新ブランドとなったIDEMIAの金融機関向けBU責任者が語るIDEMIAの未来
ITとファイナンスの接点を垣間見られるMoney 20/20は、メジャーなベンダーにとっては方向性や新製品などのお披露目の場所である。またベンチャーや成長中のフィンテック企業にとっては、パートナーやアライアンスを探る場所でもある。2017年9月28日にフランスで発表されたOberthur(オベルチュール)とMorphoが一緒になった会社、暫定的に欧米では「OT-Morpho」と呼ばれていた企業が「IDEMIA」として新たなブランディングを発表した。新ブランドを大きく露出する機会としては、Money 20/20はちょうどいいタイミングだったのではないだろうか。
今回、IDEMIAのFinance Institutions Business Unit、つまり金融機関向けの事業部門のトップ、Executive Vice PresidentであるEric Duforest氏、Duforest氏の配下にあるDigital部門のSenior VPであるMehdi Elhaoussine氏、従来の物理的なクレジットカードなどを対象とするPowered Cards部門のVP、Patrice Meilland氏にインタビューを行った。今回はインタビューの第1回として、Eric Duforest氏のインタビューをお届けする。
単なるプラスティックカードであったクレジットカードに各種の機能を付けたカードや、パスポートなどのIDカードのメーカーであったOberthur Technologiesと、Safran Identity and Security(Morpho)が2017年5月に合併し、できあがったのが「OT-Morpho」だが、新たにブランディングとして命名されたのが「IDEMIA」という社名だ。OberthurもMorphoも、それぞれの分野のトップとして約7000名の従業員を抱えていたが、すでに社内の統合は進んでいると言う。
IDEMIAが何を可能にするのかを端的に表している動画があるので、まずそれを紹介したい。これはMoney 20/20のIDEMIAブースでも無限ループで再生されていたものだ。
ここで登場する要素技術及びソリューションこそが、IDEMIAが提供できる価値ということになるだろう。最初に登場する男性は、銀行でカード発行を行うために高速に指紋をスキャンすることで、指紋認証機能付きのクレジットカードが即日発行される。次に登場する女性は、スマートフォンのNFC機能を利用してパスポートデータを取得し、送信後にスマートフォンのカメラを使用し顔認証を行うことで、スマートフォンで使うデジタルクレジットカード発行が即座に終了する。次にその女性が花屋で買い物をしようとする際に、冒頭の男性が発行されたばかりの指紋認証機能付きのクレジットカードで支払いを行う。次に登場するアジア系の女性は、空港でのID確認をスマートフォンに送られた電子搭乗券と顔認証によって実施。従来のパスポートコントロールや物理的なパスポートがなくても、出国審査から搭乗手続きまでが完了することを見せる。次に登場するカップルは、空港からのレンタカーオフィスに行くことなく手続きを行い、車に乗り込む際も顔認証を実施、さらに車のナビゲーションシステムも本人確認を行う。パーキングを出る際の料金も、ナビゲーションシステムが本人に紐付いたクレジットカードで実施。最後のパートは、男性が持つスマートウォッチに取り込まれたチケット情報の確認と本人確認をビデオの冒頭にも出てきた高速な指紋スキャナーで行い、劇場で買う飲み物をスマートウォッチに格納されたクレジットカードで支払うという一連のストーリーを見せるものだ。
高速な指紋スキャナー、指紋認証機能付きのクレジットカード、顔認証、スマートフォン/スマートウォッチに格納されたデジタルなクレジットカードなど、IDEMIAではOberthurがこれまで得意としていた分野に、Morphoが持っていた生体認証の技術や製品が上手に統合されているのがわかる。
まずIDEMIAという名前とキャッチコピーである「Augmented Identity」について教えてください。
Duforest:まずIDEMIAは、IdentityとIdea、それに「ME(私)」という意味を混ぜた造語です。個人のアイデンティティを「デジタルでもフィジカルでも守る」というミッションを表しています。そしてそれを補強する意味で「Augmented Identity」というものを付け加えています。これは文字通り、「『アイデンティティ』を拡張する」という意味です。アイデンティティと言えば、例えば私の名前などが例に挙がりますが、ビジネスや商取引、店頭での購買など様々なシーンでアイデンティティを確認する必要が出てきます。それらのシーンに合わせたソリューションを提供するのが、IDEMIAの使命です。金融機関がデジタルトランスフォーメーションに対応するためには、必要になるソリューションだと思っています。
