ZABBIX Conference Japan 2022開催、日本での10年を振り返る監視ソリューションの今と未来

2023年2月1日(水)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
モニタリングソリューションのZABBIXが日本でリアルイベントを開催。

オープンソースのモニタリングソリューション、ZABBIXが2022年11月17日、18日に2年ぶりに対面式のカンファレンス「Zabbix Conference Japan」を東京で開催した。本社があるラトビアのリガで行われた「ZABBIX Summit」が3年ぶりの開催だったことを受けて、日本でもパンデミックの影響を受けながらもリアルのイベントとして2020年以来の開催となった。

【参考】Zabbix Summit 2022レポート

2年ぶりに開催されたZABBIX Conference Japan

2年ぶりに開催されたZABBIX Conference Japan

カンファレンスは2日間に渡って開催され、シングルトラックの20セッションと初日のパーティ、そして2日目の朝にはZabbixの認定試験も行われ、Zabbixのユーザー、パートナー、トレイナーが一堂に会したイベントとなった。

Zabbix Conference 2022 Japan ホームページ:https://www.zabbix.com/jp/events/conference_japan_2022

初日の最初のセッションに登壇したCEOのAlexei Vladishev氏

初日の最初のセッションに登壇したCEOのAlexei Vladishev氏

Vladishev氏は最初に設立した海外支社であるZabbix Japan LLCが設立から10周年という記念すべき年であることを祝った後にZabbixの概要を紹介した。

開発当初参考にしたというLinuxと同様に無料かつオープンソースであること、エンタープライズ企業が利用できる機能を備えたユニバーサルな監視ソフトウェアであることを強調。特に日本市場においてはZabbixアプライアンスを提供していることなども説明した。

Zabbixの高いTCOを説明

Zabbixの高いTCOを説明

Zabbixはオープンソースソフトウェアでありながらも機能追加やバグ修正などのコーディングはZabbix社員が担当する方式を取っており、従来のソースコードが公開され誰でもがコードの改変が可能というオープンソースとは違うことは明記しておくべきポイントだろう。コーディング自体はZabbix社員に限定されるが、機能追加のリクエストは可能だし、どうしても必要な機能が欲しければZabbix社に有償で開発を依頼することもできる。有償で開発されたソフトウェアもまたオープンソースとして公開される。バグに関する情報を含む全ての技術情報も公開されているため、常識的なオープンソースプロジェクトとは違うが透明度は限りなく高いと言える。

Zabbix自体の収益化は有償サポートとトレーニングなどから成り立っており、Zabbix日本の代表を務める寺島広大氏は、Zabbixがオープンソースとして持続可能なビジネスに成り得るのか? という問いには答えが出た、Zabbixは持続できると思っていると10年を振り返るセッションの中でコメントしているようにZabbixのオープンソースによるビジネスが順調に成長していることを示している。

またZabbixのスケーラビリティについて、単一のZabbixサーバーで50万以上の監視対象、3万台のプロキシー、そして1千万以上の監視アイテムを運用できることを紹介した。

Zabbixの一般的な構成を紹介

Zabbixの一般的な構成を紹介

Zabbixは様々なプラットフォーム、ミドルウェアに対応しており、監視対象も膨大な数に上る。オンプレミス、パブリッククラウドにおいても稼働実績は豊富だ。直近では、KubernetesやEnvoyなどのクラウドネイティブなソフトウェア、更にHPEやVMwareの製品などにも対象を拡げている。

Zabbix本体の脆弱性などはセキュリティアドバイザリーという形でこれも公開されており、ここでもオープンソースとして高い透明性を維持しようとするZabbixの姿勢が垣間見える。

Zabbix本体に関するセキュリティ関連の情報は深刻度なども込みで確認できる

Zabbix本体に関するセキュリティ関連の情報は深刻度なども込みで確認できる

他に最新のクラウドネイティブなシステムにも対応していること、Webアプリケーションの監視、インシデント管理ツールとの連携なども紹介。Zabbixの運用における新機能としてはダウンタイムなしに複数のバージョンのプロキシーサーバーをアップグレードする機能などが解説された。

