Zabbix Summit 2023開催。キーノートからZabbixの進化を紹介
モニタリングソリューションのZabbixは、本社をかまえるラトビアの首都リガで年次カンファレンスZabbix Summit 2023を開催した。2023年10月6日、7日の2日間がカンファレンス、その前後にトレーニングや認定試験などが行われ、合計で12日間連続するというZabbix本社にとっては1大イベントだ。
今回はカンファレンス初日の最初に行われたキーノートセッションを紹介する。登壇したのはZabbixのCEOで創始者であるAlexei Vladishev氏だ。
Zabbix Summitアジェンダは以下のリンクから参照して欲しい。
●Zabbix Summitアジェンダ:https://www.zabbix.com/jp/events/zabbix_summit_2023#agenda
Vladishev氏はZabbixについて「A Universal Free and Open Source Enterprise Monitoring Solution」というキャッチコピーで紹介し、ここから50分間という時間を使ってプロダクトの最新情報を中心に解説を行った。
無料でオープンソースという部分を最初に紹介したのは、HashiCorpにおける最近のライセンス変更の動きに対するZabbixとしての回答ということだろう。オープンソースプロジェクトを支援する企業が無償でソフトウェアを公開し、サポートとエンタープライズ版で売り上げを計上するというビジネスモデルは、近年のパブリッククラウドベンダーによるオープンソースソフトウェアを使ったマネージドサービスによって侵害されている。それに対抗するため、パブリッククラウドや競合する機能を提供する企業に対してライセンスを変更して、マネージドサービスでは使えないようにする変化が起きている。これに対しZabbixは無料で使えるし、パブリッククラウドベンダーに対しても利用を禁止するようなことはないと宣言した。またサステナビリティについては世界各地に拠点を作っていることを紹介し、メキシコにも支社を作ったと語った。
オンプレミスとパブリッククラウドでの利用についてはRed Hat、Ubuntu、SUSEというLinux及びそのベンダーの名前を挙げ、Alma Linux、Rocky LinuxなどのクローンLinuxからKubernetes、OpenShift、Raspberry Pi、Dockerなどにも幅広く対応していることを説明した。パブリッククラウドについてはMicrosoft、AWS、GCPの3大クラウドとDigital Oceanを挙げた。ここで、IBMやOracle Linuxなどのエンタープライズ指向の強いベンダーと中国のクラウドベンダーが挙げられていないことは覚えておくべきポイントかもしれない。
Universalという部分については、Zabbixがさまざまな構成で実装できること、サーバーからデータベース、IoTデバイス、そしてマルチクラスターやプロキシーを用いた大規模な構成にも対応し、それらのモニタリング結果を可視化するビジュアライゼーション機能を備えていることを紹介。
また単に情報システム資産だけではなく、ビジネスやインフラストラクチャーを監視運用する部分をOT(Operational Technology)として併記していることにも注目したい。単にサーバーのモニタリングに留まりたくないという意志を感じるスライドだ。
セキュリティについても、Zabbixサーバーを中心にさまざまなモジュールやユーザーインターフェースについて各種のテクノロジーを使って保護していることを紹介。サードパーティとしてCyberArkやHashiCorpのVaultが記載されているのが珍しい。
品質を高めるという部分ではHackerOneが主宰するThe Internet Bug Bountyプログラムを通じて2023年に16,000USドルを支払ったと語り、脆弱性の情報公開とともにセキュリティと品質に気を使っていることを示した。
ここからZabbixの機能について解説が始まった。最初のポイントはビジュアライゼーション(可視化)だ。
特に新しいウィジェットについて紹介し、ゲージチャートやハニカム型のパネルなどが将来追加されると説明した。
Single Pane of Glassというスライドでは、おそらく多くの要望を受け取っていたであろうOpen Telemetryへの対応が解説され、APM(Application Performance Management)への取り組みも紹介。APMについてはモニタリングの発展形として必要であるが、今はまだ提供できていないことを正直に解説した。
性能の向上についてはこれまでシンプルな構成(1つのPollerが1つの監視対象からデータを受け取る形)から非同期かつマルチスレッドにデータ処理を行う形に移行すると説明。これによってリソースの使い方が効率的になり、コスト削減にも繋がると語った。
また細かい改善として、Zabbix管理者がユーザーインターフェースを使う場合と一般ユーザーが使う場合にパーミッションのチェックに処理時間が掛かっていた点を改善すると語り、スーパーアドミン以外のユーザーが利用する際の性能が10倍以上速くなると説明した。
他にもプロキシーがインメモリーでデータを処理するモードを用意すること、監視対象の構成追加などの変更を行った場合にサーバー、プロキシー、エージェントなどに変更を伝搬するスピードを高速化したことなども解説し、CEOではあるが今もZabbixのすべてを知り尽くしているエンジニアとしての姿を垣間見せた。
そしてこれも細かい修正だが、タイムアウトの設定をすべてZabbix UIで行えるように改善したことも説明し、構成ファイルをエディターで書き直さなくても良くなったと説明した。
イベント処理についてはEvent Correlation Engineが導入されると解説し、自動的にイベントから原因の判定が行われるようになり、将来的には生成型AIと機械学習を使った原因判定が可能になると説明。
またメトリクスとイベント処理に外部のストリーミングソフトウェアを使うことを解説。ここでは外部のストリーミングプロセスの中で機械学習を実行するという想定のようだ。
その他プロキシーのロードバランシングとHA構成が可能になることなど、多数の改善点について紹介を行った。
最後にまとめとしてZabbix 7.0 LTS、7.xそして8.0 LTSにおいてどの機能が導入されるのかをタイムラインでまとめて紹介した。Open Telemetryの対応は7.0の先のマイナーアップデート、APMと生成型AIと機械学習は8.0 LTSでの導入となるようだ。
いつものようにユーザーやパートナーからのリクエストに応えつつも、大風呂敷を拡げることなく着実に進化していることを示したプレゼンテーションとなった。
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