技術だけじゃない! ITエンジニアに求められる「ソフトスキル」の磨き方

はじめに
エンジニアの転職において、最も重視される点は何でしょうか。「コーディング・技術力」をイメージされる方も多いかと思います。しかし、レバテックが2025年1月に発表した調査では、採用担当者がエンジニア採用において重視している点は、2年連続「コミュニケーション能力」が1位という結果になりました*1。また2024年発表の調査*2と比較すると「コーディングスキル」は3位から6位へ順位を落としています。
近年、AIの急激な進化により、単純なコーディング作業やバグ修正、テストの一部などはAIが担うようになりつつあります。レバテックの調査でも、生成AIの出現で約4割の採用担当者が「求めるスキルが変化した」と回答。より重要になったスキルとしては「コミュニケーションスキル」や「プロンプトのスキル」「ピープルマネジメントスキル」が上位に挙がっています*3。技術変化の激しいIT業界では、技術力はもちろんのこと、コミュニケーション能力をはじめとするソフトスキルがますます重要性を増しているのです。
そこで今回は、エンジニアにおける「ソフトスキル」の重要性について解説します。
*1: 2025年1月発表「レバテック IT人材白書 2025」
*2: 2024年1月発表「レバテックIT人材白書2024」
*3: 2025年2月発表「生成AI時代における、IT人材の採用動向と働き方に関する調査」
ソフトスキルとハードスキル
ソフトスキルとは、コミュニケーション能力や問題解決能力など、職場や日常生活で役立つ能力のことです。これらのスキルは、経験を通じて徐々に磨かれるものが多いです。
代表的なソフトスキルをいくつか紹介します。
コミュニケーション能力
対人において情報を共有・交換したり、意思疎通を図ったりする能力です。相手の話を正確に理解するヒアリング能力や、自分の考えを的確に伝えるプレゼン能力は、ほとんどの仕事で求められます。さらに、対面でのやり取りだけでなく、メールや電話、チャットツールを活用した円滑なコミュニケーションも重要です。
マネジメント力
チームメンバーの能力を引き出し、目標達成に導く力です。業務の優先順位設定、スケジュール・進捗管理、メンバーのモチベーション維持、育成・評価など、多岐にわたる能力が必要です。
問題解決能力
問題の本質を見抜き、論理的に分析し、効果的な解決策を立案・実行する力です。情報収集力、分析力、多角的な視点、状況に応じた柔軟性、創造的な解決策を生み出す力も重要です。
協調性
自分と異なる立場や考え方の者と協力して、共通の目標を達成する能力です。自分の意見だけでなく他者の意見も尊重し、合意形成を図る力、建設的な議論を通じてより良い成果を生み出す力、柔軟性や妥協する姿勢も必要です。
創造性
新しいアイデアを生み出し、既存の枠にとらわれない発想で課題解決に取り組む力です。技術的な課題だけでなく、顧客のニーズやビジネス課題への革新的なソリューション提案も重要です。
主体性
指示を待つのではなく、自ら考え、行動し、責任感を持ってやり遂げる力です。目標達成への強い意志、周囲の状況を的確に捉え、自ら課題を見つけて解決する力、失敗を恐れず挑戦し、そこから学ぶ姿勢が重要です。
一方の「ハードスキル」とは、ツールや技術や専門知識など、習得してできるようになったことや使えるようになったことを指します。ITエンジニアの場合はJavaやPythonといったプログラミング言語の知識や、AWSなどのクラウドサービスの運用スキルがハードスキルに該当します。これらは資格取得などで客観的に証明できる場合もあり、特定の職種や業務に必要とされるスキルです。
転職市場におけるソフトスキルの重要性
冒頭で触れたように、転職市場においては「コミュニケーション能力」や「問題解決能力」といったソフトスキルは非常に重要です。
若手のうちは、実務経験の深さよりも成長意欲やポテンシャルを見込んで採用されるケースも少なくありません。面接でソフトスキルの高さが評価され、内定を得た方の例を採用担当者の評価例とともに紹介します。
・コミュニケーション能力の高さを評価された20代の方
