CMS導入、その後

2009年3月27日(金)
門別 諭

構築した後が重要

 開発およびテストはソフトウエアに従って進めるものですが、効率的かつ確実に実施するためにはポイントを絞った確認をしていく必要があります。一般的には、データ保持部分の開発を行い、その上でテンプレート開発に入ることが多いことと思います。ですので、データ保持部分の開発が完了した時点で一度確認をするのがいいでしょう。これによって、想定していた通りの入力イメージになっているかどうかが確認できます。

 ソフトウエアはオープンソースのものから有償のものまで幅広く存在していることから、システム構築の流れはツールによってまったく異なります。しかし、どんなツールにおいても必ず確認すべきポイントは、入力と表示の2つです。

 最初のポイントはデータの保持部分と入力の関係です。どのようにデータを保持しているのかは設計を通じて把握しているものの、それをどのようにして入力するのか、この段階では理解が及んでいない場合があります。まずはどうやって入力するのかを確認しておく必要があります。データの表示について、特に場合分けなどが多く存在しているときには、その部分を重点的にチェックしておく必要があります。

 次は構築後です。複合的なテストを通じてあらかじめ想定した動きになっているかどうかをチェックする必要があります。一般的に受け入れテストと呼ばれる工程です。テンプレートの数によっては非常に多くの工数がかかることを前もって理解しておいてください。

 このテストを通じて基本的なプログラムの動作チェックはできますが、イレギュラーケースや場合分けについてチェックが届かない場合があります。このような部分については今後も繰り返し見ていくようにしなければなりません。特にナビゲーションの可変仕様、トップページやカテゴリトップページなどに表示する下階層コンテンツの引用文など、その条件があいまいになっている部分が存在することから、1つの作業を終えるたびにチェックするように心がけましょう。

 テストを通じて全体的なチェックが完了したら、いよいよ本番データの移行に着手します。CMS導入後半における重要ポイントの1つです。

 意外なことですが、この工程が忘れ去られたままプロジェクトが進むというケースが少なからずあります。移行のスケジュールや方法も検討されないままシステム構築が完了することもあり、後になって問題になることがあります。ほとんどの方はまずそんなことはしないと思いますが、記載がないのであえて議題に上げないというクライアントがまれにいますので、十分な注意が必要です。

 データの移行がCMS導入後半の重要ポイントであるのには、理由があります。例えば、現在Webサイト上にHTMLファイルが5,000ページ存在しているとします。1人の入力数を50ページ/1日程度とした場合、計算すると100日かかる想定になります。50ページ/1日というのはかなり熟練したものでないと難しい数字です。そこで、20ページ/1日を一般的なスキルを持った入力者の限界値とします。この場合、250日かかることになります。この作業を5人で行っても2か月程度を要します。多くの人間を投入し、それぞれが精いっぱい作業を行っても、これだけの工数がかかる作業なのです。

 移行のスケジューリングがどのくらい大切であるかが、これで理解できると思います。本番データの移行がスケジュール面でもコスト面でも大きなウエートを占める作業であるということを肝に銘じておいてください。

 データの移行手段は必ずしも手作業で行うものばかりではありません。弊社ではケースバイケースで、以下の3パターンの移行手段を用意しています。

・手作業でしっかりと移行するもの
・XMLなどの特定の形式でデータの取り込みを行い、機械的に入力を行うもの
・静的HTMLデータをそのまま取り込み新環境に設置するもの

 これらをどのように使い分けるのかをコンテンツマイグレーションとして検討し、構築前に定めてテスト終了後にスムーズに作業に取り掛かれるように準備しています。たとえCMS構築が終わってもデータの移行が終わらない限り、プロジェクトが終わらないのでこの部分を忘れないようにしてください。

トレーニングと運用へのフィット

 データの移行が終わったらいよいよ公開準備に入ります。最終的に確認しておかなければならないことは、運用に必要な情報が共有され、担当者にきちんと伝わっているかどうかという点です。実際にCMSを活用するのは、開発業者ではなく企業のコンテンツ担当者なのですから。

 まずは、運用マニュアルを作成します。運用マニュアルとは企業のコンテンツ担当者が業務の中で行う作業を細かく定義したもので、これを見れば新しいCMSであっても確実に業務をこなすことができる、というものです。どのレベルまで実業務に落とし込んで作成すべきか、この点については開発業者と発注側との間で十分に認識を合わせておく必要があります。

 システム関連における一般的なマニュアルとしてシステムマニュアル、操作マニュアルというものもありますが、これらは作られたシステムをどのように利用するかを記載したものであり、そのままで実際の運用にフィットするものではありません。そのため運用マニュアルについては、実際の業務をどのように区分し、どのレベルまでかみ砕いて説明するべきか、双方の意見交換を通じて詳細を詰めておかなければなりません。

 長い時間をかかてゼロからCMS構築にかかわってきた担当者にしてみれば、CMSの操作手順など目新しいものではありません。しかし、実際に運用する担当者メンバーは、途中の経緯をまったく知りません。いきなりCMSの前に座らされてもどのように扱うべきか皆目見当がつかないものです。このため、個々の担当者が実際の業務の中でどのようにCMSを活用すれば良いのかを示した運用マニュアルを作成する必要があります。

 トレーニングの実施は運用マニュアル作成後が望ましいでしょう。単なる使い方の説明にすぎない操作マニュアルだけを用いてトレーニングを行っても、実際の運用においてはまったく異なったシチュエーションが多いものです。Webサイトの仕様やシステムに精通している人であればすぐに応用できるとは思いますが、システムに初めて触る人の場合、操作するだけでも大変な作業であることを忘れてはいけません。

 CMSは企業そのものの運営に深くフィットさせる必要があります。実際の業務にフィットしないシステムをいくら作っても有効に機能しないことは明らかです。そのためには、操作マニュアルというシステムを理解するためのマニュアルと、それぞれの担当者が運用する際に利用する運用のマニュアルを2通り作成し、担当者のリテラシーや担当範囲などに応じたトレーニングを個別に行い、しっかりと理解させていくことがWebサイトの公開前後を通じて取り組んでいかなければならない課題です。

 CMSを用いたWebサイトの運用は担当者の想像以上にハードルが高いものです。実際の運用にフィットさせるためには初期段階でしっかりとした理解を与えられる準備とトレーニングを通じた理解度の向上が重要になります。

株式会社キノトロープ
株式会社キノトロープ 代表取締役社長
株式会社キノトロープスリーイント 代表取締役社長
IT技術を有効な成果につながるソリューションに変換してシステムを構築することで顧客に最適なソリューションを提供するITコンサルティングサービスを行う。FatWire社のContent Serverなど、各種CMSを活用したシステム構築を数多く手がけており、CMSに関するセミナーでの講演なども多数行っている。著書:CMS構築 成功の法則

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