SaaSが変えるものとは?
本連載ではこれまで4回にわたって、パッケージソフトと比較したSaaSの特徴をセールスフォース・ドットコム社のCRMサービス「Salesforce」を例に取り上げながら解説してきた。
紹介してきたビジネスモデル自体は同社の独自性が強いものであったが、SaaS業界の先頭をいく同社の視点を知ることで、SaaSがどこに向かって行こうとしているのかが次第に見えてきたのではないだろうか。
最終回となる今回は、SaaSがエンタープライズ領域におけるITの世界をどう変えていくのか、SaaSの現状の課題と今後の可能性について考えて いきたい。今回の原稿を書くに当たって、セールスフォース・ドットコムの宇陀 栄次社長に話を伺うことができたので、その内容をまとめながら検討していく。
「オンデマンド」の重要性について
古川:SaaSにはさまざまな新しさや可能性があると思われますが、提供するベンダー側から見ると、そのポイントは一体どこにあるとお考えでしょうか。
宇陀社長:まずは「オンデマンド」でしょう。必要なときに必要なリソースを確保できる魅力は 何者にも変えがたいと思います。例えばごく身近な例で考えてみると、年に1回しか軽井沢に行かないのに、そこに別荘を買ってほとんど使わない期間もメンテ ナンスしていくことが果たして得策といえるでしょうか。
災害対策システムの場合なども同様です。5年が経ってリース切れになったとします。その5年の間、一度も災害は起きませんでした。このシステム投資は、これで成功といえるのでしょうか。
ソニーのプレイステーションのWebサイトでは、新商品発売の当日に莫大なアクセスが殺到するそうです。では、そのピークに合わせたサイジングでシステムを作るのは良い方法だといえるでしょうか。
古川:確かにピーク時に合わせてシステムを作ったら、莫大なコストが発生してしまいますね。
宇陀社長:これまでは、このように波のある利用状況にフレキシブルに対応できるシステムはな かったのです。ピーク時には落ちてしまっても仕方ないとあきらめた上で、それなりのスペックのシステムを組んだり、効率的な投資とはいい難いことを承知 で、重厚なバックアップシステムを作らざるを得ませんでした。
それがSaaSの登場によって、ユーザは月々の定額料金を支払うことで急に発生するピークにも対応できる環境が利用できるようになったのです。つま り、レンタカーと同じようなサービスがITシステムの世界にも現れたのです。これは、SaaSがパッケージと比べてどうこうという以前に、今までになかっ たまったく新しいサービスを提供しているということなのです。
SaaSの得手不得手を分析する
宇陀社長のこのコメントは、SaaSの現在の課題と可能性を良くいい表しているといえよう。定型業務が多く変化も少ないバックオフィス系のシステムは、ERPなどのパッケージで行う方が現状では有利な面がある。
現状のSaaSの課題として一般的にいわれていることの1つに、「サーバ負荷のかかる大量データのバッチ処理や、ネットワーク負荷のかかる外部データベースとのデータ連携処理に弱い」という点がある。
確かに自社内でリソースの配分を計算し、細かいスケジュールを組んで処理を走らせている状況やイントラネットの閉じたネットワーク環境内でのデータ連携に比べれば、外部環境での処理は遅くなる場合もあるだろう。
しかしフロント系システムに目を転じれば、SaaSは俄然有望なサービスとなってくる。オンデマンドであるメリットを生かし、フレキシブルにかつ ユーザへのサービスを損なうことなく、システムを運用できる。現状においては適材適所のすみ分けといえるかもしれない。