「まだエンジニアとしての経験は浅いですが、コミュニケーション能力が高く、様々なステークホルダーとのやり取りが発生する弊社の業務にスムーズに対応できそうです。育成枠としてご入社いただきたいです」
・ドメインは異なるもののマネジメント経験が評価された30代の方
「これまでご経験されたドメインと弊社で担当していただくドメインは異なりますが、マネジメント能力が高く、弊社の組織において発揮してほしい能力を現職で十分に発揮されているため、ぜひ即戦力としてご入社していただきたいです」
30代以降は、技術力に加えてマネジメント経験や問題解決能力の重要性が増します。実際の採用担当者の声を紹介します。
- 「35歳以上はチームリーダー経験があると歓迎され、追加でトラブル対処の経験があるとなお良い。お客様から仕事を生み出せる人であれば年齢問わず、採用している」
- 「社内の平均年齢が20代のため、育成層が不足している。そこで、チームに馴染めそうか、自ら仕事を作り出せるかという点を重視して、50代・60代も採用するようにしている」
このように、キャリアの段階に応じて求められるスキルや役割が異なるものの、ソフトスキルは最終的な決め手や採用要件になっている場合があることが分かります。
面接でソフトスキルをアピールするには
それでは、実際に面接でソフトスキルをアピールするにはどうすれば良いのでしょうか。ここでは「コミュニケーション能力」と「マネジメント力」について解説します。
コミュニケーション能力をアピールする
採用面接では、年齢に関わらずコミュニケーション能力が重視されます。経験が多少浅くても、コミュニケーション能力の高さが評価され、採用に至るケースも少なくありません。面接では特に、以下の点を意識しましょう。
・簡潔で分かりやすい説明を心がける
基本的には結論から話しましょう。例えば、逆質問の際に「〇〇についてお伺いしたいのですが」のように、最初に結論を述べることで面接官の時間を節約し、好印象を与えることができます。「話が冗長で伝わりにくかった」という理由でお見送りになるケースを避けるためにも、普段の会話から意識して練習してみましょう。
・具体的なエピソードを交えて説明する
チームや顧客との連携、問題解決能力などをアピールする際は、具体的なエピソードを交えて説明すると効果的です。例えば、プロジェクトで発生した問題にどのようにチームで取り組み、どのような役割を果たし、どのような結果を出したのかを具体的に説明することで、面接官はあなたの能力をより鮮明にイメージできます。 単に「チームワークを大切にしています」と言うだけでなく、具体的な行動や成果を伝えることで信憑性が高まります。
・リモートワークにおける工夫もアピールする
近年ではリモートワークの普及に伴い「在宅勤務で意識していることは?」という質問を面接で行う企業も増えています。文面でのコミュニケーションで誤解を防ぎ、円滑な意思疎通を図るための工夫や、ツールを活用した効率的なコミュニケーション方法などを具体的に説明できるように準備しておきましょう。 例えば「チャットツールで質問する際に、相手に状況を理解してもらいやすいよう、背景情報を加えるようにしています」といった具体的な行動を挙げると効果的です。
上記のポイントは面接だけでなく、職務経歴書においても応用することが可能です。職務経歴書では、業務上で関わった人々の背景を伝えることで、コミュニケーション能力がより伝わりやすくなります。例えば「営業や経営層、デザイナー、ベンダーなど、社内外の関係者とどのように連携したか」や「異なる部署や職種とどのように円滑なコミュニケーションを取ったか」などを記載することで、幅広い関係者と連携できるスキルのアピールに繋がります。
マネジメント力をアピールする
30代以降の転職では、マネジメント経験に関する質問は頻出です。必ずしも管理職の経験がなくても、メンバーの育成や指導、プロジェクト責任者としての経験を具体的に説明することで、マネジメント力をアピールできます。以下の点を意識しましょう。
・マネジメントスタイルを明確にする
ご自身のマネジメントスタイルの強みを理解し、面接で効果的に伝えられるように準備しましょう。目標設定能力、部下への説明能力、業務管理能力、部下との良好な関係構築などが評価ポイントとなります。自分の強みが分からない場合は、普段から部下にフィードバックをもらうということも有効です。