古いバージョンのプロキシーを順次新しいバージョンにアップグレード可能

古いバージョンのプロキシーを順次新しいバージョンにアップグレード可能

また、グローバル企業からの要望が多いと思われる複数データセンターの監視についても、バージョン7.0LTSで複数のデータセンターにデプロイされた管理サーバーを統合する形で1つのダッシュボードから管理ができる機能も紹介され、グローバルなインフラストラクチャー監視についても有効な機能を提供できることを解説した。

複数データセンター監視を統合できる機能を7.0LTSから導入

複数データセンター監視を統合できる機能を7.0LTSから導入

この後、ZabbixのパートナーであるSRA OSSからのTimescaleDBをZabbixの管理データベースに使うユースケースに関するセッション、寺島広大氏による過去10年の歩みを振り返るセッションに続いて、三菱UFJ銀行のITを担う三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社のシニアITスペシャリスト、勝野基央氏によるユースケースに関するセッションが行われた。

ATMの監視を担当するサポート業務部門がZabbixを使って監視を実行

ATMの監視を担当するサポート業務部門がZabbixを使って監視を実行

これは、情報システムがシステムの運用監視にZabbixを使っていたという経験を活かして、ATM自体の監視をZabbixによって実行したというユースケースだ。ATMの背後にあるサーバーなどは情報システム部門の管轄としてZabbixによる監視が行われてきたが、ATM自体の運用保守は別部門、トラブル発生時などは電話などのマニュアルな保守方法が取られていたという業務領域にZabbixを応用したもの。また銀行業務にRPAの利用が拡がっているという実態に対して、Ansibleを使ったロボット導入の自動化と同時にZabbixによる監視機能の導入を自動化したというユースケースを紹介するもので、サーバーなどのIT部門が管理する資産以外についてもZabbixが使えることを紹介する内容となった。

RPAの導入作業にAnsibleを利用。同時にZabbixのエージェントを入れることで監視が可能に

RPAの導入作業にAnsibleを利用。同時にZabbixのエージェントを入れることで監視が可能に

また、顧客向けに使われていた複数の監視ツールからZabbixへの移行を担当したNTTコミュニケーションズ株式会社の今井 聡氏はWATT、Nagios、Cactiなどからの移行について解説を行った。

WATT、Nagios、CactiからZabbixにシステムを移行

WATT、Nagios、CactiからZabbixにシステムを移行

非常にレアなケースにだけ発生する未知のバグに遭遇してしまい、修正に時間が掛かってしまったことなどを解説した。

NTTComブースでも説明を行っていた今井氏

NTTComブースでも説明を行っていた今井氏

Zabbixの日本代表、寺島広大氏の10年間の振り返りのセッションと初日最後に行われたQ&Aセッション、2日目の冒頭に行われたVladishev氏との対談などソフトウェアだけではなく組織や文化に触れるセッションが多かったのも特徴的だ。

ここからは、10年の振り返りと対談で出てきたトピックをまとめてみよう。

Zabbix Japanの社員は2022年11月の段階で16名、エンジニアはサポートとトレーニングを担当しているという。それ以外の販売やインテグレーション、コンサルティングなどは全てパートナーが担当している。サポートはこれまでに14,000件が累積のサポート件数だという。Zabbixのパートナーには日本のシステムインテグレーターが名を連ねるが、Zabbixが直接販売を行わずパートナーとは競合しないというのがポイントだろう。その分、Zabbix Japanはトレーニングとサポートに注力できる。トレーニングも過去に4,000人が受講しているそうだ。Vladishev氏のセッションでも紹介された仮想アプライアンスは日本で企画した製品で2018年に提供を開始したという。

