OpenStackコミッター座談会~「OpenStack Summit Tokyo 2015に向けて」
今回はOpenStackのコミュニティにコアデベロッパーを配しているNECとNTT(正確には日本電気株式会社、NECソリューションイノベータ株式会社、日本電信電話株式会社、株式会社NTTデータの4社)のエンジニア総勢11名にに集まって頂き、OpenStack Summit Vancouver 2015の振り返りとエンジニア目線からのOpenStackコミュニティの特徴、さらに現在注目しているプロジェクトなどについて語り合って頂いた。
DevとOpsが真剣に歩み寄る場としてのOpenStack Summit
まずはバンクーバーのサミット、お疲れ様でした。今回のサミットも盛り沢山だったと思いますが、まずはイベントの感想を聞かせてください。
NTTデータ武田氏:
これまで数回、サミットには参加していますが、今回一番印象に残ったのは実際に運用をやっているOps側の意見をちゃんと聞こうという姿勢がはっきりしていた感じですかね。最初のころからそういう気持ちはあったと思うんですが、それが具体的になってきたという感じです。
NEC元木氏:
議論が小さな部屋の円卓で行われていたり単に文句を言うだけで終わらないように配慮していたところは感じました。特にデザインサミットは仕様を決めたりするための議論をする場なのでデベロッパーと運用するエンジニアがちゃんと議論をするということが起こっているなと思いました。
NTT水野氏:
そうですね、今回、オペレータとしてOpenStackを運用している人たちがあるプロジェクトに関してこういう風にして欲しいというリクエストをまとめたものをプロジェクトのPTL(Project Team Lead)が取り上げてデベロッパーと検討を始めるという瞬間に居合わせることが出来たんです。そこで「あ、いまDevとOpsの垣根を越えたんだな」っていうのを目の当たりにできたのがすごく良かったですね。
前回の座談会の時にもNECの鳥居さんがおっしゃってましたが、OpenStackはなるべくOpsの人たちに来てもらおうという努力が成果を出してきたという感じでしょうか。
NEC鳥居氏:
そうですね、今回の参加者の内訳は、デベロッパー3割、運用(オペレータ)は2割、残りはマーケティングやビジネス開発、経営、その他となります。パリのサミットの時はOpsMeetupと呼ばれる運用サイドの会議がまったく別の場所で開かれていて、実際に議論が高まった時にちゃんとデベロッパーに意見を聞くということが出来なかったんですけど、今回は同じ場所でちゃんと議論することが出来ていたと思います。
他のセッションはどうだったんですか?
NTT市原氏:
私は主にSDNというかNFVに注目してサミットに参加したんですが、とにかくネットワーク関連のセッションが多くて一人では見きれないぐらいの数があったんです。ネットワークに関して言えば話題は多かったと思います。ユースケースだけではなくベンダー側の発表も多くて、とてもカラダひとつでは足りませんでした(笑)。とにかくOpenStackのネットワークに関しては参加者が熱い興味を持っていることはわかりましたね。今のところ、どの構成がデフォルトっていうわけではなくベンダーも自社のソリューションの優位性をアピールしているという段階でしょうか。
NECSI大塚氏:
私はずっとMagnumというコンテナーをOpenStack APIから使うためのプロジェクトのセッションに参加していたんですが、まだ始まって半年ぐらいなので議論に参加する人も多くなくて快適でした。その代り他のセッションは全然見られてなくて。会場が快適だな~とかあ~、あひるが歩いてる~とかそういうことはありましたけど(笑)。DevとOpsが議論するということでしたが、Magnumはまだだれも使っている人が居なくて議論にはデベロッパーだけが居るという(笑)。でもコンテナー関連は注目もされていて議論は熱かったですね。
NTT露崎氏:
私はSwiftのコアデベロッパーとしてデザインサミットの議論に参加していたんですが、PTLがかなりキッチリ議論を仕切っていて、各時間の最後にちゃんとまとめをやったりしていたのが印象的でした。他のプロジェクト、例えばNovaとかは参加者も多いので議論のマネージメントが難しいとは思うんですが、Swiftはその辺、かなりしっかり管理されてるなーと思います。
NECSI井川氏:
Tempestという私が参加しているOpenStackのテストスイートのプロジェクトのセッションでは実際に運用している人が20分も自分が抱えている問題とその状況を説明することに使っちゃって45分しかない時間の半分ぐらいが無くなっちゃったなんてこともありましたね(笑)。
注目のOpenStackプロジェクトは?
実際にあれだけ色んなプロジェクトがあるとPTLによってスタイルがあるということなのかもしれませんね。ということで今注目しているプロジェクトや技術などがあれば教えてください。
NTT夏目氏:
実は今、OpenStackの共通の機能としてNTTデータと一緒に提案しているものがありまして。これは各コンポーネントが出すログをちゃんとトラッキングできるようにするための機能拡張なんですが、実際に運用してみるとエラーログを追いかけていくというのはとても大変なんですよね。それを何とか追跡するために機能を実装したい、と。ということで今提案を行っています。
それはバンクーバーのサミットのレポート(シスコによるセッションを紹介した記事)にあったあのログをビッグデータ的になんとかしたいという部分をOpenStackとして正式に実装するということでしょうか?
