライドの向き不向きを踏まえた上で、分散されたアプリケーションをどのプロセッサでもシームレスに実行できることをwasmCloudの最大の特徴として説明した。これはこの後に説明されるwasmCloudのスケジューラーWADMのための問い掛けと言えるだろう。ここまでの説明は、分散されたアプリケーションを実行するためのプラットフォームであるKubernetesを使わないのはなぜだろう? という疑問を参加者に持たせるための誘い水といえる。
そしてその答え合わせとして「どうしてKubernetesでもHashiCorpが開発し公開しているNomadでもないのか?」を説明。Kubernetesはすべてがコンテナであることが前提で、ManifestとCRD(Custom Resource Definition)という2つの構成情報が必須でシステムを複雑化させていること、そしてクラスターを超えて複数のクラウドや遠隔地のリージョンに存在するリソースをオーケストレーションすることが難しいと説明した。
もう一方のNomadについては、Kubernetesよりも自由度が高いがWebAssemblyのコンポーネントモデルのオーケストレーションを行うためには改造が必要となること、Nomadに慣れたデベロッパー、オペレーターが少ないこと、そしてKubernetesと同様にリージョンを超えたリソースのオーケストレーションができないことを挙げた。
ここで新しくスケジューラーを作るとしたら、何ができなければいけないかを整理し、コンテナではなくWebAssemblyのアプリケーションに特化し、単一のアプリケーション、サーバーレスのファンクションではなく複数のアプリケーションが連携するような使われ方が可能で、ManifestやCRDのように複数の定義情報が不要でシンプルに構成を定義できるシステムであるとする。そしてwasmCloudはそのように開発されたことを説明し、その中核にスケジューラーが必要であると語った。
このスライドではそのようなスケジューラーの開発において避けるべきことと、やらなければならないことを整理しており、Kubernetesのように連動すること、複雑な依存関係を避けること、分散処理に向いているがオフラインでも実行可能なこと(スタンドアロンのPCでも実行可能であること)、単一のバイナリーで構成されること、wasmCloudのAPIを使うことなどを挙げている。
このスライドではWADMがコントロールプレーンとしてユーザーからの指示を元にアプリケーション状態を監視し、アプリケーションを実行するというリコンサイルループを実装していることが示されている。Kubernetesとの違いはKubernetesがgRPCを使ってクラスター内のメッセージ交換を行い、ユーザーのアプリケーションにおいてはHTTPやWebSocketも選択可能な仕様になっていることとは異なり、NATSというCloud Foundry由来のメッセージ交換ソフトウェアに限定していることだろう。これによってクラスターを超えてエッジまでカバーする分散ネットワーク処理が可能になっている。
wasmCloudの中で実行されるアプリケーションはActorと称されているが、現在の状態と定義された状態を比較して定義通りの状態に保つのがスケジューラーであるWADMの仕事だ。
そしてそのメッセージ交換とリトライなどのエラー処理を一手に引き受けるのがJetStreamというNATSサーバーに組み込まれたストリーミング機能であると説明。ここでは深い説明を省いているが、wasmCloudの高機能なネットワークはwasmCloudではLatticeと命名されているNATSによるところが大きい。
ここでも挙げられているが、YAMLによるManifestだけで設定情報が完結していることがシステムをシンプルにしている要因であることを強調した。
ここからは実際にデモとして手元のノートPCとオンプレミスのサーバー、AzureやGCPのサーバーインスタンスなどを連携させて見せた。WebAssemblyのデモアプリケーションがどのインスタンスでも実行可能かつ即座に接続可能であるというwasmCloudの良さを見せつけるフェーズとなった。
ちなみにこの解説に使われているデモについては深く解説を省いているが、リクエストに対してランダムにイラスト画像を返すという内容のモノで、2023年9月に公開した以下の記事でも紹介しているので参照して欲しい。
●参考:wasmCloudのCosmonicのCEOが新しいデモを紹介
最後に今後の開発予定を紹介。アプリケーションを実行する際に登場するScalerという仕組みについて、ユーザーがカスタマイズすることをプラグインの形で可能にする計画があること、WADMの一部をWebAssemblyに置き換える構想があることなどを説明してセッションを終えた。
どのプラットフォームでも実行可能でサイズが小さいWebAssemblyの利点を最大限に活かしつつ、Kubernetesのようなリコンサイルループを採用してステートレスでマルチリージョンに分散したアプリケーションを実行可能なwasmCloudの中核となるスケジューラーを解説したセッションであった。wasmCloudがサーバーレスでも生成型AIの専用プラットフォームでもなく、これまでPaaSが使われていたような広範囲なユースケースを獲得したいと思うCosmonicの意志が表れていたセッションとなった。
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