CMS導入、その後
ソフトウエアの選定とステップの作成
前回、CMSの導入に向けて要件定義まで解説しました。要件定義が完了したら、Webサイトと運用に関する全体像が具体的にイメージできるようになります。ここに至ってようやくソフトウエアの選定に入ることができます。
CMS導入をステップ区切りで段階的に行うことが決まっている場合、各ステップにおける実施範囲の検討はこの時点で行うのが良いでしょう。というのも、要件定義によって当初想定していなかった細かい課題が明確になり、解決すべき問題が増えている可能性が高いためです。また、この時点でWebサイトと運用に関するあるべき全体像がメンバー間で共有されているかどうかを再度確認しておきましょう。
この後はソフトウエアの選定や、詳細設計に入っていきます。もし、意識の共有が十分に行われておらず、完成後すぐに作り直しの必要性が生じた場合、再び要件定義に立ち戻らざるを得ません。CMS導入のプロジェクトの多くは大規模なものであり、作り上げてから再度改修するのでは大変な工数を要します。そのため、それぞれの工程の区切りで、メンバー内の情報共有を十分に行い、合意を得た上で次の工程に進んでいくことが重要なリスクヘッジになります。
では、ソフトウエアの選定に話を進めましょう。CMS導入といっても、必ずソフトウエアを導入しなければならないというわけではありません。ガイドラインを作成し、メンバー間で情報を共有できるファイルサーバーを構築するだけで問題が解決できる場合もあります。解決すべき課題、行うべき内容や規模に応じて最適なものを導入し、コンテンツを管理できるようにすることが重要であり、ソフトウエアの導入そのものが目的ではないことを忘れないでください。
ソフトウエアの導入にあたり、「欲しい機能があらかじめ搭載されているソフトウエアなのかどうか」については、特に入念に確認するようにしましょう。前回解説したようにソフトウエアはただの箱でしかなく、多くの機能は新たに作り上げなければなりません。そのため、あらかじめ機能として備えているのか、新規に追加すればできるようになるのか、は大きな違いがあります。ここを見誤ると、想定していたスケジュールや予算をオーバーしてしまう可能性があります。また、そもそも実装ができないといったものも存在するので、重要な機能についてはしっかりと確認する必要があります。
ソフトウエアの選定においては、必要な機能をどのように実現するか、特にプライオリティの高い機能についてはどのような仕様になっているのか、実際に使ってみるなど十分に確認した上で選定するようにしましょう。
導入に必要な作業
要件定義が終わり、ソフトウエアの選定が完了したらいよいよ構築に入ります。CMSといっても通常のシステム開発となんら変わりはありません。要件定義が完了したら、設計、開発、テストという順に進んでいきます。
ここで確認しなければならないのは、入力画面やワークフローの仕組みなど、目に見える部分がどのように作られているのかという点です。その先の詳細な仕様も見ることができるのであれば、確認しておきましょう。少なくとも、ユーザー側の詳細な仕様については確認が必要です。設計工程でのアウトプットとしては以下のようなものがあります。
・基本設計書:CMSの作りや機能について記載した設計書
・データ設計書:CMS内で保持するデータの形について記載した設計書
・テンプレート設計書:ページの元になるテンプレートについて記載した設計書
・ワークフロー設計書:コンテンツの承認や情報の伝達について記載した設計書
・ロール、アカウント設計書:作成するアカウントとそのアカウントにひも付く情報を記載した設計書
・付随機能設計書:CMSと連動する機能を記載した設計書
これはあくまで一例にすぎず、ソフトウエアによっては作成しないものがあります。それぞれ明確な役割を持つため、必要に応じて作成する必要があります。
これらのアウトプットは、一見するとシステムの設計内容を表したものであるため、専門知識を有していないと読めない難解なものと思われがちです。しかし、実際には誰が見ても分かるように作られているものがほとんどです。ページ数も多いため、読むだけでも大変な労力がかかりますが、少なくともその概要部分はチェックしておくようにしましょう。CMS導入における失敗原因ほとんどは、この部分が誤っている、あるいは抜け落ちているといったものであり、それらのコミュニケーションエラーがこの段階で表に出てこない点にあります。この問題を回避することが設計工程における最も重要な作業です。
そのほか、設計時に重要になるのは性能面やセキュリティー面に関する内容です。CMSをどのように導入するかによってこの内容は大きく違ってきます。
性能に関しては、要件定義の段階で明確に定義する必要があります。静的配信型のCMSであれば、HTMLを作成し配信側のサーバーに転送する方式をとります。この場合は、HTMLを生成するスピードや配信するサーバーの台数などが性能を左右するポイントとなります。動的配信の場合は、ユーザーがアクセスするたびにページを生成する必要があることから、アクセスに対して何秒でレスポンスを返すことができるのかを明確に提示しておく必要があります。
これらを怠るとWebサイトとして一応完成したものの、実用に耐えられないものになってしまうことがあります。そのような場合、作り直しによって余計なコストやスケジュールが加算されてしまいます。これでは導入がうまく行ったとはいえません。CMSでは設計図の簡単な記述漏れが大きく後を引くことになりかねません。このことを特に肝に銘じておく必要があります。