NTT夏目氏:
そうですね。それぞれのプロジェクトにまたがるのでこれから調整は大変だと思いますが、大規模なシステムを運用するとなると必須の機能だと思いますので、なんとか早いうちに提案が採用されて実装に進めると良いと思います。
NTTデータ武田氏:
実際に仕様が決まれば実装はNTTデータで行うことになると思います。その辺はNTTとNTTデータの共同のプロジェクトという感じですね。
NTT露崎氏:
ホットな話題という意味では、Swiftのプロジェクトの中でRackspaceが実際に検証を行って提案をしているんですが、Swift自体をGoで書き換えようという話題がかなり盛り上がりました。これは数百ペタバイトクラスのストレージを扱っているRackspaceならでは提案で、Pythonの処理系の限界を見越してより性能が上がるGoに移行したいという話です。こういうのって開発者としてはやりたい気持ちは分かるんですが、実際に運用している側からするとなかなか難しいだろうとは思います。実際にそこまでの規模で運用している企業はそう多くないわけですし。
NEC元木氏:
Swiftは他のOpenStackのプロジェクトと違って実際にオブジェクトストレージとしてデータを扱うんですよね。他はVMの生成とかネットワークの設定の変更とかいわゆるコントロールプレーン系の仕事が多いんですけど、Swiftはそうじゃない。そこが影響しているのかもしれません。
NTT室井氏:
私が注目しているのはCongressというプロジェクトですね。これはPolicy as a Serviceと呼ばれていまして、OpenStackの管理をポリシーベースで行おうというものでマルチテナントな環境で大規模なOpenStackの管理を例えば松竹梅のようにポリシーを決めてそれに合わせて環境を管理できるようにするものですが、これのポリシーのルールの部分が実はPrologなんです。実装自体はもちろんPythonなんですが、ルールを書くのにPrologの記法を使うんですね。それがなんか新鮮でした。
おぉ、Prolog、昔の人工知能の言語ですね、それはなにか懐かしい気がします(笑)。
東京のサミットは存分に語り合う場所になって欲しい
話を聞いているとサミットそのものは本当に議論の場なんだなと思いますが、それ以外にもトピックはあるんですか?
NECSI大塚氏:
「コミッターの心得」みたいなセッションがありましたね。実際に話をしていたのはMagnumのPTLでして、その人はとても影響力が強い人らしくてキーノートにMagnumのデモをやらせたりしたのはその人のおかげかもなーとは思います。
NTT室井氏:
そうなんですよね、だから「うわーこの人すごい人なのかなー」って思ったんですけど実はコードは全然書いてないという(笑)。でもコミュニティの中では政治力が強いのかもしれないですね。
NEC大道氏:
「コミッターとしての心得」というわけではないですが、実際にDevとOpsのやりたいことは違うわけで、結局、上手くやるためには「お互い譲り合いの精神で!」とかに落ち着いちゃうっていう(笑)。
なんか交通安全の標語みたいですね(笑)
NTT水野氏:
実際にバンクーバーのOpsMeetupでは各国から運用を行っている企業の人たちが集まってユースケースを共有したりしたんですけど、バンクーバーでは日本からはNTTしかいなかったんですね。だから日本で行われる10月のサミットでは是非、OpenStackを使ってサービスを展開しているOpsの人に出てもらって議論をしてほしいと思います。せっかく東京で行われるんですから。
NEC鳥居氏:
そうなんですよね。バンクーバーもパリもカンファレンスセンターみたいなところで開催されましたけど、東京では久々にホテルで開催されるんです。これはOpenStack Foundationからのたってのリクエストなんです。つまりカンファレンスセンターだとある時間になったら部屋から追い出されてしまう。でもホテルならそれこそ議論の続きをバーでやることも出来ますし、そこに関係者が皆泊まってるので別々のホテルに帰る必要が無い。延々と議論を行うことが出来る。昔はそうだったんですが、規模が大きくなって出来なくなったんですけど、原点に返ってそれをやりたいみたいです。
でも東京近郊在住の参加者は品川に泊まるっていうのは難しいんじゃないですか(笑)?さすがに品川から帰れなくなりましたとは言いづらいような。
NEC鳥居氏:
なので有料のカンファレンスであるOpenStack Summitに参加する稟議を通す時はついでに品川に宿泊する費用も合わせて申請するっていうのをおススメします(笑)。バンクーバーが6000人の参加者だったわけですが、日本ではなんとかそれを超えられるようなイベントになることを祈ってます。
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事例発表や情報共有の場としてのイベントから実際に議論を進めるための場としてのOpenStack Summit。オープンソースソフトウェアのコミュニティとして最も熱い部分に触れて、開発や運用まで広い知見を得るだけではなく海外のデベロッパーや運用担当者まで直接声を聴く/届けることが出来る場として更に発展することだろう。Think ITとしても引き続き応援していきたい。
今回の座談会に参加して頂いた方は以下の通り。失礼ながら部署と肩書きは省略させて頂いた。実際には2時間に及ばんとする座談会で多くの部分を省略することになってしまったのが残念である。
- 株式会社NTTデータ 武田健太郎氏
- 日本電信電話株式会社 室井雅仁氏
- 日本電信電話株式会社 夏目貴史氏
- 日本電信電話株式会社 市原裕史氏
- 日本電信電話株式会社 露崎浩太氏
- 日本電信電話株式会社 水野伸太郎氏
- 日本電気株式会社 鳥居 隆史氏
- 日本電気株式会社 元木顕弘氏
- 日本電気株式会社 大道憲一氏
- NECソリューションイノベータ株式会社 井川征幸氏
- NECソリューションイノベータ株式会社 大塚元央氏
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バンク—バーでのOpenStack Summitの特集記事はこちらから。
OpenStack Summit May 2015 Vancouver レポート
※編集部より:記事初出時に、NEC大塚氏の所属会社、バンクーバーサミットの参加属性の内訳(NEC鳥居氏の発言)、NTT夏目氏とNEC元木氏の発言の一部に誤りがありました。お詫びして訂正致します。
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