仕事に活かすデザインスキルの高め方
連載第20回目です。前回は、デザインスキルを向上するための方法論について説明しましたが、どちらかというと「情報収集」と「意識付け」のお話でした。今回は、具体的に「デザインを仕事に活かすためにはどうするべきか」を考えていきます。
私がデザイナーになりたての時は、有名な広告のタイポグラフィや表現をマネしていました。マネることはデザインを理解する練習になるので、積み重ねることで自らデザインを思考できるようになります。絵画の世界でも模写はスキルを向上する技法としてとてもポピュラーな方法ですよね。それと同じです。
”文字”を制する!
デザインにおいて“文字”はとても重要な要素です。デザインは視覚的表現ですが、その中でも文字は最初に目が行くところで、しかも伝えたいメッセージをストレートに表現しているからです。そこで、まずは文字に関するスキルを高めることを考え、文字を使いこなせるようになることを目指します。
そのためには、街に出た時に看板や広告、サインなどを意識して見るようにしましょう。そして、どのようなメディアでどのようなフォントが使われているか、あるいは、どのような内容でどういったフォントが使われているか、さらにそのフォントを使ってどうデザインされているかに意識を向けて、なぜこのフォントなのか、なぜこの色なのかをじっくりと考えます。後でも考えられるように、気に入ったものは写真に撮っておくのも有効ですね。
デザインには作った人の意図が含まれているので、それを考えて分析することこそデザインの効果的な訓練になるわけです。これまでに説明した基礎知識をベースに新たな気付きを積み上げていく感じです。
気に入ったデザインを分析し、マネて、オリジナルへと変えていく
まず、気に入ったデザインがあれば、そのデザインを見ながらスペーシングやカラーリング、使われているデザインエレメント(飾りや罫線)の意味を考えます。もちろんフォントの意味も考えます。
次に、そのデザインをマネてプレゼン用のテンプレートを作ってみます。例えば、下図のようなデザインが気に入ったとしましょう。
これをベースに、まずは同じフォントや近いデザインのフォントで自分の資料を作ってみます。この例ではフォントが英語なので、伝えたいメッセージが日本語なら日本語に置き換えます。この段階では、参考にしたデザインをマネてみることが目的ですから、そのデザインの雰囲気も含めてマネてみます。カラーリングも色合いや空間のバランス(面積比率)もマネてみます。完成したら、見比べてみましょう。同じシリーズのデザインに見えれば、上手くマネできたことになります。まずはそこからです。
これだけでも練習としてはとても効果的ですが、このまま使ってしまうと問題になりますし、何より間違ったメッセージを発信してしまう可能性も高いので、ここから自分の伝えたいメッセージを“コンセプト”に、フォントやカラーリング、スペーシング、使われているデザインエレメント(飾りや罫線)を意識して置き換えていきます。
そうすると、例えば次のようなプレゼン資料のテンプレートに変わっていきます。
いかがですか? 近いイメージになったでしょうか。このようにして自分のオリジナルテンプレートを作っていきます。
上記の2つの図を比較しても明白なように、もはやオリジナルのデザインになっています。色合いやタイポグラフィの雰囲気は参考にしましたが、並べても同じレイアウトではないし、デザイン要素の大きいアイコンデザインはプレゼン資料のテンプレートには使っていないからです。
このように、他のデザインを参考にすることで自分のデザインを作ることができます。この練習をしていけば、自ずとUIデザインも良くなっていくはずです。
雑誌を見る!
もう1つ重要なことは、雑誌を“見る”ことです。
今の時代はネットの情報に頼ってしまい、あまり雑誌を買わないかもしれません。検索すれば大抵の情報は得られますし、無料なので便利です。しかし、ネット空間は無限なので、空間に制約のある本や雑誌ほどデザインを意識していないケースが多いです。
もちろん、中にはしっかりデザインされたWebサイトもありますが、ことデザインに関しては雑誌の方がよく考えられています。限られた誌面に何をどのように配置するか、選別した情報をどうすれば効果的に伝えられるか、文字数も必要限度内に抑えないといけません。写真も1枚で的確にメッセージを表現しなければなりません。限られた誌面だからこそ、しっかりと考えられているわけですね。
このように、デザインを作るためには雑誌を見ることも参考になるわけです。作る側としては、Webサイトの内容だけでなく、デザインの観点からも品質の差を理解してもらいたいですよね。
プロのデザインを参考にする
みなさんが普段読んでいる本や雑誌の中にもハイクオリティなものがあります。特に誌面や表紙をプロのデザイナーがレイアウトしたものは秀逸です。デザイン雑誌「月刊MdN」(エムディエヌ社刊)もそうですよね。その内容もさることながら、デザインスキルを高めるためにも、すごく良い勉強になります。
パッと見ではよくわからないかもしれませんが、整理された情報が見やすく読みやすく配置され、プロの目で選定された品質の高いものになっているからこそ、読む側もワクワクするのです。ぜひ、デザインの観点から本や雑誌を見るようにすることも考えていきましょう。
今回はここまでです。次回もお楽しみに。