流行色をどうやって活用するのか
「時代の気分」をつかむ
色彩活用の基礎をしっかり押さえた上で、人を引きつけるためにぜひ取り入れたい方法は、「時代の気分」を色で伝える手法です。
突然ですが、今日あなたが着ている服の色は何色ですか。なぜその色を選んだのでしょうか。何となくという人もいれば、占いで今日のラッキーカラーだったから等々、理由は人それぞれでしょうが、今身につけている服の色は、おおむね今日の自分自身の気分が表れていると言えます。
このような気分は伝染することがあるようで、ふと見回してみると、オフィスの女性の多くが紫を着ていたなどということもあるのです。
このような現象が国境を越えて、同時期に、各地で発生することがあります。これらの現象を、筆者のようなカラートレンドの仕事に携わる人たちの間では「時代の気分」と呼ぶことがあります。
例えば、1980年中ごろからファッション、インテリアともに黒が大流行しました。川久保 玲(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B7%9D%E4%B9%85%E4%BF%9D%E7%8E%B2)や、ヨウジヤマモト(http://www.yohjiyamamoto.co.jp/)が東京コレクション(http://www.jfw.jp/)で発表した「黒」がきっかけとなり、それまで「ハレとケ」で言う「ケ」の色だった「黒」が、おしゃれな「ハレ」の色に昇格したのです。ちなみに、このころ自動車業界では白の大ブームでした。
2002年には、自動車や携帯電話、服飾ファッションで申し合わせたように、オレンジ色が流行しました。長い不況からそろそろと抜け出し、プチバブルと言われた2004から2005年に向かうころで、主張の強い色が求められ始めたころでした。多くの人を引きつけるために、このような世情の表れ「時代の気分」をつかんでおいて損はないはずです。
「カラー・ストーリー」を描く
図3はオートカラーアウォード2003の表彰式シーンです。
オートカラーアウォードとは、財団法人日本ファッション協会(旧・日本流行色協会)(http://www.jafca.org/)が1998年から実施している、自動車のカラーデザインを競う顕彰制度です。
オートカラーアウォード2003では、日産マーチのパプリカ・オレンジがグランプリを受賞しました。新しいマーチのフレンドリーな顔に、パプリカ・オレンジがぴったりと合っていたこと、インテリアの色も、エクステリアの色によく調和していたことが評価されました。加えて、それまでの日本の自動車市場では初めて「カラー」を全面に出した販売戦略が実行されたことも高く評価されたのです。
3代目マーチは1999年から2001年にかけて開発され、2002年に発表されました。マーチは初代から20代の人々をターゲットにしていますが、3代目マーチはその中でも特に女性に焦点を当てた、独自性のあるカラー展開が求められていました。12色中5色をコミュニケーションカラーと位置づけ、新色が開発されました。
コミュニケーションカラーとは、ユーザーにクルマのイメージを明快に伝えるためのカラーのことです。5色のコミュニケーションカラーは、これまでのマーチの「カラフル」なイメージを継承し、さらに新しいマーチの個性を際だたせ、なおかつ親しみやすく、これまでのコンパクトカラーより質の高い色を目指さなければならないという命題を背負っていました。
そこで立てられた戦略が、当時流行していたおしゃれなカフェでのランチシーンを題材に、カラーでストーリーを作るというものでした。そして、コマーシャルは色別に映像を作って5色を順次放映し、ポスターや販促資料もすべて5色のコミュニケーションカラーを打ち出していきました。
図3には、5色のコミュニケーションカラーのうち3色がありますが、右から、「パプリカ・オレンジ」「フレッシュ・オリーブ」「アクア・ブルー」です。どの色もおいしそうなランチの食卓、そしてそこに集う女性たちのハツラツと楽しそうな笑顔が浮かびそうな色と言えます。
結果として12色中5色でマーチ全体の4割を占めました。通常は、自動車市場では白、黒、グレー、赤、青で8割を占められるということを考え合わせれば、カラー・ストーリー戦略が見事に成功した事例と言えます。
前述したように、2002年は分野を問わず一斉にオレンジが注目され、マーチは3年前から2002年に照準を合わせてオレンジを開発し、見事に市場に受け入れられました。この事例からもわかるように「時代の気分」を楽しんでデザインに生かすことで、さらにデザインをすることに魅力と楽しさを感じられるはずです。
次回は、今回紹介した「時代の気分」をふまえて、どのような色が、人々をどんな気分にさせるのでしょうか、色が持っている人の感情に働きかける効果について紹介します。