クラウド利用の最大の課題は「コスト管理」

2024年2月7日(水)
岩谷 憲司(いわたに けんじ)
第1回の今回は、クラウド利用におけるコスト管理の重要性と、コスト管理を推進・実践するためのFinOps、クラウドコスト最適化に向けての課題を紹介する。

はじめに

近年、クラウドコンピューティングが急速に発展し、クラウドを利用する企業が加速度的に増加している。クラウドは企業のインフラ、システムの柔軟性、効率性を向上させ、ビジネスを加速するうえで、なくてはならない存在になった。クラウドベンダは、日々新しいサービスをリリース・拡充しており、利用者はその活用を加速、拡大している。

こうして、企業のクラウド利用が加速する一方、クラウドにおける課題認識にも変化が起こっている。米Flexera Software社が調査し、公開したレポートでは、回答企業の82%がクラウド利用における最大の課題を「クラウドのコスト管理」と回答しており、10年ぶりにセキュリティ(79%)を上回った。

同レポートでは、以下のような報告もされている。

  • 企業の30%が今後クラウドの利用コストを増大させると予測している
  • クラウド上での浪費コストは全体の利用コストの28%にも上っている

多くの企業がクラウドの利用規模を拡大していく見込みである一方で、クラウド上の浪費コストの割合は非常に大きい。「クラウドのコスト管理」に注目が集まっているのは、クラウドの利用が広がれば浪費コストの額も同時に大きくなり、コストの適切な管理、浪費の削減・最適化が喫緊の課題になっていることの現れである。

クラウドにおけるコスト管理の難しさ

クラウドは、ビジネスの規模、需要の変動に応じて、柔軟にリソースを拡大/縮小が可能という特徴を持っている。企業のクラウド利用が進む一方で、クラウド利用状況の全体像の把握が困難になり、前述の浪費コストの原因を見つけ対策を打つことや、コスト管理の難易度が増している。

例えば、企業のクラウド利用においては、ITインフラの管理者がクラウド利用におけるルールやガイドラインのみを策定し、実際のクラウドの購買やサービスの選定〜利用は部門単位(業務システムの担当部門など)で行うケースがある。

その結果、部門単位での意思決定が可能になり、ビジネスのスピードは加速するが、以下のようなコスト増加のリスクも考えられる。

  • シャドーITの発生によるガバナンスの欠如
    • インフラ管理者が把握していない、管理されていないクラウドサービスの利用により、想定外のクラウド利用コストが発生する
  • リソースの過剰割り当て
    • ITインフラの管理者では気づけない、浪費コスト(オーバースペックなリソースの利用)の発生
  • 未使用・不要なリソースの放置
    • 設計時の見落としや利用終了したリソースの放置、テスト環境の破棄忘れなどが原因で利用していないリソースのコストが発生
  • 新しくリリースされる最適なインスタンスタイプの利用ができていない
    • クラウドサービスプロバイダが提供するインフラのバリエーションが多岐にわたるとともに、頻繁に新しいインスタンスタイプが追加される
      新しくコストパフォーマンスの高いインスタンスタイプがリリースされても、既設の環境がそれに追随し、最適なタイプを選択し続けることが難しく浪費コストが発生する

上記の浪費コストの発生に加え、

  • ビジネス加速・拡大に伴う管理対象の急増
  • 予想外の値上げ(円安)

など、多数の要因が複雑に絡み合い、コスト管理の難易度は増している。

コスト管理の難易度が増す一方で、クラウドのインフラ利用に伴う浪費コストの放置は、以下のようなビジネス上の影響やリスクにつながる。

  • 財務状況の悪化
    • クラウドコストが膨らむことで、企業の財務状況が悪化。
      その結果、ビジネスの戦略的投資が制約されることがある。
  • 競争力の喪失
    • クラウドコストが製品、サービスの売価に転嫁されるため、提供価格が上がってしまう。
      その結果、競合他社との競争力が低下し、市場シェアの減少や業績の悪化につながるリスクがある。

こうした、複雑なクラウドの利用環境下において、コスト管理の課題を打開するための方法論として提唱されているのが、データを元にクラウドの利用状況を可視化し、コストを分析し、最適化を実行するサイクルを全社横断で回し続ける「FinOps」というプラクティスである。

FinOpsの概要

FinOpsとは、クラウドインフラを利用する際のコスト管理と最適化にフォーカスしたプラクティスである。

「Financial(ビジネス/財務)」と「Operations(技術/運用)」の組織が密に連携することで、クラウドコンピューティングにおけるコストの健全化、ならびに運用の効率化を推進する。

