4分類から見るPMOの全体像 6

組織とプロジェクトを“外から正す”「第三者評価PMO」

最終回の今回は、4種類あるPMOのうち「第三者評価PMO」について深掘りしていきます。

甲州 潤 (こうしゅう じゅん)

6:30

はじめに

これまで企業におけるPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)のうち、プロジェクト内PMO、部門PMO、コーポレートPMOを紹介してきました。最終回となる今回は、それらとは立ち位置が大きく異なる「第三者評価PMO」を取り上げます。

第三者評価PMOは、下図の④に位置し、組織の内部から距離を置いた立場でプロジェクトを評価や是正、経営層などへレポーティングする役割を担います。4つのPMOの中で最も高い客観性と網羅性が求められる存在と言えるでしょう。

一見、順調に進んでいるように見えていたプロジェクトが、完了直前で突然立ち行かなくなる。ずっと「問題ない」と報告を受けていたのに、急に大きなトラブルが発覚し、経営層は状況を十分に把握できないまま、各所への説明や対応に追われることになる――こうした事態が起きたとき、経営層や事業責任者の頭に浮かぶのは、「本当にこのプロジェクトは健全なのか」「どこかで判断を誤っているのではないか」といった疑問です。

そこで、その疑問を事実として可視化し、原因究明や改善策の提案にあたるのが第三者評価PMOなのです。企業によっては、社外のアセスメントサービスやCMMI(組織の成熟度評価)を依頼することもあれば、社内で「内部監査室」のような部署を立ち上げることもあります。

それでは、「第三者評価PMO」の具体的な働きについて、事例も踏まえながら理解を深めていきましょう。

【出典】甲州潤 著『DX時代の最強PMOになる方法』

第三者評価PMOの最大の役割は「客観的な評価と是正」

第三者評価PMOの役割を端的に表すなら、「健康診断」あるいは「セカンドオピニオン」に近いものだと私は考えています。

プロジェクトが破綻するとき、問題は突然生まれるわけではありません。多くの場合、

  • 「順調」と報告されているが、成果物が見えない
  • トラブルが起きても、原因が整理されない
  • 改善策が出ているようで、実態は変わっていない
といった違和感が、以前から積み重なっています。第三者評価PMOは、こうした違和感を感情や立場から切り離し、「今このプロジェクトは○なのか×なのか」を明らかにしていくことが求められます。

プロジェクト内PMOであれば、プロジェクトを円滑に進めるという目的のもと、「この現場の場合、こうした例外も否めない」「正攻法ではないけれど、このチームにはこのやり方が合っている」など、正しさより柔軟性を重視する場面もあります。しかし、第三者評価PMOに、その曖昧さやプロジェクト最優先という考えは一度おいて置かなければなりません。

プロジェクト進行については、「PMBOK(ピンボック)」のように、「こうすればうまくいく」といった広く参照されている方法論が存在しています。さらには、社内規定などその会社固有のルール、社会において守るべき法律など―第三者評価PMOは、そうした決まりごとに基づき、目の前のプロジェクトが正しいのか、そうでないかをはっきり判断していく必要があるのです。

ただし重要なのは、決して「×」をつけるためだけに存在する役割ではないという点です。なぜ「×」になったのか。その原因は個人にあるのか、仕組みにあるのか。どうすれば「○」に戻せるのか。この「評価と是正」をセットで示して初めて、第三者評価PMOの評価は意味を持つのです。

健康診断でも、「今回の体重は、身長から算出したBMI値で見ると肥満です。でも、食生活や運動習慣の見直しで改善できますよ」といった改善策も含めた提案をしますよね。それと同じです。

また、「社内で調査しても、破綻要因がわからなかった」「外部会社から提案された改善策ではうまくいかなかった」といった場合も、第三者評価PMOによる客観的な意見が求められるケースがあります。これはまさに医療におけるセカンドオピニオンと一緒ですね。

なぜ“社内”では第三者評価PMOが務まりにくいのか

冒頭で触れたとおり、第三者評価PMOの役割は、社内に「内部監査室」のような独立組織を設けて担うこともあります。しかし実際のところ、社内の人間がこの役割を担うのは非常に難しいというのが、多くの現場で共通して実感してきたことです。

その背景には、組織の中で人が働く以上、立場や評価、関係性が意思決定に影響してしまう現実があります。

たとえば、内部組織が評価を行う場合、

  • プロジェクトや事業部を評価して、社内に波風を立てたくない
  • 経営層に対して踏み込んだ指摘をした結果、自身の評価に影響が出るのではないか
  • 「今回は仕方ない」という判断を重ねて、場を収めようとする
といった忖度が、無意識に働くことがあります。

その結果、評価を実施したとしても、

  • 耳障りのいい報告だけが上がってくる
  • 具体的な成果物や記録が残らない
  • 問題は「誰かのミス」として処理されてしまう
といった状態に陥りやすくなります。こうした環境では、構造的な改善に結び付かず、同じトラブルが繰り返されてしまいがちなのです。

私自身、第三者評価PMOを担ったケースでは、もともと別のプロジェクトにプロジェクト内PMOとして関わっていたところ、経営層から「甲州さん、実は別のプロジェクトでトラブルが多く、第三者的に評価してほしい」と声をかけられた経験があります。

トラブルの多いプロジェクトの背景には、「PMに権限が集中しすぎている」「具体的な報告書を作る文化がない」といった、企業体質や業界特有の慣習などに起因しているケースも多いのです。

こうした事情があると、内部の人間では忖度が働きやすい上に、一方で企業文化をよく知らない新規取引先のコンサル会社などには依頼しづらい、といった板挟みの状態が生まれます。その結果、外部の人間でありながら、なおかつ内部事情も理解している、私のようなPMOに、「第三者評価PMOの依頼」をいただくこともしばしばあるのです。

プロジェクトのどこを見る? 第三者評価PMOが意識するポイント

では、実際の現場で第三者評価PMOはどのような観点からプロジェクトを見ているのでしょうか。ここからはよくあるシーンとともに、私が普段意識している4つのポイントを紹介します。

①まず「人」ではなく「ドキュメント」を見る

第三者評価PMOが最初に着手するのは、プロジェクト内で制作されたドキュメントや成果物の確認です。計画書、議事録、進捗資料、設計書──これらがどの程度整理され、どのように共有されているかを見るだけで、プロジェクトの健全度はかなりの精度で把握できます。

特に、10人以上の規模のプロジェクトで、ドキュメントが少なく「主にチャットでやり取りしている」「各自、頭の中で把握しているので大丈夫」という場合は要注意。どこかで必ず認識のズレが生じ、結果としてトラブルに発展します。

これは経験則ではなく、PMBOKなどプロジェクトマネジメントの体系として、すでに答えが出ていることでもあります。そして、そもそも記録を残したがらなかったり、ドキュメントの提出を渋ったりするプロジェクトは、何かやましいことを隠蔽している可能性も高いです。

一方で、ドキュメントが極端に多いプロジェクトも安心とは言えません。どの資料を基準に判断しているのかが定まっていないことも多く、その場合、関係者同士の認識が噛み合わず、意思決定が迷走してしまうからです。

プロジェクト内PMOであれば、現場と伴走しながらドキュメント整備を進めることもあります。しかし第三者評価PMOは、「なぜドキュメントが残っていないのか」「なぜ形式や粒度が統一されていないのか」といった、より構造的な部分に踏み込みます。

②匿名ヒアリングによる実態把握

ドキュメント確認と並行して行うのが、関係者へのヒアリングです。最初は経営層に悩んでいる課題について詳しく話を聞き、その後、課題解決に向けて事業部長、PM、プロジェクトメンバーなど、立場の異なる関係者へ幅広くヒアリングしますが、その内容はすべて匿名で扱います。誰が何を言ったかはレポートに残さず、事実と傾向として整理します。

なぜ匿名なのか。その理由は明確で、本音を引き出すためです。立場が違えば、同じプロジェクトでも見えている景色は大きく異なります。ヒアリング内容に食い違いが見られる場合、そこに問題の兆しが隠れていることが多々あるのです。

特に、大規模なシステム障害が起きた際の原因究明などでは、同じ質問を複数人に同時に投げかけることもあります。これは順番に聞くと、後から口裏を合わせる余地が生まれるためです。いわば刑事の「取り調べ」に近い手法ですが、事実を正確に把握するためには不可欠なプロセスです。

③「×」を「○」にするための改善提言はセット

第三者評価PMOは、あらかじめ決められたルールや基準などに基づいてプロジェクトの評価を行います。ルールに反していれば、理由にかかわらず「×」は「×」です。

プロジェクト内PMOであれば、現場の事情を汲み取り、柔軟な対応を検討することもあるでしょう。しかし第三者評価PMOに求められるのは、まず評価を確定させることです。そのため、評価の際は「こんなことを指摘してもいいのだろうか」などと躊躇せず、ドライに淡々と判断する意識が大切です。

