GitHubが年次カンファレンスで新サービスやAIの応用などを発表
ソースコードリポジトリーサービスを提供するGitHubは、サンフランシスコで年次のカンファレンスを開催し、約1700人の参加者に向けて、新しいサービスや、人工知能の応用などについて発表を行った。これまでサンフランシスコでカンファレンスを行うとすれば、市内のモスコーニ・センターで大規模に行うのが大手ベンダーの定番とも言える手法だった。一方GitHubは、3年前から市内より車で20分程度の波止場沿いにある倉庫跡であるPier 70を使っている。
自転車を使って来る参加者のためのスペースも用意されているところが、いかにもサンフランシスコ的と言える。建物の外には、GitHubのキャラクターのモナリザが待っている。
会場に入ると、このように何もない空間にブースが設営されて、各スポンサーがアピールする形だ。
今回は、初日の10月11日に行われたCEOであるChris Wanstrath氏のセッションと、データサイエンティストチームを率いるMiju Han氏、Eco System EngineeringのKyle Daigle氏のプレゼンテーションを紹介する。
最初に登壇したCEOのChris Wanstrath氏はGitHubの10年の歴史を振り返ったのち、ソフトウェア開発の変化について、これからは自動化が大きな流れになると説明した。ここで言う「自動化」はインフラストラクチャーの自動化や、CI/CDのような大きなくくりの自動化というよりも、ソフトウェアを書く作業そのものが自動化されるとWanstrath氏は考えているようだ。象徴的なエピソードとして、マイクロソフトにおける良いプログラマーについて「いつもタイピングをしているエンジニアがすごいプログラマーだ」とビル・ゲイツがコメントしたことを挙げて、しかしそれは「今や違っている」と強調した。
Wanstrath氏は、様々なフレームワークやIDEなどを使えば、かつてのようにそれほどタイピング作業をしなくてもプログラムは書けるし、それ以外の部分にもっと時間を使うべきだという考え方を示したと言える。
そしてツールだけではなく、オープンソースソフトウェアとそれを支えるコミュニティの価値をもっと上げることを推進すれば、さらにソフトウェアによる新しい世界を切り開いていくことができるだろうと述べた。
その後登壇したのは、2017年の1月にGitHubに移ってきたMiju Han氏だ。Han氏の黒のシックなスーツ姿といういでたちは、「GitHubといえばジーンズにTシャツ」というイメージを打ち壊す新しいキャラクターを予感させるものだった。
Han氏のプロフィールをみるとTuneIn、Apple、YouTube/Googleという職歴、そしてどれもデータサイエンティストとして数字を分析する仕事に就いてきた経歴がわかる。GitHubでもデータサイエンティストチームのリーダーとして、今回の発表を仕切ってきた感が溢れていた。
Han氏が今回発表したのは、GitHubという巨大なリポジトリーから生成されるデータを最大限活用しようというもので、機械学習を活用して様々な付加価値を提供するというものだ。具体的にはコードの書き方や、どのコミュニティに参加すべきかのレコメンデーション、さらにコミュニティを運営する際にユーザーの行いを管理する機能、そしてセキュリティに関する依存関係を示して修正を取り込むためのレコメンデーションと行った部分が紹介された。
データサイエンティストらしくユーザーリサーチのデータを引いて「GitHubを使い始める際の問題点」についても紹介を行った。「Gitを学ぶ(Learning Git)」というハードルの他に「他人の前で失敗をしたくない」、「どのコミュニティに入ればいいかわからない」といういかにもコミュニティらしい不安が垣間見えるのが興味深い。
特にコミュニティの管理の部分では「自分が所属するコミュニティで、あるユーザーを(そのユーザーの行いなどから)ブロックした際に、そのユーザーが他のコミュニティにいる時にそれをNotifyする機能」が入るのだという。これはインターネット初期のBBSなどを経験している人であれば、すぐに理解できると思うが、「荒らしをするユーザーがいるかどうか」をそのコミュニティごとに素早く発見できる機能のGitHub版と言ったところだろう。
他にも、脆弱性が発見されたオープンソースソフトウェアを使っているコミュニティにおいて、最新の修正済みバージョンなどがあればそれを推奨する機能などが紹介された。どれも、GitHubの持つデータを分析することで可能になる機能だ。
これはGitHubを単なるソースコードのストレージと考えずに「そのコードとユーザーの行動が意味するところをより深く理解して次に何をすれば良いか?」を提案するということを実施しているわけだ。要は、Amazonがコマースサイトでのユーザーの行動追跡とデータベースの最適化を行うことと同じ発想であろう。
次に登壇したのはDirector of Ecosystem Engineeringの肩書を持つKyle Daigle氏だ。Daigle氏がGitHubに入社したのは2013年ということで、これまでインフラストラクチャーやバックエンドシステムの開発に関わってきたエンジニアだ。Daigle氏が今回紹介したのは、GraphQLのAPIの正式な公開と、MarketPlaceの公開である。
GitHubの持つデータをより効率的に活用しようとすれば、単にAPIを公開するだけではなく、より使いやすいAPIを用意するべきだというのがGitHubの考えのようで、Facebookが開発して公開したGraphQLをGitHubのAPIとして公開を開始したというアナウンスである。
GraphQLについては、以下のブログポストを参照されたい。
別のインタビューでDaigle氏、Han氏がともに強調していたのは、GitHubのエンジニアが利用するAPIと社外のエンジニアが利用するAPIは全く同じであり、隠された機能やバックドアはないということだった。つまりこのGraphQLは、何よりもまずGitHub自身が、GitHubが生成する膨大な利用データを効率的かつエレガントに使うために必要な実装だったということだろう。
なお、オープンソースソフトウェアであるGraphQLは、10月25、26日にサンフランシスコで年次カンファレンスを開き、そこでもGitHubのエンジニアがセッションを持つということだそうだ。ここでもモノリシックなアプリケーションではなく、他のシステムと繋ぐためのシステム開発に大きな注目が集まっていることがわかる。
またMarketplaceは、パブリッククラウドから開発ツール、PaaS、OpenStackまで様々なエコシステムを構築するベンダーがこぞって作りたがる「市場」である。これが、GitHubというソースコードリポジトリーのすぐ脇で展開されているところに、意味があるだろう。ソースコードを書くエンジニア、さらにコードを書かなくても良さそうなオープンソースソフトウェアを探すエンジニアなど、コードとそれを取り巻くテストやプロジェクト管理、セキュリティなどのアプリケーションがすでに登録されている。今回のGitHub Universe 2017に参加しているベンダーも多くはこのMarketplaceに登録しており、すでにエコシステムが成長し始めていると言えるだろう。
初日はWanstrath氏の歴史を振り返り将来を展望する話から、データサイエンティストから見たGitHubの可能性、そして外部からのアクセスをより良くするためのAPIの話、と多岐に渡ったキーノートだった。6500万リポジトリー、年間15億回のコミット、150万チームという世界最大のソースコードの集積場であるGitHubが、本気で機械学習やGraphQLを使いこなして何ができるのか? それについて考え始めていることが垣間見えた初日のトークであった。
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