PyCon JP 2016開催直前! 今年の見どころを探る― 運営メンバーのコメントを添えて
今年もPyCon JPの季節が到来
来る9月20日~24日に開催される「PyCon JP 2016」。今年は会場を早稲田大学に変更したほか、平日を多く跨ぐことも大きな特徴だ。9月1日現在ではすでにカンファレンスチケットも完売。ディープラーニングや機械学習といったキーワードからPythonへの注目がより高まったこともあり、過去最大規模の開催になると目されている。
Think ITでは、今回も昨年に引き続き、PyCon JPの主要メンバーにお集まりいただき、PyCon JP 2016の見どころを聞いた。今回お集まりいただいたのは、座長を務める鈴木 たかのり氏、副座長でプログラムチームを束ねる齋藤 大輔氏、メディアチームの山口 祐子氏だ。齋藤氏は去年からプログラムチームのメンバーに加わり、山口氏も今年から初めて参加するというフレッシュなメンバーだ。
今回は開催直前ということもあり、趣向を変えて主な見どころの解説に運営側のコメントを添えて紹介する。開催に向けて、予習代わりにでも参考にしてほしい。まずはじめに、開催概要から見てみよう(PyCon JP 2016サイトより引用)。
テーマ:Everyone's different, all are wonderful.
チュートリアル:2016年9月20(火)
カンファレンス:2016年9月21(水)、22(木・祝)
開発スプリント(会場:マイクロソフト):2016年9月23(金)、24(土)
会場:早稲田大学西早稲田キャンパス
昨年からの大きな変更点は、開催日が1日増えたこと、会場が早稲田大学に変わったことだろう。1つずつ詳細を見ていく。
今年のテーマに込められた想い
毎年話題になるPyCon JPのテーマ。今年は「Everyone's different, all are wonderful.」に決定した。日本語訳をすれば「みんなちがって、みんないい」となるだろう。
テーマ決定の背景はPyCon JP 2016サイトの「今年のテーマについて」で紹介されている。ここに引用してみる。
PyCon JP 2016チームではイベントでどんな価値を提供するか、なにを大事にするかなど方針決めのミーティングを数回にわたって行いました。
そのミーティングの中で、今年のイベントのコンセプトとして「Pythonをキーワードに、多様な人たちが、いろいろ楽しめて、新しい可能性が生まれるカンファレンス」にしたいということになりました。ここでいう「多様な人たち」というのは、さまざまな国籍、性別、年齢、職業、職種、立場(スタッフ、スピーカーなど)、宗教、役割、Pythonレベル(初級から上級まで)の人たちなどのことです。
そして、このコンセプトをあらわすテーマについてチーム内で議論しました。そのなかで金子みすゞさんの詩「私と小鳥と鈴と」にある、「みんなちがって、みんないい」という一節がイメージに合うのではという話になり、その英語表現として上記のテーマとなりました。
昨年までは、まずコンテンツの内容を密接に詰めて行き、ある程度コンテンツが固まった後でテーマを決める方針だった。しかし、この方針ではあまりスタッフ全体に浸透しないだけでなく、コンテンツありきの「後付け感」もあったという。
「そこで今年はスタッフ間でミーティングをしていく中で、『PyCon JPってそもそも何を提供するのか』『みんなはどうして来てくれるのか』『どんな人にどんなもの持って帰ってほしいのか』、そういったものをバーっと洗い出して、『何が大事なのか』という話し合いを繰り返しました。最終的に『Pythonをキーワードにもっとレベルアップしたい』『いろんな人が来てみんなが楽しめるイベントにしたい』『みんなが集まることで新たな可能性が生まれる場にしたい』という3つの想いにまとまって、それを言葉にしました」(鈴木たかのり氏)
しかし、「色々な人に来てもらう」ことは大事な理念だが、実際にはなかなか難しいようだ。どうしてもPythonに通じた中上級者のほうが多くなってしまう。
「PyCon JPとしては、もっと初心者だったり若い人に来てもらいたいな、と思っています」(鈴木たかのり氏)
PyCon JPは「チュートリアル」から始まる(20日)
今年も、カンファレンスに先立って開催される「チュートリアル」(有料)。初心者向けに「Pythonを基礎からしっかり身に付ける」ことを目的とした入門セッションだ。しかも今年は朝10時から17時まで(休憩1時間)の長丁場だ。
チュートリアルの開催は例年、PyCon JPからやりたい企業や人を募集していたが、今年は募集ではなくPyCon JPのほうから依頼したという。これは運営側の「受講者数やレベルに合わせたチュートリアルを丸一日かけてしっかりやりたい。そして、それを実現できる信頼できる企業にお願いしたい」(齋藤氏)という思いがあったからだ。