「~~だから×なのです」と根拠も合わせて自信を持って掲示するには、事前の網羅的な知識(社内規定、業界の慣習、法律など)のインプットも不可欠です。

そして、評価と改善提言はセットです。「×」をつけるだけではなく、「×を○に戻すには何が必要か」という改善の道筋まで示す。このバランスが取れてこそ、第三者評価PMOの価値が発揮されます。

④個人ではなく「仕組み」を正す

例えば「PMがプロジェクトの具体的な報告をしていない」など、問題がPM個人にあるように見えるケースでも、詳しく見ていくと「社内規定には、報告義務は定められていない」など、そもそも社内ルールや承認フローそのものが存在しないこともあります。その場合、PM個人に全面的な非はないですし、PMを違う人に入れ替えても同じ問題が再発してしまいます。

ですから、第三者評価PMOは「誰が悪いか」ではなく、「なぜその状況が生まれたのか」という構造を注視します。たとえ「PMが都合の悪いことを隠蔽した」という事実があっても、隠蔽せざるを得ない社風や仕組みがあるのではないかと考え、何事もオープンにできる仕組みやPMを2名体制にするなど、同じ過ちを繰り返さない構造的な改善案を掲示する訳です。

責任の所在を明確にしつつも、解決策は仕組みの是正に置く。この視点が、第三者評価PMOに求められる本質と言えるでしょう。

【事例】第三者評価PMOの働きによって、
停滞していたプロジェクトの立て直しに成功

最後に、私が実際に第三者評価PMOとして関わった事例を紹介します。

その企業では、あるシステム開発プロジェクトについて「進捗に問題はない」という報告が続いていました。しかし現場ではトラブルが頻発し、事業部長や経営層のもとには内部から「プロジェクトが思うように進んでいない」「改善提案をしても状況が変わらない」といった不満の声が届いていたのです。社内でヒアリングを行っても実態が見えず、第三者の視点で評価してほしいと依頼を受けました。

計画書や議事録、進捗資料といったドキュメントを精査すると、必要な資料自体はそろっているものの、それらがプロジェクト内で十分に機能していないことが分かりました。

並行して、プロジェクトの関係者全員への匿名ヒアリングを実施。すると、立場ごとにプロジェクトにおける認識が大きく異なっていることがわかりました。コミュニケーションは活発にされていましたが、前提となる考え方やスタンスが噛み合っておらず、その場しのぎの表面的なコミュニケーションがただ繰り返されていたのです。

私は評価結果をもとに、課題と原因を整理し、改善策を提言しました。報告ルールや成果物の定義を見直し、関係者間の認識をすり合わせたことで、プロジェクトは徐々に立て直され、当初の目的に向かって進められる状態となりました。

一方、第三者評価PMOとして関わる中では、評価の結果「このプロジェクトは継続すべきではない」と判断するケースもあります。プロジェクト停止の判断は失敗ではなく、コストやリソースの無駄な消費を防ぐための重要な意思決定です。

第三者評価PMOは、プロジェクトを必ず成功に導くことが正解ではないのです。これはプロジェクト内PMOと異なる点でもあるでしょう。「問題を解決して立て直すのか」「一度停止してリセットするのか」どちらの可能性も考えながら、事実やルールをもとに冷静な判断を下すこと。それが、第三者評価PMOに求められる役割だと考えています。

おわりに

本連載では、プロジェクト内PMO、部門PMO、コーポレートPMO、そして第三者評価PMOという、4つのPMOを紹介してきました。PMOとひとくちに言っても、その立ち位置によって果たすべき役割が異なることをご理解いただけたら嬉しいです。特に今回の第三者評価PMOは、プロジェクトを「外側から見る」という点が、他のPMOとは大きく違いますね。

私自身もそうだったように、いずれのPMOも、エンジニア職からのキャリアチェンジは可能だと考えています。また、企業にとっては「課題に応じて4つのPMOを使い分ける」という視点を持つと、事業がさらにスムーズに加速していくと思います。

本連載が、PMOという存在をより立体的に理解する一助となれば幸いです。

次回から新たなテーマの連載をスタートしたいと思っています。ぜひ、お楽しみに!

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