FinOpsを実践する目的は「開発速度」「品質(性能、可用性など)」「IT資産の導入・維持管理にかかる総コスト」を考慮し、ビジネス価値を最大化させ、イノベーションを加速することにある。

FinOpsのアプローチが誕生した背景には、クラウドコンピューティングによるインフラストラクチャの大きな変革がある。クラウドが広がる以前のオンプレミスの場合は、IT資産にかかる費用は変動が少なかった。

導入・構築時のインフラストラクチャの初期投資は必要であったが、一度システムを構築すれば、HWの費用は保守期限やOSサポート期限などで更改が必要になるまでは発生せず、それ以外ではソフトウェアライセンスの費用や保守・運用・管理費にとどまり、コスト管理の面でも変動が少ない。そのため、高い頻度でコストの報告が必要なく、財務(Financial)部門と運用部門(Operations)の連携が密でなくとも、運用に問題はなかった。

一方で、クラウドコンピューティングの世界では、インフラストラクチャの初期投資がオンプレミスに比べて少なくなる傾向にあるものの、HW費用、ソフトウェアライセンスや保守・運用・管理費用などはすべて「クラウドの利用費用」として計上され、利用した分だけ発生するようになる。また、クラウドのインフラストラクチャは、リソースの使用状況やビジネスの規模に応じて、必要なだけ迅速にスケールを変動させることが可能になった。

このように、クラウドは企業にとって効率的でスケーラブルなリソースを提供する反面、従来のオンプレミスのインフラ環境と比べて変動が激しく、コスト管理が複雑化している。

こうした、変化・複雑度が増すクラウド環境において、インフラストラクチャのコスト、運用の最適化を図り、企業のビジネス価値を高めるために生まれたのがFinOpsのプラクティスである。

FinOpsの原則

FinOpsの取り組みには、6つの原則がある。これらの原則を理解し、実践することで、企業はクラウドコストの最適化を効果的に進めることができる。

  • チーム間のコラボレーション
    クラウドはリソース単位で秒単位に運用される。
    そのため、組織内の財務、技術、製品、ビジネスの各チームがほぼリアルタイムに連携・協力を行う必要がある
  • クラウドのビジネス価値による意思決定
    • 総費用よりも経済価値ベースの指標がビジネスへのよりよい影響を及ぼす。
    • コスト、品質、スピードのトレードオフを意識した意思決定を行う。
    • クラウドをイノベーションの原動力と考える。
  • 全員がクラウド利用の責任を負う
    • アーキテクチャの設計から継続的な運用までエンジニアがコストのオーナーシップを持つことで、使用量とコストの説明責任がより強化される。
    • 個々の機能チームや製品チームは、予算に見合ったクラウドの利用を管理する権限を持つ。
    • 費用対効果の高いアーキテクチャ、リソース利用、最適化に関する意思決定を分散化する。
    • 技術チームは、ソフトウェア開発ライフサイクルの初期段階から、コストを新たな効率指標として考慮する。
  • FinOpsに関わるデータにタイムリーにアクセスできる
    • コストデータが入手可能になり次第、すぐに処理し共有する
    • リアルタイムの可視化により、クラウドの利用率が自律的に向上する。
    • 迅速なフィードバックを繰り返すことで、より効率的な行動が可能になる。
    • クラウド費用の一貫した可視性を、組織のあらゆる層に提供する。
    • リアルタイムの財務予測と計画を作成、監視、改善する。
    • 傾向分析と差異分析を、コスト増加要因の説明に活用する。
    • 社内チームのベンチマーキングによりベストプラクティスを推進し、成果を称える。
    • 業界同業者レベルのベンチマーキングで、企業の業績を評価する。
  • 中核チームによるFinOpsの推進
    • セキュリティのように、中央のチームがありながら各自が各自の役割に責任を持ち続けるような責任共有モデルにおいて、中央のチームがFinOpsのベストプラクティスを奨励し、伝道し、実現する。
    • FinOpsとそのプラクティスやプロセスに対する経営幹部の賛同を得る。
    • 料金、コミットメント、割引の最適化を一元化し、規模の経済を活用する。
    • エンジニアや運用チームが料金交渉を考える必要がなくなり、各自の環境の利用最適化に集中できる。
  • クラウドの変動コストモデルを活用する
    • クラウドの変動コストモデルはリスクとしてではなく、より多くの価値を提供する機会として捉える。
    • ジャストインタイムの予測、計画、キャパシティ購入を受け入れる。
    • 静的な長期計画よりも、アジャイルな反復計画を採用する。
    • クラウドの最適化を継続的に調整するプロアクティブなシステム設計を採用する。

クラウドコスト削減における課題

実際にFinOpsのプラクティスを採用し、クラウドコストの削減に取り組む際にあたっては「可視化」「最適化」「人的コスト」の3つの課題がある。それぞれの課題について紹介する。

可視化における課題

コストを削減するには、まず現状の「深い理解」が必要になる。例えば、誰が、どこで、どれだけクラウドを利用しているのか、どこに無駄が発生しているのか、どのあたりにコスト削減の見込みがあるのか、といった内容を把握する必要がある。

しかし、クラウドベンダが提供する支払い明細からでは、上記のような情報を十分把握することが難しい点が課題となっている。支払い明細にはリソースの利用料金は記載されているが、リソースの利用率といった内容が読み取れないため、明細に記載されているリソースが十分に活用されているのか、それとも無駄に支払いが発生しているのか、といったことが判断できないからである。

最適化における課題

1点目は、最適化を行う環境の多様化である。企業が利用するクラウドは、複数プロバイダにまたがったマルチクラウド環境になっていることも珍しくなくなってきており、その中でも多種多様なクラウドサービスが組み合わせて利用されている。異なるプロバイダ、異なるサービスそれぞれで最適化の手法を模索する必要があり、クラウドコストを効率的に削減する際の問題になる。

2点目は異なるミッション、目的を持った組織が個々に最適化を行うと大局がわからず、局所的な最適化が進んでしまう点にある。例えば、インフラ運用・管理の部門が「リソースの利用率向上」「無駄なリソースの削除」を目的としたコスト最適化の活動を行い、一方で財務管理の部門が「キャパシティ・予算プランの確立」「コミットメントの購入」を目的にSavings Plansなどのディスカウントの購入という活動を個別に行った場合、「無駄に存在するリソースに対してSavings Plansを購入」や「ディスカウント適用外のインスタンスを利用」といった結果になり、本来目指すべき最適化が行われないといった問題が発生しうる。

人的コストにおける課題

クラウド利用コストの最適化に人的作業が発生し、なおかつ取り組みには専門的なスキルが必要になる。こうした専門的な知識を持つ要員は、運用や開発においても重要な要員であることが多く、他にプライオリティの高いタスクに忙殺され、クラウドコストの最適化に取り組めないという問題がある。

こうした課題により、クラウドコスト最適化を継続的に行うことが難しくなってしまっているのである。

おわりに

今回は、クラウド利用におけるコスト管理の重要性と、コスト管理を推進し実践するためのプラクティスとしてのFinOps、およびクラウドコストの最適化実践に向けての課題について紹介した。

FinOpsとは、クラウドインフラ活用におけるコスト管理と最適化に特化したアプローチである。企業がクラウド運用を効果的に進めるためには、企業内の各チームがFinOpsの6つの原則を実践することが重要だ。FinOpsは、企業の競争力やサービス品質を高めるための手段として、今後ますます注目を集めると予測される。

クラウドコンピューティングが急速に発展し、ますます企業にとって重要なインフラとなっている今日、適切なコスト管理と最適化手法を持つことは不可欠である。FinOpsが提供する考え方やアプローチは、企業がクラウド運用における課題に対処するための一助となる。

しかし、FinOpsは単なる手法にとどまらず、一連のマインドセットでもある。企業が成功を収めるためには、FinOpsの原則を組織全体に浸透させ、継続的な改善を追求することが重要になる。これにより、クラウドを活用してビジネス価値を創出するような文化が醸成され、企業全体の成長につながる。

今後もクラウド技術の発展に伴って、FinOpsは更なる進化を遂げていくことが予想される。企業はFinOpsを取り入れることで自社のクラウドコスト管理能力を高めるだけでなく、競争の激しい市場において持続的な成長を実現できる。このような背景から、日本国内でもFinOpsの普及が促進され、正しい知識や実践が広まることが期待されている。

次回は、クラウドコストの最適化と、FinOpsを実現する具体的な取り組みについて詳しく解説する。

著者
岩谷 憲司(いわたに けんじ)
NECソリューションイノベータ株式会社
NECソリューションイノベータ株式会社にて、運用管理/監視を行うミドルウェア(オンプレ、クラウド(AWS、Azure)の統合監視機能)の開発に従事。
現在はNECクラウドコスト最適化ソリューションのセールス担当としても活動。
お客様のクラウドコストにおける課題解決や、FinOps実践の支援に尽力しています。

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