SBVA法の今後の展開と関連研究

2008年4月30日(水)
中鉢 欣秀

SBVA法の今後の発展

 SBVA法は情報システムのユースケース分析を行うための手法として位置付けている。しかしながら、筆者らは今後この手法を改良することで、いくつかのより深い分析作業に適用できるのではないかと考えている。ここでは、将来的な研究課題である、図2に示す3つのテーマについて述べる。

3つの研究課題

 1つ目は、プロセス改善のための手法として利用できるようにすることである。現在、注目しているのは、要(かなめ)のもの・こと分析(「もの・こと分析で成功するシンプルな仕事の構想法」、中村善太郎、日刊工業新聞社、2003)に本手法を適用することである。このために取り入れたいのは、現状行っているシナリオの名詞要素と動詞要素についての関係構造の把握に加えて、名詞要素のシナリオの時系列に沿った状態変化を分析できるようにすることだ。

 そこから、それらの状態変化の全体像を捉え、どの名詞要素が「要のもの」であり、シナリオのどのステップが「要のこと」であるかを明らかにできるようにする。これができれば、現状の業務の手順から、要のもの・ことに関連するステップを抽出し、そこから望ましい業務手順を構築することが可能になるだろう。

 2つ目は、データモデリングの実施である。SBVA法の入力として用いるシナリオは、動的モデルの一種である。これに対して、データモデルは静的モデルであり、一見すると相反するモデルである。

 実際、現状のSBVA法ではシナリオの動詞要素に注目して、情報システムの機能をユースケースとして抽出している。しかしながら、名詞要素についてももっと活用できる。そこで、次の展開として名詞要素にも注目し、データモデリングにも適用できるようにする。これには、先ほど述べた名詞要素の状態変化の分析とも組み合わせて行うのが良いだろう。

 筆者らの研究では、非IT技術者にとってシステムの本質的なデータ構造を抽出してデータモデルを作成することは、一般的に困難な作業であり、習熟にはそれなりの時間がかかることが分かっている。

 これに対して、シナリオであれば、技術的バックグラウンドがない実務従事者であっても作成しやすい。この利点を生かし、動的モデルであるシナリオから、情報システムの基幹構造を示す静的モデル(データモデルや、オブジェクト指向におけるクラスモデル)を作成できるようにすることには大きな価値がある。

 最後の3つ目の展開として、ビジネス目標そのものの分析を行わせることである。本連載の第1回でも述べたが、ITシステムはビジネスにおける目標を達成するために構築するべきものである。しかしながら、実際には企業の経営者にとって、IT戦略を立案してビジネス目標を立てることそのものが難しい。

 もともと、シナリオによる分析はビジネス戦略立案のための手法としても一般的である。SBVA法についても、そのような利用法を視野に入れて今後の改良を進めていきたい。

 さて全5回にわたって、筆者らが研究しているSBVA法について紹介してきたが、いかがだっただろうか。本格的な実用化はこれからであるが、現在までのところ特にユーザ企業に所属するビジネスパーソンに興味を持っていただいている。簡便な手法という特徴を失うことなく、今後とも改良を行い、実用化と普及を目指していきたい。最後に、本研究領域に関連する形式言語による仕様記述について解説していこう。

産業技術大学院大学
産業技術大学院大学(AIIT)准教授。2004年、慶應義塾大学大学院にて博士(政策・メディア)号取得後、JST研究員を経て現職。ソフトウェア工学(上流工程、ソフトウェアアーキテクチャなど)に関する研究に従事。社会人学生を対象とし、プロジェクト型教育(PBL)によるソフトウェア開発プロセスの教育などを実践。http://aiit.ac.jp/

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています