多言語化を支援するWovnのカンファレンスから丸亀製麺を展開するトリドールのCTO磯村氏にインタビュー
WovnのカンファレンスGLOBALIZEDから、丸亀製麺を展開する株式会社トリドールホールディングスのCTOである磯村康典氏のインタビューをお届けする。磯村氏は2019年にトリドールに入社し、CTOとしてデジタルトランスフォーメーションを推進し、レガシーシステムを全廃、サブスクリプションとSaaSへの移行を実現した。今回はその際の経験の裏側を訊いてみた。
まず磯村さんの自己紹介をお願いします。最初のキャリアは富士通のSEだったというところからどうしてエンドユーザーのトリドールのCTOになったのかと言う辺りを中心にお願いします。
私のキャリアの最初は富士通のSEですが、そこから数社経験して投資会社でベンチャーなどに投資を行う仕事をしておりました。その時にトリドールがCIOを探しているという話がきて、これは運命かなと。なぜかというとトリドールは、以前私が働いていたガルフネットのお客さんだったんですよ。ガルフネットは飲食業向けのシステムを販売していて、トリドールはそれを導入してくれていたんですが、それから2年ほど経ってるはずなのにトリドールのことを調べてみるとあまり変わってなかったんですね。ものすごく成長しているしビジネスも拡がっているはずなのにCIOを募集するということは、ITが上手くいってないのかなと。それで「これは私がなんとかしないと」という気持ちになったというわけです。運命ですね(笑)。
セッションのタイトルにもありますが、二律背反ではなく二律両立という言葉の意味は?
これはトリドールが創立当初から社内で言っていた言葉なんですが、二律背反って普通は両立しないことを指しますよね? 外食産業なら普通はセントラルキッチンで食材を用意して最後に店舗で手を加えてお出しする。これは効率とかコストを考えると常識だし最適だと言われています。でもそれじゃあ他社と同じだし、何よりも会社の理念である「感動」を与えることができないんですよ。うちは調理の現場がお客さんから見えるようになっているんですね、なので美味しいものを食べてもらうと同時に見ても楽しめる、そういうことを目指すためにセントラルキッチン方式ではなく店舗で調理するという形に拘ったんです。で、やってみるとちゃんと成立するし、他社との差別化もできる、そういう意味で二律背反じゃなくて両立ができているし、それを常に目指そうということです。
ここからはレガシーシステムを全廃した辺りの背景をお聞きします。何人ぐらいのチームでどのくらいの時間でやったんですか?
基本の戦略作りにはだいたい3ヶ月くらいかかりましたね。私が入った当初は、既存のシステムに手を入れてなんとかしようと思っていた時期もありました。短期間ですけどね。でも調べてみるとさまざまなシステムが100以上もあるんです。それを個々に直していたら追いつかないと思って「これは全部捨ててゼロからやり直すしかない」と。で、その方針を決めてそれを社内で発表してから社内のヒアリングを行ったんです。
それと同時に担当者に指示を出して多くのベンダーから見積もりを取りまくりました。とにかくこれでどの位のコスト感になるのかを徹底的に調査したんです。その頃が一番大変だったと担当者は言ってますね(笑)。それから社内で「今のシステムは全部捨てるから新しくなったとしてどうして欲しいか?」をヒアリングしたんですね。そういうアプローチだと細かな修正の依頼ではなくてもっと大きなやりたいことが掘り起こせるんですよ。
あと基本的にはノーカスタマイズで開発はしないという方針に決めました。ベンダーの持っている機能に業務を合わせるという方針ですが、全部が全部そうだったわけではなくどうしてもこうして欲しいという仕様についてはこちらで作り込むのではなく、ベンダー側に基本機能として取り込んでくれとお願いしました。それを他社に提供しても良いからと。これらのことを3ヶ月でやりました。でもやっぱり人材の再配置が必要になるじゃないですか。システムも変わるしこれまでそのシステムを担当していた人は基本的に仕事が変わるかなくなるわけです。なのでそういう人のための配置転換とかBPOセンターでの仕事の準備などには6ヶ月くらいかかりましたね。
つまりシステム切り替えの作戦作りには3ヶ月、でも社員へのケアのためにその倍の時間を掛けたと。
そうなりますね(笑)
トリドールは海外にも展開していて、それがWovnの採用にも繋がったと思いますが、海外とのすり合わせは日本がリードしてやっているのですか?
基本的には共通のデータマネージメントシステムを海外の拠点でも採用していますが、データの保護やプライバシーについては各国の法律などに準拠しなければいけないので、その部分はローカルに合わせています。これは店舗についても同様で、それぞれの国の食文化があるじゃないですか。食材もローカルで違いがありますし。例えば天ぷらについても使う食材はローカルの拠点で決めています。たとえばおもしろい例として、イギリスってうどんのサイドメニューにサンドイッチがあるんですよ。日本ならおにぎりになるんですが、イギリスだとそれがサンドイッチ。でもそれはそれでアリなんですね。あとローカルにはそれぞれのブランドを持って店舗展開してもいるので、そういうのはそのまま維持しています。
会計から何から全部切り替えたわけですが、ベンダーからは抵抗があったんじゃないですか?
それはほとんどありませんでしたね。まぁ、会計パッケージについては某社からは機能満載のERPを勧められましたけど、製造業じゃないんで例えば在庫管理機能についてはそれほど多くの機能は要らないんですね。なので最終的にはNetSuiteで収まっています。
開発はしないし開発のための要員もいないといういわば異例のデジタルトランスフォーメーションですが。
そうです。なのでデジタルトランスフォーメーションと言ってもこういう形も有り得るんだよということを皆さんに知ってもらいたいと思っています。
何が何でも社内でデベロッパーがコードを書くという形だけがデジタルトランスフォーメーションではないと。
そうです。
今後の課題は何ですか?
ひとつはデータマネージメントシステムを使って、需要予測というかトレンドの予測とかをやりたいなと。ローカルでそれぞれこんな商品があれば売れるんじゃないか? ということを予測するみたいなシステムですね。ソーシャルネットワークとの連携が必要になってくるとは思いますが、今は勘でやっている感じなので。それとは別に二酸化炭素(CO2)排出量に関する部分についてはシステムとして準備しておかないといけないとは思っています。
温室効果ガスの排出に伴う削減目標のアレですか?
そうです。外食産業的には店舗における二酸化炭素排出量ですが、その次には食材廃棄の問題にも関わってくるのです。どうしてこれを今から準備するかというと、最終的に会計に繋がってくるからです。取引の一環として連携していく話なので。ですから今からそれについては準備をすすめておかないととは思っています。
トリドールとの出会いからレガシー全廃のエピソード、そして将来の計画までぶれない方針と強い意志を感じるインタビューとなった。デジタルトランスフォーメーションを自社開発なしで遂行したトリドールの事例は、IT人材不足に悩む中小企業には明るい希望となるだろう。ただしトリドールのDXは磯村氏の元SEという経験を活かしての改革であり、責任者にとってITに関する目利きの能力が必要なのは言うまでもない。
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