・具体的な数値や内容を伝える
面接官は、自社のマネジメントを任せられる人材かどうかを見極めようとしているため、具体的な経験に基づいた説明が重要になります。マネジメント経験について質問された際は「何名規模のチームを率いたか」「どの工程を担当したか」など、具体的な数値や内容を伝えることが重要です。
・メンバーを統率時に意識していたポイントを伝える
チームの方針や目標をどのようにメンバーに伝えていたか、なぜそのように接していたのかなど、具体的な行動とその理由を説明することで、あなたのマネジメントへの考え方が伝わります。
・チームやプロジェクトの課題点を説明する
どのようなチームやプロジェクトでも、問題点や課題は必ず存在します。そのため、チームの状況を正しく把握し、適切な対策を講じているかは重要なポイントです。また、マネジメントの規模が大きくなるほど、より抽象的で本質的な課題への対応が求められます。自分の所属チームだけでなく、周辺チームや事業全体、さらには会社全体の課題を把握できていると、より高く評価されるでしょう。
経験が少ない場合は、上記のような能力を身に付けるためにどのような努力をしているか、どのような経験を積みたいと考えているかなどを伝えることも有効です。成長意欲や学習意欲をアピールすることで、将来的なマネジメント力のポテンシャルを評価してもらえる可能性があります。
マネジメント能力は年収アップや昇格に直結しやすい場合が多く、キャリアアップを目指す上で非常に重要です。2024年度の企業の採用活動において最も力を入れているポジションは「リーダークラス(38.0%)」「メンバークラス(36.1%)」「ハイクラス・管理職(20.5%)」と続きます。この結果から、マネジメントレイヤーの不足が顕著になっています*4。転職市場においても、マネジメント経験は選択肢を大きく広げることができるため、マネジメントに挑戦できるチャンスがあれば、分野問わず積極的に取り組んでみると良いでしょう。
*4: 2024年1月発表「IT人材のキャリア形成と管理職採用に関する実態調査」
エンジニアのキャリアパスとソフトスキルの関係
一般的にエンジニアのキャリアは「マネジメント」と「スペシャリスト」の大きく2つに分けられます。マネジメント系には、プロジェクトマネージャー(PM)、プロダクトマネージャー(PdM)、VPoE、エンジニアリングマネージャーなどが、スペシャリスト系には、テックリード、ITコンサルタント、CTOなどが分類されます。
これらの職種で活躍するには、技術力に加えて、それぞれの役割に適したソフトスキルが重要になります。求人票などでよく見かける代表的なスキルは、以下のとおりです。
- エンジニアリングマネージャー:メンバーのマネジメント力、リーダーシップ、ストレス管理力、コミュニケーション力
- プロダクトマネージャー:ビジネススキル、経営知識、問題解決能力、様々な部署との交渉力
- プロジェクトマネージャー:プロジェクト管理力、コミュニケーション力、論理的思考力
- アーキテクト:問題解決能力、交渉力、リーダーシップ
- テックリード/CTOなどのスペシャリスト:言語化能力、リーダーシップ、プレゼンテーション力、問題解決能力
ソフトスキルは全ての職種で重要ですが、特に強く求められる職種では、求人倍率や年収も高くなる傾向があります。
マネジメントのキャリアとしてプロジェクトマネージャー(PM)を例に説明します。PMはプロジェクトの進捗、予算、そして数名から数十名規模のチームの進捗状況や業務内容の管理に責任を持つ役割です。計画通りのプロジェクト遂行、予算管理、チームメンバーの進捗管理と業務コントロールなど、高いマネジメントスキルが求められます。
こうした高いマネジメントスキルを持つPMの需要は高く、レバテックのデータ(2024年12月時点)では、PMの転職求人倍率は24.6倍、求人数は前年同月比123%増(2024年12月時点)と増加傾向にあります*5。平均年収も750~800万円程度(レバテックキャリアの求人情報に基づく)と、給与所得者全体の平均年収458万円*6と比較しても高水準です。ソフトスキル、特にマネジメントスキルを高めることで、PMのような希望のポジションや高収入を実現できる可能性が高まります。
