連載 :
  インタビュー

国産ブラウザKinzaが取り組むユーザー主導の開発モデルとは

2016年9月9日(金)
鈴木 教之(Think IT編集部)

国産の新しいブラウザが開発されたというニュースを耳した読者の方も多いかもしれない。Kinza(きんざ)はオープンソースであるChromiumをベースとしつつ独自拡張を続けている、なぜこの時代に新しいブラウザを開発するのか? その狙いについてKinzaを開発するDayz株式会社の玉城氏に詳しく話しを伺った。

そもそもKinzaというのはどういうブラウザなのでしょうか?

Kinzaは2014年の5月に初版をリリースしたブラウザソフトウェアです、オープンソースであるChromiumをベースとしChromiumの開発周期に追随しながらバージョンアップを続けています。国内では他にもLunascape(ルナスケープ)、Sleipnir(スレイプニル)といったブラウザが有名です。私はもともとブラウザのビジネスに関わっていた経緯があり、当時は検索サービスのプラグインを提供していました。現在私が所属しているDayzはオンラインソフト開発者の支援を行う会社ですが、ブラウザの開発者と接点を持ったことをきっかけに、Kinzaを開発しようと思い立ちました。

皆さんもご存知の通り、すでにブラウザにはEdge/Internet Explorer、Safari、Chrome、Firefoxといった名だたるソフトウェアがあります。また、Brave※1やVivaldi※2といった新興ブラウザも次々と登場しています。世界を見渡してみると地域ごとローカルのブラウザが存在し、アジアではベトナム、中国、インドなどである程度のシェアを獲得する事業者が現れています。日本国内でもビジネスチャンスがあるのではないかと考えています。またブラウザというソフトウェアの特性上、機能のローカライズがそこまで必要ないので、日本で認められれば海外でもヒットする可能性が十分あると考えています。

※1: https://brave.com/、※2: https://vivaldi.com/

ビジネスの展望をもう少し詳しく教えてください

私はブラウザはユーザーとメディアを結ぶ土管だと考えています。ユーザーにとって幸せになるものは何か、そのため中間に位置する業者として何ができるのか。たとえばセキュリティ上問題になる危険なリンクは自動で排除するといった具合です。うまくユーザーとメディアの橋渡しをしていきたいと思います。

今はコンシューマ向けにKinzaを開発していますが、そこで培ったノウハウを武器にしながら、特定業界の法人向けに専用ブラウザを開発していくプランもあります。例えば文教系では複数の事業者から業界専用ブラウザのニーズを確認できています。また、当初はスマートデバイス向けにモバイルファーストで開発することも考えていましたが、モバイル(アプリ)はストアでのリジェクトのリスクが高いのが懸念でした、デスクトップアプリなら自分たちでコントロールできユーザーに直接届けられます。

なぜOSSではないのでしょうか

KinzaはOSSではなくクローズドソースです。Chromium(OSS)とChrome(Googleの独自実装)の関係と同じだと考えてもらうと分かりやすいでしょう。なぜOSSにしないかというと、ブラウザを開発できる人はそんなに多くないと考えたからです。Kinzaは「ユーザの声で進化する」というコンセプトにもあるように、専用の掲示板を設けてユーザーからのバグ報告や機能要望等のフィードバックを随時受け付けて開発の参考にしています。

Extensionで実現しなかったわけは

確かに最近のブラウザにはExtensionと呼ばれる機能拡張の仕組みがあり、Webの標準仕様として異なるブラウザ間でも動くような取り組みも進んでいます。Kinzaは、他のブラウザとの差別化点としてパワーユーザー向けの機能に力を入れています。そのためには機能拡張では実現できずブラウザ本体に直接手を入れる必要があります、逆に言えばExtensionでは実現できない機能やパフォーマンスの差がそのまま差別化に繋がると考えています。

Kinzaの独自拡張の例:

  • サイドバー
  • マウスジェスチャー
  • タブ周りの機能強化

開発の優先度としても、Extensionで実現できるかどうかを重視しながら進めています(つまり機能拡張で済むものは優先度が低くなります)。

開発チーム体制や規模感、開発の流れについて

エンジニアはクライアントサイドが2名、サーバーサイド1名の計3名で、デザインやマーケティングは外部に委託しています。開発当初はChromiumにRSS機能が付いた程度でしたが、ユーザーの声と社内の判断を精査してどんどん機能を拡張しています。ユーザーからのフィードバックは閲覧数を確認したり、またユーザーに対してサポートしてきたものを随時掲示板で説明・報告しています。(ユーザーの)要望が日本語で届き投げられたボールをちゃんと投げ返せる世界を実現したいと考えています。ユーザーファーストで意見を取り入れていくという考え方は中国のシャオミという会社を参考にしました。

開発は現場主導で、Chromiumで45日アップデートからだいたい1〜2週間で追随しています。時にはChromium側のバグを踏むこともあって……その時はChromiumのissueに報告したりもしました。また、面白い試みとして、新バージョンの3.3.0ではBugBountyというバグ報奨金のプログラムを導入しています。ユーザにとってより安全なものになるように努力し、今後はパワーユーザーのみならず一般層に対してもメリットを出していけたらと思います。

◇ ◇ ◇

ブラウザという古くて新しいツールを通じ「オーディエンスとメディアの中間の立ち位置を模索していく」と語った玉城氏。国内外のブラウザ市場のシェアをどうやって広げていくのかその動向に注目していきたい。

Kinza | ユーザの声で進化するウェブブラウザ
https://www.kinza.jp/

要望やバグ報告(掲示板)
https://bbs.kinza.jp/

著者
鈴木 教之(Think IT編集部)
株式会社インプレス Think IT編集グループ 編集長

Think ITの編集長兼JapanContainerDaysオーガナイザー。2007年に新卒第一期としてインプレスグループに入社して以来、調査報告書や(紙|電子)書籍、Webなどさまざまなメディアに編集者として携わる。Think ITの企画や編集、サイト運営に取り組みながらimpress top gearシリーズなどのプログラミング書も手がけている。

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