徹底比較!!SaaS vs.パッケージ 2

SaaSが実現するエンタープライズIT社会の共存共栄モデル

SaaSのビジネスモデルは「共存共栄」   「SaaS vs.パッケージ」と題した本連載の第1回では、SaaSの代表例であるセールスフォースのカンファレンスに見られた、ユーザや開発ベンダーのかつてない熱気や熱狂について、いったいその理由が何であるのかということを考えてきた。

古川 曜子

2007年10月9日 20:00

SaaSのビジネスモデルは「共存共栄」

   「SaaS vs.パッケージ」と題した本連載の第1回では、SaaSの代表例であるセールスフォースのカンファレンスに見られた、ユーザや開発ベンダーのかつてない熱気や熱狂について、いったいその理由が何であるのかということを考えてきた。

   カスタマイズフレキシビリティの高さや、スピーディな初期導入、柔軟なバージョンアップなどが、その理由の一端であることを確認した。しかし、これ らの点もさることながら、より深くSaaSのビジネスモデルを点検していくと、構造的・継続的にユーザや開発ベンダーを熱中させる仕組みがその中に見えて くる。そこで今回は、このビジネスモデルに潜むキーワード「共存共栄」を探ってみた。

ユーザと利益が相反するパッケージ販売モデル

   いわゆるパッケージソフトは、端的にいってしまえば「導入するのも難しく、止めるのも難しい」という特徴がある。例えばパッケージを初期導入する場 合、ユーザ企業には多額の初期投資が必要となる。仮に1億円のシステムを入れようとした場合、情報システム部門は様々な経営説明資料を用意し、社内稟議を クリアして、予算取りをしなければならない。多額の費用がかかることもあり、一度導入したら減価償却が終わるまでは捨てにくいため、導入に際しては慎重に 検討を重ねていかなければならない。

   パッケージベンダー側では、様々な顧客要求に対応できるよう、現状のニーズのみならず、将来発生するかもしれないニーズまでも含めて最大限機能を膨らまし、パッケージの魅力や斬新さを前面に打ち出したプロモーションが展開される。

   このことはパッケージベンダーにとって、とにかく「まずパッケージを買ってもらうこと」が目標であるため、場合によっては顧客に必要のない機能までも混ぜ込んで、セールスポイントの演出の方に注力しているようにも見える。

   もともとユーザの望むものとパッケージベンダーの目標にはズレが生じやすい。さらにパッケージベンダーが自身の利益を強く追求し過ぎると、時にユー ザの利益と相反するものになってしまうという構造上の矛盾をパッケージ販売モデルは抱えている。いくつかのメディア上で導入失敗事例として目にすることも あるが、数え切れない使われないシステムが各企業で眠っていることだろう。

ユーザと夢を共有するSaaSベンダー

   一方SaaSの場合は、ユーザにとって「はじめるのも簡単、抜けるのも簡単」という、パッケージ販売とはまるで対照的なビジネスモデルとして登場した。SaaSベンダーは、いわばユーザと一緒にビジネスをスタートさせていく。

   ユーザがSaaSアプリケーションを利用開始した当初は、単に月々の利用料が支払われるだけである。ユーザにとっては初期投資などの背負っているものがないため、要らなくなったらいつでもそのサービスをやめることができる利点がある。

   SaaSベンダーはユーザにできるだけ長く使ってもらうために、無償かつ頻繁にアプリケーションのバージョンアップを行い、常に最新の機能を提供し 続ける。そこでユーザニーズにぴったりと合った機能を提供しなければ新しいバージョンを提供する意味がないため、バージョンアップの際には、まずユーザの 意見を聞く。

   例えばセールスフォース・ドットコム社(以下、SFDC社)では、「IdeaExchange」という公開コミュニティを用意して、エンドユーザか らのアイデアや意見を募り、これに基づいてバーションアップを行っているそうだ。実際、ここにはこれまで数万件に上る投稿が寄せられており、2007年5 月にIdeaExchangeに載せられたユーザからのアイデアが、早速セールスフォースの「Summer'07」バージョンに反映されたというから、ま さに驚くべきスピードである。


Salesforce.comのIdeaExchangeサイト
図1:Salesforce.comのIdeaExchangeサイト
http://ideas.salesforce.com/popular/
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

   このようにSaaSでは、ベンダー主体で機能拡張を行うのではなく、ユーザが求める機能をユーザが必要とするタイミングでリリースすることに注力す る。この点でユーザ企業とSaaSベンダーは、目標を共有しているといえるだろう。つまりより良いシステムを使ってユーザがビジネスを成功させることが、 SaaSベンダー自身の利益につながるのである。

   もちろんユーザ企業にとっては、まさに「お抱えのIT部門」を社外に持ったのと同じ状態となる。自社の要望を受け付け、一定のタイミングでそれを実 装してくれる。同じSaaSを使う他社のアイデアもすべて享受することができる。自社内の要員のように管理するコストもなく、比較的安価でそのサービスが 受けられるとなれば、ユーザが飛びつかないわけがない。

   これまで多くのユーザ企業がパッケージベンダーとの利益相反的な関係を「何かおかしい」と思いながらも、他に選択肢がないため甘んじて受け入れてき たことだろう。その状況に対してSaaSはユーザとベンダーの新しい関係性、すなわち「共存共栄」の関係を提案しようとしているのである。もはや一体と なって活動しているという意味では、「共生」と呼んだ方がふさわしいかもしれない。そしてこれが、ユーザに「熱気」を抱かせるSaaSの構造的魅力の1つ だといえるのかもしれない。

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