Zabbix Summit 2022開催。初日のキーノートセッションを紹介
オープンソースのモニタリングソフトウェアZabbixが、年次カンファレンスを3年ぶりに開催した。Zabbix本社のあるラトビアの首都リガで実施された2日間のカンファレンスをシリーズで紹介する。最初の本稿では初日のキーノートセッションに注目して紹介したい。
3年ぶりに開催されたZabbix Summitは2日間の日程で2022年10月7日、8日にリガのホテルで開催された。参加者は48ヶ国から約400名、スポンサーは13社という規模のイベントとなった。複数のトラックが並行に開催される形式ではなく大きなカンファレンスルームでシングルトラックのセッションを全員で聴くという形式だ。
セッションの他にワークショップやトレーニングなども開催され、2日目早朝に行われたワークショップには多くの参加者が参加していた。カンファレンスに先立って4日から6日に行われたトレーニングにも多くの参加者が集っていたようだ。これまではリアルのイベントやトレーニングが行えなかったため、ユーザーやパートナーにとっては待ちに待ったリアルカンファレンスがようやく開催されたと言ったところだろう。実際に会場にいた参加者たちは久しぶりの再会を喜んでいるようすであった。
1日目のキーノートセッションは、ZabbixのCEOであるAlexei Vladishev氏が登壇。ここから約45分のプレゼンテーションが始まった。
冒頭でVladishev氏は、日本支社が設立から10周年という記念すべき年となったことを述べて、その業績を称えた。
最初に情報システムに置ける課題としてCIOの視点から、デジタルトランスフォーメーション(DX)が必要であること、インフラストラクチャーの管理が重要であること、新しい技術への対応が必要となっていることを挙げた。特にデジタルトランスフォーメーションについては、レガシーなシステムと新しいシステムの混在からKubernetesやマイクロサービス、ハイブリッドクラウドという新しいプラットフォームへの移行が必須であることを指摘。そのような状況において、モニタリングの必要性がさらに増していることを指摘した。
その上でモニタリングシステムを選ぶ際のポイントについて、「包括的にシステムを監視するツールであること」「安全にスケールすること」「単に監視するだけではなくプロアクティブに問題点を見つけ解決するツールであること」を挙げた。
そしてZabbixについて「ユニバーサルなオープンソースのエンタープライズレベルのモニタリングソリューション」であると述べた。ここではユニバーサル、オープンソース、エンタープライズという3つのキーワードを強調した形になった。
Vladishev氏はCOST OF ZabbixというスライドでZabbixのTCOが低いことを説明。ここでは無料のオープンソースであること、有償のサービスが提供されること、台数などに比例する価格体系ではないことなどをその論拠として説明した。
Zabbixがユニークなのは、無料のオープンソースソフトウェアでありながら、コードを書く役割はZabbixの社員に限定されており、ユーザーが自由にコードを改変してソースコードにマージするということが許されていないという部分だろう。その代わりにユーザーが欲しいと思う機能についてはリクエストを送ることが可能で、それらのリクエストに優先順位をつけてZabbixが開発を行うというスタイルを継続していることだ。
またコミュニティの賛同を得られないがどうしても実装して欲しい機能については、Zabbixが提示した金額を支払えば開発が行われ、その機能はオープンソースとして公開される。これはコードの品質を維持しながらユーザーのニーズを満たすための現実的な解と言えるだろう。善意のボランティアでは解決しない開発のための労力を金銭との交換で実現するという発想は、他のオープンソースプロジェクトでも採用されるべきだろう。
サポートやトレーニングの概要を解説し、世界中に存在する支社やパートナーについても触れた後、オンプレミス、パブリッククラウドまでサポートしていることに加えて、モニタリングの対象としてAWS、Azure、VMwareやCisco、HPEなどの製品に加えてKubernetesやCockroachDBなども加わったことを説明した。
セキュリティについてはmTLSが実装されていること、2要素認証、HashiCorp Vaultなどのサポートなど例を挙げて説明し、モニタリングソフトウェアであってもセキュアな実行環境が求められていることを解説した。
このスライドではZabbixのサーバーがエージェントやプロキシーなどとセキュアな通信を行うようすが解説されている。
またモニタリングをより知的にする観点から、アクセス数などの定常値を設定するベースライン、定常値からの逸脱の検知、さらにトレンドを予測する機能などがすでに実装されていることを紹介した。
ベースラインやトレンド予測などとも関連するが、システムの数値からビジネスに与えるインパクトをモニタリングする「ビジネスサービスモニタリング」機能についても簡単に解説を行った。
ここではこの前のスライドで説明されたユーザーに対して役割を設定する「ユーザーロール」機能が、マルチテナンシーにおいて役立つことに加えて目標値の設定や定期的なレポート生成、アラートに対する原因の解明、影響の分析なども行えることが説明された。
Zabbix FeaturesはZabbixのすべての機能を一覧するためのページとして紹介された。ここから今後のロードマップ、最新の機能の一部を紹介するフェーズに移った。
ここでもパートナーやユーザーからのリクエストと戦略的な機能などをバランスよく扱うことの難しさを語っているが、「Paid Development」という項目があることに注目して欲しい。どうしても開発して欲しい機能については対価を支払うことで実現できるが、そのリクエストであっても他の機能追加や修正などとのバランスが図られることになることを表している。
新機能として挙げられたのは、スクリプトを使って複数のクラウドサービスからデータを取得する「Advanced Synthetic Monitoring」、プロキシーを非同期にアップデートする機能、複数のデータソースから関連付けを行う「Advanced Event Correlation」複数のデータセンターのモニタリングを統合する「Multi DC Monitoring」などだ。
最後に7.0のLTS版における最新機能をまとめて紹介。ここではKubernetesへの対応、Event Correlation Engineなどがハイライトされている。
今後の予定としてApplication Performance ManagementやOpenTelemetryの統合、Log Managementが挙げられていることから、最新のクラウドネイティブのソフトウェアも意識していることが理解できる。Zabbixがモニタリングしているシステムに、仮想マシンベースのインフラストラクチャーやアプリケーションが数多くあるのは、この後に行われた多くのユースケースでも理解できる。その一方でクラウドネイティブなシステムへの対応も抜かりなく計画に組み込んでいることがわかる。
全体としてZabbixが提供する価値と今後の予定を駆け抜けるように紹介したセッションとなった。3年ぶりに登壇したVladishev氏は、パートナー、ユーザー、コミュニティがZabbixにとって重要であることを1枚のスライドにまとめてセッションを終えた。
動画のURL:Zabbix Summit 2022 Day 1
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