今年のチュートリアルのテーマは、下記の4本となっている。
- はじめてのPython3 ~画像変換による開発入門~
- Pythonを用いたデータ分析入門
- Pythonで始めるディープラーニング入門
- Sphinxハンズオン
「はじめてのPython3」はPythonの初心者向けに3部構成でプログラミングを基礎から学ぶセッションだ。1、2部では基礎のキソを学び、3部では1部2部の内容を応用した課題の挑戦と、しっかりとステップアップしながら学習できる点がポイントだろう。
また、昨年から流行の「ディープラーニング」をこれから学習したい人向けの「Pythonで始めるディープラーニング入門」では、ハンズオンを通じて概要から実際のフレームワークの使い方までを学べる内容となっている。
「Sphinxハンズオン」は昨年も行われた定番とも言えるテーマである。Pythonベースのドキュメント作成ツール「Sphinx」の使い方をハンズオンで学習できる。Sphinxユーザー会がバックアップしてくれるため、安心して学べるセッションだ。
新たな試みとなる「招待講演」(21日)
今年は「PyCon JP参加者と接点が少ない分野の方々を招待し、参加者と講演者とが交流できる場所を提供する」ことを目的に「招待講演」が開催される。講演者は早稲田大学の鷲崎弘宜教授と、株式会社Preferred Networksリサーチャーの得居誠也氏だ(お2人のプロフィールはこちら)。
鷲崎教授はソフトウェアの再利用や品質保証、Pythonなどのプログラミングを中心としたソフトウェアエンジニアリングの産官学連携に携わる。得居氏は深層学習フレームワーク「Chainer」の開発者として知られている。
「今年は会場が早稲田大学なので、Pythonの研究者に焦点を当ててやりたいと考えていました。こういった方々のお話しを聞ける機会はなかなかないと思いますので、ぜひ参加していただきたいと思います。そこから新しい交流が生まれると良いですね」(鈴木たかのり氏)。
トラック数が拡張!「トーク」(21・22日)
「トーク」は、講演者自身が自分の話したいテーマで講演するセッションだ。毎年国内・国外を問わず100を超えるプロポーザル(提案)が殺到するが、実際に講演できるのはひと握りという狭き門である。
昨年までは会場の都合で3トラックしか実施できなかったが、今年は5トラックに拡張して実施。「昨年よりトーク数もバリエーションも増やして開催されます」(山口氏)という。
また、齋藤氏によると「去年は『機械学習』だったりとか流行で少し偏りがありましたが、今年は大前提として『多様性』というテーマがあるので、各トピックからバランス良く選ぼうというのを試みとしてやっています」とのこと。
このような試みの中で厳しいレビューを突破し、見事に採用となったトークについては公式サイトの「採用トーク一覧」を見ていただきたいが、そのカテゴリはビジネス、科学、教育、データベース、クラウド、コミュニティなど多岐にわたる。
「面白いのはプロポーザルの内容がバリエーションに富んでいることですね。例えば『Raspberry Piで日本の子供たちにプログラミングのパッションを伝えよう』みたいなものがあったり、フィリピンからは『15歳の息子が講演したいと言っているが、英語しか話せないけど大丈夫なのか』とお母さんから連絡が来たり(笑)」(鈴木たかのり氏)。
果たしてこれらのプロポーザルが採用されたのか、それはぜひ皆さん自身の目で確かめてほしい。
一歩先を目指す人に
「ビギナーセッション」(21・22日)
さらに、今年はトークセッションと並行して「ビギナーセッション」が開催される。これは過去2年オープンスペースで開催されていたコードリーディングやライブコーディングを解説する自主イベントをセッションにしたものだ(自由参加)。
「企画の趣旨はPythonの入門者を対象に『Pythonではこんなことができる』『こんなことをやると楽しい』といったことを体験してもらうことです。今年は全部で3本やります」(齋藤氏)
その3本のテーマは下記のとおりだ。
- Python入門 コードリーディング(ライブラリの中身や他人のコードを読む事)
- Python入門 ライブコーディング
- Bottle.py ライブコーディング&リーディング
それぞれ、セッション対象者のレベルは異なる。詳細は公式サイトの「ビギナーセッション」で確認してほしい。
鈴木たかのり氏は言う。「セッションで話を聞いてるだけではレベルアップできないから、みんなで一緒に手を動かしながらやりたい。Pythonのコードを少しでも書いたことがある人とか、まったく触ったことがない人とか、初級から中級にステップアップしたいけど足踏みしている人たちとか色々な人たちに参加していただいて、PyCon JPを通してみんなが今よりも一歩先に進めるきっかけを提供できたら良いなと思っています」
個性でアタック!