そしてOberthurとMorphoが一緒になることで、エンドツーエンドのアイデンティティソリューションを提供できるようになりました。この「エンドツーエンド」というのが、実はとても重要です、国家規模のプロジェクトを担当する際には、エンドツーエンドのサポートが必要になります。実際にIDEMIAはインドのバイオメトリック認証プロジェクトを担当していますが、これは2010年に開始されたプログラムで、2017年1月現在ですでに11億人分のIDが発行されています。これは従業員に対する給与支払いなどにも使われるナショナルID認証システムになります。このように公的な用途にも使われることから、高いセキュリティが要求されますし、11億人分という大量のデータを扱う必要があります。それをIDEMIAが担当しているわけです。IDEMIAにはテレコムキャリアを担当するビジネスユニット、インドの例のように政府や官公庁を担当するビジネスユニットがあり、私は金融機関を担当するユニットの責任者です。
IDEMIAとしてはすでに確立されたビジネスに思えますが、競合はどういう相手になるのですか?
Duforest:IDEMIAの競合は、従来から競合しているベンダーとこれからFintechとして出てくるベンダーになるだろうと思います。ただ全ての企業がデジタルトランスフォーメーションを目指していることから、IT企業も競争相手になる可能性があると考えています。しかしIDEMIAは、エンドツーエンドのソリューションを持っていること、すでにグローバルにビジネスを実施していること、顧客からの長期にわたるロイヤリティを獲得していますから、それほど心配はしていません。
IDEMIAの顧客のうち主に金融機関は、今後どうなると予想していますか?
Duforest:先ほども言いましたが、環境が素早く変わってしまう状況の中、全ての企業がデジタルトランスフォーメーションを目指して進んでいます。また、GoogleやAmazonに代表されるITベンダーとの競争にもさらされています。実際、リテールバンキングも変わろうとしています。これまでの銀行の支店がなくなるとは思いませんが、彼らの仕事自体は変わっていくと考えています。それはデジタルバンキングに進化していく、そしてリアルの店舗を使った銀行業務もデジタルバンキングを含めて変わっていくと思います。つまり、リアルとデジタルが統合されていくと思います。
例えば、スマートスピーカーに対して「誰々にいくら振り込んでくれ」というようなことも可能になるのでしょうか?
Duforest:そのような場合、往々にして課題となるのは、テクノロジーではなく、法的規制やリスクを誰が取るのか? ということになるのだと思います。テクノロジーそのものは色々なことを可能にしますし、これからもそれは続くでしょう。しかし、あるテクノロジーを使って行われることの利益とリスクを天秤にかけて、それをやるのかやらないのかということはビジネス上の問題なのです。テクノロジーそのものの問題ではありません。もちろん、音声認識が難しいのは分かりますが(笑)。
IDEMIAにとって最も大きなチャレンジはなんですか?
Duforest:ひとつ挙げるとすれば「スピード」ですね。顧客にとってビジネスを変えるスピードを上げること、そしてIDEMIAにとっても正しい選択を正しいタイミングで行うことですね。そして同時にIDEMIA自身も、トランスフォーメーションしていかなければいけません。市場に対しても、テクノロジーに対しても、より積極的に取り組んでいくことが必要でしょう。日本市場に対しても、もっと積極的に投資を行っていきたいと思います。IDEMIAにとって、日本は重要な市場ですから。
IDEMIAの金融機関を顧客とするビジネスユニットの責任者、Eric Duforest氏のインタビューをお届けした。続いて次回は、Duforest氏の部下であるDigital部門のSenior VP、Mehdi Elhaoussine氏、従来の物理的なクレジットカードなどを対象とするPowered Cards部門のVP、Patrice Meilland氏のインタビューをお届けする。
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