仮想アプライアンスを解説する寺島氏

仮想アプライアンスを解説する寺島氏

仮想アプライアンスを購入したユーザー向けの3時間で完結する基礎トレーニング(無償)を開発、その後、有償トレーニングとしても購入できるようにしたという。

対談するVladishev氏(左)と寺島氏(右)

対談するVladishev氏(左)と寺島氏(右)

Vladishev氏と寺島氏の対談ではZabbixが最初に開発された際のエピソードが紹介された。最初、Vlafishev氏は銀行のシステム管理のエンジニアとして働いていたが、システム管理の業務を自動化しようと思ったのがきっかけだったという。当時はシェルスクリプトでしかなかったものが、モニタリングに移行していく中でこれを誰かに見て貰いたくなったのがオープンソースとして公開する背景だという。当時、良い例としてLinuxが存在しており、それに倣ったという。最初の反応は「ありがとう!」というメールが来たぐらいだったが、徐々にこうして欲しというリクエストを貰うようになっていったという。

ここで寺島氏から「アレクセイが何度も色んなところで訊かれてもちゃんと答えなかった質問があります」と前振りをしてから「Zabbixの名前の由来とは?」とVladishev氏に質問を投げると「特に意味はないが、Zabbixという単語はサーチエンジンで検索しても何も出てこなかったから」と答えた。要は特に意味はないランダムな単語だと言う。また「会社創立は何歳の時?」という質問には「31歳」「最初に日本人を雇ったのはどうして?」という質問には、日本を知っていたし、常に新しいことをやろうと思ったから」と答えた。

Zabbixの原則を説明。「マーケティングではなくテクノロジー主導」が際立っている

Zabbixの原則を説明。「マーケティングではなくテクノロジー主導」が際立っている

より技術的な質問として「2.0が出てくるのに時間がかかったのは何故?」には、「新しい社員を多く採用して立ち上がるのに時間がかかったから」と答えた。「でもそもそも締め切りがなかったから、いつまでに出すという意識は薄かった」と答えた。また「他社の監視ソフトウェアは意識している?」という質問には、「1997年にモニタリングのソフトウェアのリサーチをしたけど、特に良いモノがなかった。機能の追加などのデザインに関わる判断には自分自身そしてZabbixのエンジニアがやっている」と答えた。

これに付随して「もっとユーザーからこうして欲しいというリクエストを出して欲しい」と訴えた。全てのリクエストには目を通しているし、投票の機能も用意したのでそれを使って欲しいと説明した。

「最近、自分でコードを書いている?」という質問には「3~4年前にコードを書くのは止めたが、最近はWebのダッシュボードをカスタマイズするコードはJavaScriptで書いている」と答えた。主にプロトタイプのためというのが目的だという。

Zabbixが制作したTシャツが掲げられたカンファレンス会場

Zabbixが制作したTシャツが掲げられたカンファレンス会場

全体的な印象としてZabbixのパートナーとユーザーがZabbixというソフトウェアを愛していること、そしてその背後にいるエンジニア、特にAlexei Vladishev氏を信じていることが伝わってくるイベントとなった。北米のITベンダーのように自社製品の良さを過剰にアピールしないこと、開発当初から揺るがない原則、そして真摯に相手の意見を聴こうという姿勢が伝わってくるイベントだった。まだまだ現役のエンジニアであるVladishev氏だが、そろそろ後継者問題にアタマを悩ませ始める時期かもしれない。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

連載バックナンバー

OSSイベント

Open Source Summit Japan 2022開催。車載からストレージ、Kubernetesまで幅広いトピックをカバー

2023/4/26
2022年12月、横浜でOpen Source Summit Japanが開催された。リアルでは約500名が参加し、車載システムからSBoM、AIまで広範なセッションが行われた。
開発言語イベント

WASM Meetup@ByteDanceで垣間見たWebAssemblyの静かな広がり

2023/4/11
ByteDanceのシリコンバレーオフィスで開催されたWebAssemblyのミートアップを紹介。

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています