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テクノロジからみたSaaSの経済学 |
第1回:SaaSというビジネスモデルの成功要因とは
著者:ラクラス 北原 佳郎 2007/10/23
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SaaSというビジネスモデルの成功要因は?
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Server Based Computingという積年の夢は、SaaSにの出現によりようやく現実のものとなった。ユーザはソフトウェアを「所有」する負荷を負うことなく、自社向けにカスタマイズされた機能を、インターネットを通じて「利用」できるようになった。
ここ1年間、SaaSに関してはさまざまな意見が飛び交った。あるベンダーのCEOは「マルチテナント、カスタマイズ、ユーザインタフェースがSaaSの3大特徴」と語った。「Ajax、マッシュアップ、そしてプラットフォーム」などの新語の普及に貢献したベンダーもいた。
そして「ASPとどこが違うのか?」という質問は、IT業界共通の話題となった。しかし「簡単にはじめられ、いつでもキャンセルされてしまう月極め料金のビジネスモデルって、どうやったら成立するの?」という素朴な疑問への回答はまだ提示されていない。
SaaSモデルにおいて、ベンダーはユーザに成り代わり、「ソフトウェアを動かすための各種経営資源」を準備しなければならない。
これまでユーザの責任範囲とされてきた各種経営資源を背負いながら、なおかつ経済的に成功するためには、精緻な事業計画が必要である。そのポイントは何なのか、そして、そのポイントを外すと何が起こるのかについて、本連載を通じて明らかにしたい。
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ユーザの利便性は大きい
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アプリケーション・ソフトウェアを所有すると、ユーザはさまざまなな負荷を負う。ソフトウェアを稼動させるために、ユーザは「ヒト・モノ・カネ」といった経営資源を投入する必要がある。
ここでいう「モノ」とは、ミドルウェアやハードウェアといった設備、あるいはその置き場所といった施設である。「カネ」は、ソフトウェア購入時のキャッシュアウトである。ソフトウェアが望み通りに機能するかは、購入後の導入作業次第である。しかしキャッシュは購入時に流出する。しかも無形固定資産に計上され、一括して費用化することはできない。
ユーザが負う負荷の中で最大のものは、エンジニアという人的資源の消費だろう。これが「ヒト」だ。
エンジニアの仕事は、数々のパラメータ設定やカスタマイズ、アクセス権設定、ログ取得、バックアップ、バージョンアップ、ウイルス対策など、幅広い。ソフトウェアを安定して稼動させるためには、日頃の保守・管理が欠かせない。ソフトウェアを所有するには、これらの作業を社内で負わなければならないのである。これらの負荷は、企業にとって単なるコストの積み重ねになる。
ソフトウェアを導入したことで業務が効率化されたり、製品の競争力が増したりすることは確かに素晴らしい。しかし、負荷を負うことなくこれらの利便性だけを受け取ることができたなら、もっと素晴らしいに違いない。
保守・管理よりももっと生産的な仕事にエンジニアを回すことができるだろうし、キャッシュが固定してしまうこともなくなる。経営者やIT部門の責任者であれば、誰でもそう考えるだろう。
この望みをかなえるのがSaaSである。
単なるテンプレートを提供するASPは、企業ごとの独自性を吸収することができなかった。カスタマイズしようとしたら、高くつくものであった。結局のところ利用できたのは、企業ごとにカスタマイズする必要のない、メールやスケジューラーといったソフトだけだった。
SaaSは企業の独自性に合わせたカスタマイズが可能だ。しかも短期間に導入でき、データ移行も簡単だ。料金は月極めなので、ユーザ数の変動に容易に対応でき、しかもいつでもキャンセルできる。
「ソフトウェアを所有する負荷を負うことなく、サービスとして利用する」というコンセプトは、広くユーザに受け入れられるに違いない。
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著者プロフィール
ラクラス株式会社 北原 佳郎
代表取締役社長
人事情報データベースとWebワークフローソフトをユーザごとにカスタマイズしたSaaSで提供し、さらに要望に応じて日常人事業務のビジネスプロセスアウトソーシングも提供するという、日本初の人事SaaS+BPOサービス「ラクラスイオ」を提供している。著書に『「ヒト」を生かすアウトソーシング』『SaaSはASPを超えた』(いずれも(株)ファーストプレス)がある。
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