デジタルタイポグラフィの現在

2008年12月22日(月)
米倉 明男

デジタルタイプ・ファウンダリー「T.26」

 エミグレと同じく、アメリカでデザイナーズ書体を販売している草分け的存在が、「T.26(http://www.t26.com/)」です。

 T.26はキューバ出身のカルロス・セグラ(Carlos Segura)が設立したデジタルタイプ・ファウンダリーです。T.26の書体は、90年代流行した活字を汚したり、形状を崩す傾向のグランジ(汚れた)フォントや近未来的なテクノ・フォントが有名です。中でも特に人気がある書体として、「Droplet(ドロップレット)」「FutureKill(フューチャーキル)」などがあります(図3)。

 またT.26は、以前から日本のグラフィック・デザイナーにも人気が高く、2007年の企業コラボレーションとして、ユニクロのTシャツシリーズにもなったことが記憶に新しいところです。

タイポグラフィの現在

 ここ数年、インターネットを通してタイポグラフィの実験を発表するサイトが話題になっています。ここからは、海外のタイポグラフィ情報サイトで最近話題となった作品を紹介します。

 「WOOD TYPEC(http://www.t26.com/merch_items/84-Wood-Type-Impressions-2-br-/)」は、先ほど紹介した「T.26」より発表された作品です。金属活字以前の木版印刷用活字をデジタル化して、アナログ感を表現しています。

 木版印刷の持つ独特なかすれ具合が趣を醸し出していて、グランジ・フォントとも違う古き良き印象を受けるでしょう。このWOOD TYPECはデジタル・フォントとしては販売されておらず、TIFF形式の画像となります。現在、さまざまなパターンを収めたDVDが販売されています。

 「GARAMOND POWERLINE(http://www.0c0m0y0k.de/garamondpowerline/garamondpowerline.html)」は、16世紀クロード・ギャラモン(Claude Garamond)によって作られたローマン体「Garamond(ギャラモン)」(http://thinkit.jp/article/715/2/)を、送電線をモチーフに使って細かく描写し、表現するという大胆なアイデアの作品です。繊細なイラストの中にもギャラモン書体へのオマージュを十分に感じさせられるでしょう。

 「Alice in Wonderland with Processing(http://www.vimeo.com/1270177/)」は、タイポグラフィを使ったデジタル・アート作品です。この作品はメディア・アート・プログラミングの「Prossesing(プロセッシング)」を使用しています。

 Processsingとは、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボのベン・フライ(Ben Fry)とケーシーリアス(Casey Reas)によって作られたオープンソースのプログラミング・プロジェクトです。Javaをベースとしたプログラミングによって、抽象的なビジュアル・アートを描くことで注目されています。先日、ベータ版から、正式にProcessing1.0へとバージョンアップしました。

 Processingは、タイポグラフィ面において、Flashよりも動作がスムーズに表現できるため、数多くの作品が公開されています。今回紹介する「Alice in Wonderland with Processing」はらせん状に回転する組版作品です。

 全4回にわたり、現在までのタイポグラフィの歴史、そして実践的な文字組のテクニックを紹介してきました。

 これまでの解説でも分かるように、タイポグラフィは、過去の文献から美を探求し、そしてその時代性にあった解釈により復刻を繰り替えすことで進化し続けてきました。デザイナーを魅了し続けるタイポグラフィは、これからも試行錯誤が繰り返され、次の世代へと受け継がれていくことでしょう。

【参考文献】

組版工学研究会『欧文書体百花事典』朗文堂(発行年:2003)

『IDEA NO. 314 : エミグレ 1984-2005』誠文堂新光社(発行年:2006)

TypeNEU - An Odyssey in Typography(http://www.typeneu.com/)(アクセス:2008/12)

Webデザイナー。印刷会社、Web制作会社などのデザイナー/ディレクターを経て、2007年からフリーランスとして活動。デジタルハリウッド講師。http://www.morethanwords.jp

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