美しく文字を組む
ステムをそろえる
ここでは20世紀の著名なデザイナー、ヤン・チヒョルトの書籍「書物と活字」(出版社: 朗文堂)で取り上げられている手法に基づいて紹介したいと思います。
ヤン・チヒョルトは20世紀に活躍したドイツ人のデザイナーで、ペンギン・ブックスのアート・ディレクターとしても知られています。チヒョルトの著書「書物と活字」は、日本語版も出版されており、現在では希少となっていますが、美しい装丁とともにデザイナーにタイポグラフィの教科書として使われています。
それでは、美しく見せる文字組を実践していきましょう。
欧文活字書体「Universe」を使って文字を組みます。図2-1の「mimi」という文字組を使って解説します。「m」と「i」の活字には、ステムと呼ばれる縦のラインが存在します。ステムとは活字の骨格の縦の柱を指しています。
まず「m」は活字自身にステムを3本持っています。この3本の間隔を基準として、次の「i」までの距離を取ります。そして3番目のmまでの距離も同じ間隔で調整します。そうすると4つの活字がステムという基準で等間隔に並びます。人間は感覚的に等間隔を美しいと感じることから、考えられた手法です。
ただし、活字によってはステムを持たないものもあります。「a」や「o」、「e」などです。また日本語環境では、漢字・平仮名・カタカナにはステムは存在しません。この場合にはどのように考えればいいのでしょうか。
白と黒の濃度を見る
タイポグラフィでは、よく「濃度」という言葉が使われます。これは活字自体の塗りの領域部分を「黒」、活字の無い余白・空間部分を「白」と見なし、塗りと空間のバランスを視覚から見る考え方です。
全体的に見ると白いページに文章がびっしり詰まっていれば、濃度が濃いとみなし、文章が少なく余白が多い場合には濃度が薄いと見なします。次に1単語で見ていきましょう。
図2-2のように「mountain」と組む場合、「o」と「a」の前後の字間は、濃度を見て調整します。まず「o」に注目すると、oという活字は活字自身が余白を持っています。中心の空洞部分です。タイポグラフィでは活字内の空間を「カウンター・スペース」と呼びます。
ステムの無い活字の文字組は、カウンター・スペースと前後の字間で「白」の領域を見て、活字の塗り部分の「黒」との領域を均等化することでバランスを調整します。漢字や仮名の文字組では、この視覚濃度の調整方法で文字を組むと良いでしょう。
文字組について、広く浸透しているのが、「文字は詰めれば良い」という考え方です。筆者自身も、タイポグラフィを正式に学ぶまでは、そう思い込んでいました。果たして本当にそうなのでしょうか。
ヤン・チヒョルトは「書物と活字」の中で、字間を無意識に詰めていくと、文字間の空間は無くなり、前後の「白」の領域は減っていくが、逆に活字そのものが持つカウンター・スペースが浮き上がってしまうため、ふぞろいな「白」の領域が目立ってしまうと述べています。
濃度比較という手法に基づくと、ギリギリまで詰める文字組は、決して美しいとは言えないようです。
文字の組み方として、図2-1のステムをそろえる作業は、間隔さえ図れば簡単な作業ですが、図2-2の濃度を見るには塗りの領域と空間を視覚化する難しさがあります。日常的には、塗りの部分だけを見て、言語認識することが多いですが、デザイナーには、この空間をコントロールする力が必要とされます。