*5: レバテックキャリア「プロジェクトマネージャーの平均年収は? 年収アップの方法も解説
*6: 国税庁「令和4年分 民間給与実態統計調査」
スペシャリストのポジションにおいても、ソフトスキルの向上はキャリアアップに不可欠です。
例えば、テックリードはPMと混同されがちですが、開発やレビューを行うなどPMよりも開発に近いポジションです。プロジェクトメンバーを動かす必要もあるため、開発スキルに加えてソフトスキルも求められます。また、技術的なスキルの高さやコミュニケーション能力が求められるテックリードはITアーキテクト、CTO、VPoE、EMなど多様なキャリアパスに恵まれ、経営にも大きく影響するポジションに到達できる可能性を秘めています。
目指すポジションによって求められるソフトスキルの比重は異なりますが、キャリアアップを目指すうえで、ソフトスキルを磨くことは非常に重要です。
どのようにソフトスキルを向上させるか
実際にソフトスキルはどのように向上させることができるのでしょうか。最近では、コミュニケーション能力やマネジメントに関する書籍やオンライン講座、セミナーも豊富に提供されており、体系的な知識を学ぶ機会が増えています。これらのリソースを活用しながら、実践を通してスキルを磨いていきましょう。
なお、今すぐにソフトスキルを向上できる方法としては、下記がおすすめです。
・フィードバックを受ける
上司や同僚から、自分のコミュニケーションについてフィードバックをもらいましょう。質問や指示の出し方、文章でのコミュニケーションなど、客観的な意見は貴重な気づきを与えてくれます。AIツールを活用して客観的な評価を得るのも1つの方法です。
・ロールモデルを見つける
マネジメントスキルやコミュニケーション能力の高い人を観察し、参考にすることは自身のスキルアップのための一歩になると言えます。身近なクライアントや上司、同僚でも「〇〇さんの指示の出し方は分かりやすいな」や「〇〇さんのようなコミュニケーション能力を身につけたい」と思う人を見つけ、具体的な目標設定に役立てましょう。身近なロールモデルを見つけることは具体的な目標設定を可能にするだけでなく、彼らの成長を間近で見ることで自身の成長へのモチベーション向上にも繋がります。
また、異なる部署のメンバーとの交流や直属ではない上司との1on1を設ける企業もあります。企業の研修や制度を通して、多様な視点や考え方を取り入れることもできるので、積極的に活用するのもおすすめです。
マネジメントスキルは実践経験が重要ですが、マネジメントを行うポジションに就いていない場合にはそのスキルを磨く機会が限られるのも事実です。そこで、将来マネジメントポジションを目指す方に向けて、中長期的に実践できる方法を3つ紹介します。
まずはハードスキルを磨く
実績と成果は、新たなチャンスに繋がる強力な武器です。まずは、現在の職場やプロジェクトで評価されるハードスキルを磨き、目に見える成果を上げることに集中しましょう。
新しい役割に挑戦する
周囲の業務をサポートしたり、自主的にプロジェクトを立ち上げたりすることで、マネジメントに必要なスキルを身に付ける機会を増やすことができます。例えば、チームのPMやPLのサポート役を買って出るのもおすすめです。できることを少しずつ増やしていくことで、新たなチャンスが巡ってきやすくなります。
小さな「マネジメント」に挑戦する
例えば、後輩指導や勉強会の開催などを自主的に行うことで、マネジメント経験を積むことができます。規模は小さくても、主体的に「人を動かす」経験は貴重な学びとなるでしょう。
おわりに
ソフトスキルを向上させることは、転職時の面接通過率を高めるだけでなく、自身の希望するポジションや年収での転職を叶えやすくする可能性があります。特に変化の激しいIT業界においては、ハードスキルに加えてソフトスキルを磨くことが重要です。そのためにも、インプットだけでなく、継続的なアウトプットを意識し、実践してみてください。
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