OpenStack Summit Sydneyに見るOpenStackの今そしてこれから
プライベートクラウドプラットフォームのOpenStackに関する最新情報セミナーが開かれた。これは日本仮想化技術株式会社とThinkITが共催したもので、2017年11月6日から8日までシドニーで開かれたOpenStack Summit開催を受けて、最新情報のアップデートをライトニングトークの形式で行うものだ。この記事では、OpenStack Summitにも参加した日本仮想化技術の玉置氏、NECの鳥居氏のセッションを中心に紹介する。
夜の部の最初のセッションは、OpenStack Summit全体の振り返りとして日本仮想化技術株式会社の玉置伸行氏が登壇した。玉置氏はテレコムオペレーターにおけるNFV(Network Functions Virtualization)の動向や、Mobile Edge Computingに関して解説を行った。特にMobile Edge Computingについては、AT&Tの事例から「IoTデバイスを接続するエッジノードでの処理はユースケースによって要件が異なり、その都度、最適解を選ぶべき」としたAT&Tのプレゼンテーションの内容を紹介した。また実装の部分にはDockerとKubernetesが活用されていると説明し、ここでもOpenStackにおける実行環境としてのコンテナとKubernetesに注目が集まっていることを語った。
データセンターのインフラストラクチャーから始まったOpenStackが、そのエラスティックな特性を活かしてコネクテッド・カーやセンサーネットワークなどといった応用例のインフラストラクチャーとして使われる際に、エッジにおける実行環境そして運用環境はどうあるのか? という部分を見ると、大手ベンダーはパブリッククラウドを使ったIoTネットワークから自社で管理するIoTネットワークへの移行を模索しているとも言える。日本では、SORACOMのようにAWSとMVNOのSIMを使ったIoTが注目されているが、コスト面、運用面からも多様な解が求められていることがわかる。
玉置氏のプレゼンテーション資料:OpenStack Summit Sydney Feedback (VTJ玉置) - OpenStack最新情報セミナー 2017年11月
最後のセッションとなった日本電気の鳥居隆史氏のプレゼンテーションでは、OpenStack Summitのレポートとして、参加人数が減少したこと、キーノートセッションでのトピック、他のオープンソースプロジェクトとの統合の試み、これから注目されるOpenStackにおける新しいテクノロジー、ユースケースとして紹介されたAdobe SystemsでのOpenStackの概要、Ciscoの事例としてIstioを活用した事例、などが紹介された。
参加者については、今回のサミットは約2300名であったという。最も多かったオースチンの時は8000名近くであったことを考えると、北米での開催ではなく初めての南半球でのサミット開催であったことを勘案すれば、充分な参加者数であったとコメントした。ただ、サミット参加者の減少よりも深刻なのは、「コントリビューターが減っていること」だとして、日本からの積極的に参加を促す場面もあり、「中の人」の苦労が垣間見えたとも言えよう。
キーノートとして注目されたのは、「Public Cloud Passport」というプログラムだ。これはOpenStackベースのパブリッククラウドを提供するベンダーが、まだOpenStackを利用していないユーザーに試用を促すもので、グローバルでトライアルアカウントを提供するという。日本のリージョンでは、City Cloudが参加している。将来的にはパブリッククラウド同士の連携、フェデレーションといったことを想定しているのかもしれない。
次に解説したのは、OpenStack Foundationが注目する新技術として挙げられた「Datacenter Cloud」「Container」「Edge」「CI/CD」に関してだ。ここでもコンテナによるワークロードの実装、そしてIoTを見据えたEdgeのインフラストラクチャーの実装に関心が集まっていることがわかる。しかしその後に行われたパネルディスカッションでも「Edge Computingについてはまだ『Edgeの定義』をどうするのか? について議論が行われている段階で、技術的な議論にまで進んでいない」という指摘もあり、Edge Computingに関しては「デファクト・スタンダードを誰が作るのか?」そして「その時、OpenStackはどう振る舞うのか?」を様子見している状況であるという認識だろう。
またOpenStack Foundationだけではなく、他のオープンソースソフトウェアのプロジェクトを招いてセッションを持った意味について、OpenStackだけでは実際のアプリケーションは実現しえないために統合を行う必要があるということを、Foundation側が充分に理解しているということだろう。パネルディスカッションでも「今回は標準化団体を招いて、お互いが歩み寄る努力がされていた」というコメントがあったように、狭い領域に注力するのではなく、実践的な議論を他の団体ともしていこうとする姿勢があったという。この辺りも現場に行かないと感じられない部分だったのではないだろうか。
ユースケースとして紹介されたAdobe Systemsの事例で特徴的だったのは、6つのデータセンターにおいて10万コアという巨大なワークロードをOpenStackで運用していると言うだけではなく、その管理者が4名だけであるという点だ。それを実現しているのは、「自動化」であるという。またCiscoのユースケースでは、OpenStackはインフラストラクチャーとして活用されているが、上位のサービスの運用はIstioが活用されていることを説明。ここではマイクロサービス化されたワークロードを、いかに構成管理するのか? という点にトピックがシフトしており、OpenStackは下位のOSという扱いであったという。ここから言えることは、プライベートクラウドにおいてはすでにOpenStackは標準という位置付けで、その上で何をするのか? という点に興味が移っているという事実だろう。
鳥居氏のプレゼンテーション資料:OpenStack Summit Sydney Report (NEC鳥居) - OpenStack最新情報セミナー
最後に行われたパネルディスカッションは、まずNTT、KDDI、NECのエンジニアが参加したNFVに関するセッションが、次にはサイバーエージェント、NTT、アクセルビットのエンジニアが参加したコンテナに関するセッションが行われた。トークは様々なトピックをカバーした大変興味深いもので、モデレータを務めた筆者としてもぜひ、記事化したい内容であった。しかし、本音トークを引き出すために録画なしという設定だったため、内容は割愛せざるを得ない。デベロッパーとユーザーが歩み寄って意見を交わし合う、OpenStackに相応しい内容であったことだけはお伝えしておこう。OpenStackに大きな貢献をしている中国のエンジニアの話など、この機会でなければ聴けない内容も多く、手前味噌ながら参加者も満足していただけたのではないだろうか。今後もOpenStackの動向に注目していきたい。
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