「ライトニングトーク(LT)」(21、22日)
「5分間」という限られた時間で自分の主張と個性をアピールする「ライトニングトーク」。発表者が趣向を凝らして鎬を削る舞台である。昨年からの変更点では、今年は以前も行っていた「事前に参加者を募集するのではなく『当日受付』にした」ことだ。
「ヨーロッパで開催されている『Euro Python』では当日受付するらしくて、当日話したい人が手を挙げて発表すれば盛り上がるかなと」(鈴木たかのり氏)
その裏には、開催側の「当日受付のほうがテーマに合った多様性のある発表があったりするんじゃないか……」という思惑もあるようだ。
その当日受付のやり方もシンプルだ。発表したい人は当日、ホワイトボードに名前を書くだけ。飛び入り参加も期待できるだけに面白くなりそうな企画だ。
心配があるとすれば、進んで発言しない日本人の性格かも知れない。外国人の発表者に他の外国人が反論して、英語のやり取りが延々と続く……。絵としては面白いかも知れないが、そこに日本人がどう入っていけるか。頑張ってほしいところだ。
楽しく学ぼう!子ども向けセッション
「Youth Coder Workshop」(22日)
昨年の「PyCon JP 2015」で初めて開催された「子ども向けワークショップ」。小学生を対象にした「Pythonの基礎を学ぼう」という目的のワークショップだ。昨年のテーマは「マインクラフトの世界でPythonを学ぶ」。マインクラフト自体の人気も相まって大盛況となった。
鈴木たかのり氏も「去年もみんなで『子供向けのワークショップやりたいよね』と言っていて実現しました。流行っていた『マインクラフト』とPythonをくっつけて『マインクラフトを制御しよう』というテーマが受けて大成功でした。チケットも完売したし、子供たちもすごく楽しんでPythonを勉強できたのではないかと思います」と振り返る。
その子供向けワークショップだが、今年は名称が変わって「Youth Coder Workshop」として開催される。コンセプトは昨年と同様だが、今年のアプローチは「Googleマップを利用して自宅の近所の地図や自分だけのオリジナルマップを作ろう」というものだ。
講師は昨年に引き続き、今年も子ども向けIT教育に定評のある株式会社テントが担当する。
「昨年の参加者はどちらかと言うと小学校低学年から高学年の子が多かったのですが、今年はもう少し引き上げて、高校生くらいまでを対象にしています」(齋藤氏)
おわりに -運営メンバーからのメッセージ
PyCon JPはとにかくイベントが盛りだくさんだ。今回紹介した以外にも「ポスターセッション」「ジョブフェア」「パネルディスカッション」「スプリント」などが開催されるし、カンファレンスの初日と2日目には「基調講演」も開催される。ここではすべてを紹介しきれなかったが、スケジュールの詳細については公式サイトの「スケジュール概要」を参照してほしい。
毎年着実に参加者を増やしており、今年も700名超の参加者を見込んでいる(昨年は602名)。このPyCon JPを支えているのはスポンサーの存在が大きい。
「カンファレンスのサービスレベルを上げるために、スポンサーの力はすごく大きい。『そこに名前を出せばこれだけの宣伝価値がある』と思ってもらえることは非常にありがたいことですから。そのことを参加してるみんなもリスペクトしてほしいと思います」(鈴木たかのり氏)
参加者の立場から見ればスポンサーとは直接関係がなかったりして、実際にはそれほど気にしないケースもある。そこは参加者も運営側もしっかり意識すべきだ。スポンサー、運営、参加者。すべてが協力しなければ本当に良いカンファレンスにはならない。だから「お互いを尊重し合う姿勢」が大事なのだろう。
また、今年は開催期間20~24日のうち、3日間が平日となっている。仕事の都合で参加できないという人も多いと思われる。だが安心してほしい。
「今年も例年通り動画配信をするので、仕事の都合で参加できない方はぜひそちらを見ていただければと思います」(齋藤氏)
山口氏からは、今回紹介した中でも一番のおススメを挙げてもらった。
「今回の基調講演では北米PyCon多様性促進活動代表者のJessica McKellarさん、PyCharmのコミュニティーリードのAndrey Vlasovskikhさんにお話いただきます。ぜひ会場にお越しください!」(山口氏)
なお、本稿執筆現在(9月8日)、カンファレンスチケットはすでに完売となっている。チュートリアルとYouth Coder Workshopについてはまだ若干の空きがあるようなので、迷っている方はぜひこの機会に参加してみてはいかがだろうか。チケットの残り数などはConnpassで確認してほしい。
「PyCon JP 2016」公式サイト
https://pycon.jp/2016/ja/
「一般社団法人PyCon JP」Webサイト
https://www.pycon.jp/#
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