オフショア開発向けUML適用ガイドライン

2008年5月29日(木)
正田 塁

実装工程でのノウハウ

 最後にレビュー関連のノウハウを整理しておきたいと思います(図3)。レビューには「ポイント19 ValidationとVerification」で示したように2つの視点があります。オフショア側は仕様通りに正しく作られているかという検証(Verification)に終始し、ビジネス要求を満たすかどうかの妥当性確認(Validation)の視点をもたないことが多いので留意が必要です。

 オフショア開発成功の第一歩は、「ポイント17 オフショア側での成果物のレビュー実施」を確実にすることです。オフショア側の成果物は信用できないと重箱の隅をつつくようなチェックを続けていても、両者の信頼関係は悪化するばかりで、日本側の負荷は軽減されません。オフショア側も「どうせ日本側でもレビューするのだから」と手を抜きます。

 不安はありますが、思い切ってオフショア側を信頼して任せてみることです。その上で、オフショア側と日本側のレビューの違いや目的をきちんと伝えておく必要があります。

 一方でオフショア側に完全に任せっぱなしにすると、目標通りの品質・機能を達成できないことが多々発生します。「ポイント18 日本側はチェックを繰り返し行う」ための工数と人材を確保しておく必要があります。

 日本側のチェックでは、オフショア側のレビュー結果をサンプリング的に確認することに加えて、意識レベルや理解度を繰り返し確認することが肝要です。オフショア開発のコストダウンが目的化した結果、最低限必要な日本側の要員まで削ってしまうということがおこりがちなので注意が必要です。

 なお「ポイント20 モデルで詳細設計のレビュー」や「ポイント21 UML図間の整合性」などモデルを利用してレビューすることで、効率よく確実にレビューが実施できます。

ガイドラインの効果と今後の展開予定

 ガイドラインができ上がってみると、1つ1つのノウハウはそれ程目新しいことではないように思います。しかしガイドラインを作る過程で、プロジェクト内では当たり前だと思っていたことが、ほかのプロジェクトでは当たり前ではないのだなという気付きがありました。

 また、自己流で産み出した工夫もプロジェクトや会社を超えたアイデアや理論で補強されると確かなものとなって自信をもって実施できるようになります。

 「オフショア開発にモデリングを適用したいと思うが、なかなか上司やユーザの理解が得られない。でも、ガイドラインができたことによって社内で説明がしやすくなった」という意見も耳にしました。ガイドラインを適用した開発事例も少しずつですが、でてきています。

 その内の1つが、「第3回:モデル利用で「腹割り」型委託を実現(http://www.thinkit.co.jp/article/69/3/)」で紹介したElapizプロジェクトです。ガイドラインが対象とするカスタム開発ではなく製品開発ですが、極力ガイドラインを適用したプロジェクト運営を進めています。

 プロジェクトが長期化すると以前はガイドライン通りに進めていたことが、いつの間にか守られなくなっていることに気付くことがあります。大きな問題になる前にプロジェクトのリスクを察知できます。このようにガイドラインをチェックリストとして使うことも有用だと思います。

 UMTPオフショア部会としては、ガイドライン適用事例やサンプル集の充実など、今後もガイドラインの改善をはじめ、オフショアにおけるUMLモデリングの有効活用に関する活動を継続して進めます。オフショア開発に悩む多くの方がガイドラインを利用され、フィードバックをお寄せいただければ幸いです。

株式会社オージス総研
1992年 株式会社オージス総研入社。入社後は汎用機のプログラマを経て、分散オブジェクトの研究開発、オブジェクト指向関連製品の技術サポート、製品コンサルに従事。最近ではインド、中国でのUML、BPMツールのオフショア開発プロジェクトのPMを経験する。UMLモデリング推進協議会(UMTP)オフショアソフトウェア開発部会メンバー。

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