40代・50代エンジニアのための転職戦略とキャリア設計の考え方

はじめに
少子高齢化に伴う人手不足は年々深刻化しており、IT人材の転職倍率は10倍超えの状況が続いています*1。優秀なIT人材の獲得競争は激化しており、企業は優秀な人材を確保するために、従来の採用手法に加えて新たな戦略を模索する必要性に迫られています。
その中で、近年注目を集めているのが「ミドル・シニア人材の活用」です。レバテックの調査では、エンジニア採用において母集団を増やすために最も注力しているターゲットは「新卒採用(38.5%)」が最も多く、次いで「ミドルシニア層(45歳~64歳)の経験者採用(35.9%)」という結果となりました*2。
2025年4月には高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の改正により、65歳までの雇用機会確保の義務が強化され、企業のミドル・シニア人材の活用に対する意識も変わっていく可能性があります。また、同時にミドル・シニア人材自身も役職定年や定年を控えてキャリアを見直し、転職に向けて動き出す人は少なくありません。
総務省の「労働力調査」*3によると、2023年の転職者数は2014年から45~54歳で16万人、55~64歳で10万人増加しており、40代以降のキャリアを模索する人が増えつつあります。実際に、レバテックキャリアにおける40代以上の登録者数も5年で約3倍となり、増加傾向となりました。
そこで今回は、40代以降の転職が増えている今、転職の実態や成功させるためのポイントを解説します。
*1: 2025年1月発表「2024年12月のIT人材 正社員転職/フリーランス市場動向」
*2: 2025年1月発表「IT人材白書 2025」
*3: 総務省 労働力調査
40代以上のIT人材における転職実態
レバテックの調査*4では、実際に40代以降で転職経験があると回答した人は半数を超えています。転職時の年齢別に転職理由を見ると、40代では「収入アップ」「ワークライフバランスの重視」が主な理由として挙げられました。一方、50代以上では「定年を見据え、長く働ける環境を選びたかったため」という回答も上位に入り、安定した雇用を求める傾向がうかがえます。
また、企業側に40代以上のIT人材採用経験について尋ねると、約75%の採用担当者が「採用経験がある」と回答しました。年齢別の採用実績では「40〜44歳(75.3%)」「45〜49歳(67.1%)」「50〜54歳(41.6%)」と、特に40〜50代の採用が多い傾向が見て取れます*5。
一方で、採用経験がない企業に踏み切れない理由を尋ねると「企業文化や組織風土への適応に不安がある(48.0%)」「最新技術への対応力に不安がある(41.9%)」などが挙げられました。また、採用経験がある企業でも「希望年収が高く人件費の調整が難しい(46.9%)」や「若手とのコミュニケーションやマネジメントに課題を感じる(43.4%)」を課題に挙げています。
実際に40代以上の採用を行っている企業からも「ご年齢に比べて携わっているプロジェクト規模が小さいため」や「マネジメント経験が少ないため」などといったお見送り理由も見られます。
このように、年齢を重ねるにつれて企業が人材に求めるスキルや経験は高度化する傾向があります。それでは、実際に転職を考えた際に気をつけるべきことは何でしょうか。企業の採用における着眼点とともに解説します。
*4: 4月24日配信「IT人材における40代以上の転職・採用実態調査(後編)」
*5: 4月17日配信「IT人材における40代以上の転職・採用実態調査(前編)」
転職を成功させるには
どのようにすれば良いのか
実際に転職を成功させるためのポイントは「企業へアピールすべき点の理解」と「目指すキャリア像の整理」です。
企業へアピールすべき点
40代以上の採用経験がある企業に対し、40代以上のIT人材に求める求めるスキル・経験について尋ねると「プロジェクトマネジメント能力(51.0%)」が最も多く、次いで「業界特有の知識や実務経験(41.8%)」「最新技術の知識(40.6%)」が続きます。
特にプロジェクトマネジメント経験は、転職活動において重要なアピールポイントとなります。
〈プロジェクトマネジメント経験を伝える上でのポイント〉
プロジェクトのフェーズごとに下記を意識して、書類選考や面接で伝えましょう。
- 企画~要件定義フェーズ:「どの業界」で「どのような課題」を解決するために企画したのかを具体的に示しましょう。業界ごとに解決したい課題は大きく異なるため、企業は求職者に業界が持つ課題解決と近い経験を求めることは少なくありません。これまでの経験を業界ごとに整理しておくのも効果的なアピールに繋がるでしょう。
- 設計~運用のフェーズ:QCD(品質・コスト・納期)の観点で、何を重視してプロジェクトを推進したのかを明確に伝えましょう。各要素における具体的な実績や工夫を盛り込むことで、マネジメント能力を効果的にアピールできます。
目指すキャリア像の整理
また、ご自身が目指すキャリア像を整理してみることも重要です。定年を見据えた将来のビジョンや理想のライフスタイルを明確にすることで、転職活動の方向性を定めることができます。
レバテックの調査では、40代以上で転職経験があるIT人材のうち、約6割が転職時に年齢によるハードルの高さを感じています。その多くは「求人探し(58.1%)」の段階でハードルを感じているようです。
求人を探す際は自身の価値観を整理し、視野を広げてみることで新たな可能性に気づけるかもしれません。例えば「長年SIerで働いてきたので、今後もSIerのみで探したい」という声は多く寄せられますが、SIerやSESはあくまで企業形態にすぎません。企業によって働き方やキャリアパスは大きく異なるため「なぜSIerが良いのか」「SIerで実現したいことは何か」を振り返り、他の手段でも実現可能かを検討することで、視野が広がる可能性があります。
40代以上のITエンジニアの転職事例
実際に、40歳以上で転職した方の事例を紹介します。
- 【事業会社→大手SIer】マネジメント志向を叶えた転職(PM/40代後半男性)
事業会社で企画〜要件定義を経験し、より大規模なプロジェクトでマネジメント力を高めたいと転職を決意。行政案件の知見とリーダー経験を評価され、公共分野に強みを持つ大手SIerへ転職を果たしました。 - 【年収100万円アップを実現】50歳以降で目指したいキャリアを見据えた転職(フロントエンドエンジニア/40代後半男性)
前職の評価制度では昇給が見込めないと感じ、転職を決意。2社のSIerにて要件定義や設計、また部下の育成など中間管理職として経験した経験を強みに、大幅な年収アップを実現した転職を実現されました。
上記のように定年後の生活や今後のキャリアを見据え、新たな挑戦を始める方が少なくありません。中には、これまでの経験とスキルを活かして、年収や待遇の向上を実現するケースもあります。
レバテックの調査では、転職により年収が「上がった(39.2%)」と回答した人は約4割に上ります。しかし、一方で「下がった(27.3%)」と回答した人も3割存在し、年齢による転職の難しさも無視できません。
転職活動においては、希望条件の優先順位を明確にすることが重要です。年収アップ、キャリアアップ、ワークライフバランスの改善など、何を最も重視するのかを自分自身でしっかりと見極めましょう。同時に、社内でのキャリアプランも検討し、転職と比較することで納得感のある選択ができるはずです。
おわりに
かつては「35歳定年説」と語られることも多かったエンジニアですが、現在では40歳以上でも転職する人は少なくありません。転職に限らずキャリアの選択肢を広げることは、これまで培ったスキルや経験を活かし、新たな道を切り拓く大きなチャンスとなり得ます。
定年後のキャリア設計を見据え、そのためにどのような職場で働きたいかや譲れない条件など、視野を広げて求人を探すことで、より多くの選択肢を得られるのではないでしょうか。
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