連載 [第27回] :
  Gen AI Times

【戦略と実践】顧客理解が変えるマーケティングの未来(実践的プロンプト付き)

2025年1月23日(木)
中嶋 正純
本記事は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」に所属するメンバーが、生成AIに関するニュースを紹介&深掘りしながら、AIがもたらす「半歩先」の未来に皆さんをご案内します。

はじめに

本連載は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」で活動している各分野のエキスパート8名が執筆を担当しています。2025年を迎え、ビジネス領域における生成AIの活用がますます本格化する中、私たちは理論と実践の両面から、最新の知見に基づいた実践的な情報をお届けしていきます。本年も引き続き、様々な活動や価値観を楽しんでいただけると幸いです。

2025年最初の記事は「生成AI×マーケティング」について取り上げたいと思います。「マーケティング」という言葉から、あなたは何を思い浮かべるでしょうか? 多くの人は華やかな広告キャンペーンやSNSでの情報発信を連想するかもしれません。しかし、それらはあくまでも手段に過ぎません。マーケティングの本質は「顧客を深く理解し、その理解に基づいて売れる仕組みを構築すること」にあります。

この「顧客理解」の重要性は、企業の現場でも強く認識されています。最近の調査によると、マーケティング担当者の約5割が「顧客理解」を最大の課題として挙げており、この数字はBtoB・BtoC双方で共通しています。なぜ、これほどまでに顧客理解が重視されているのでしょうか。

【出典】「BtoBマーケティングの課題に対するアンケート」(ナイル株式会社)
・調査期間:2023年8月21~25日
・調査方法:インターネット調査
・調査対象:マーケティング担当者513名
 (一般消費者を対象にした事業やサービス(BtoC)のマーケティング担当者:267名、法人を対象にした事業やサービス(BtoB)のマーケティング担当者:246名)

今回は、マーケティングにおける顧客理解の重要性を解説すると共に、急速な進化を遂げている生成AIが、どのようにこの課題解決に貢献できるのかを具体的に見ていきます。

「顧客理解」とは何か

先ほどの調査結果が示すように、多くの企業が顧客理解の重要性を認識しています。しかし、そもそも「顧客理解」とは、具体的に何を意味するのでしょうか。

顧客理解の4つの要素

顧客理解とは何か。多くの企業は、まず顧客の属性や購買履歴などのデータ収集を思い浮かべるかもしれません。しかし、真の顧客理解とは、顧客の行動の背後にある心理、ニーズ、価値観を深く洞察することです。

例えば、データ収集だけでは、顧客がなぜその商品を選んだのか、どのような課題を抱えているのかといった本質的な動機や感情を捉えることはできません。顧客を深く理解するためには、定量的なデータ分析に加え、インタビューなどによる非言語領域の観察が重要です。顧客の言葉、表情、しぐさなどから言語化されていない潜在的なニーズを探り出すことで、より本質的な理解が可能になります。

このように、データと質的観察の両面からアプローチすることで、顧客を包括的に理解できます。そして、この深い顧客理解こそが、効果的なマーケティング戦略を策定するための基盤となります。言わば、顧客理解はマーケティング活動の方向性を定めるコンパスのような役割を果たし、適切なターゲティングやプロモーションを可能にするのです。

なぜ顧客理解がマーケティングの基盤なのか

マーケティング活動の成否を分ける最も重要な要素が顧客理解ですが、toC(個人消費者向け)とtoB(企業向け)では、その重要性のあらわれ方が異なります。それぞれの特徴を見ていきます。

toCマーケティング:共感から始まるブランド構築

個人消費者向けのマーケティングでは、感情的なつながりが購買の大きな動機となります。顧客理解を深めることで、以下の3つの効果が生まれます。

  1. なぜその商品を選ぶのかという本質的な購買動機を明確化
    この理解に基づいて、顧客の心に響くマーケティングメッセージを作り出すことができる
  2. 顧客との感情的な結びつきを構築
    顧客の価値観や生活観を理解することで、単なる商品説明を超えた共感を呼ぶストーリーを展開できるようになる
  3. 顧客との全ての接点で一貫した体験を提供
    店舗、ウェブサイト、SNS、カスタマーサポートなど、これら全てのタッチポイントでブランドの本質を体現した体験を提供することで、顧客との信頼関係を築くことができる

toBマーケティング:課題解決を通じた信頼構築

一方、企業向けマーケティングでは、より複雑な意思決定プロセスを理解することが求められます。単一の意思決定者ではなく、複数の関係者が関与する購買プロセスを理解し、それぞれの立場や役割に応じた適切なアプローチが必要です。

  1. 顧客企業が抱える本質的な課題を理解
    表面的なニーズではなく、その背後にある経営課題や事業課題を理解することで、単なる商品販売を超えた、価値提供型の関係を構築できる
  2. 一度の取引で終わらないための継続的な関係構築
    顧客企業の成長に伴走し、その時々の課題に対して適切なソリューションを提供し続けることで、長期的なパートナーシップを築くことができる
  3. エンドユーザーを理解
    エンドユーザー(生活者)のニーズを理解することで顧客企業の課題を深く理解し、的確な価値提案を行うことが可能となる

このように、toCとtoBでは顧客理解の焦点は異なりますが、いずれの場合も深い顧客理解なくしては効果的なマーケティング活動は難しいと思われます。

生成AIがもたらす顧客理解の革新

ここで注目されるのが「生成AI」の活用です。デコムの「DECOM AI」は、1,000人規模の定性データを1日で収集・分析し、従来500時間かかっていた分析作業を約4時間に短縮することに成功しています。また、GMOリサーチの「デジタルツインチャット」は、性格診断データや消費行動意識データ、ウェブ行動データを組み合わせることで消費者の意識や行動をリアルに再現し、より深い顧客インサイトを導き出すことを可能にしています。

このように、生成AIは顧客理解のプロセスを革新的に効率化するだけでなく、人間では気づきにくい新たな洞察の発見も実現しています。

生成AI活用の具体例

事例①:デコム「DECOM AI」
従来500時間かかっていたデータ分析を約4時間に短縮し、分析官の思考プロセスを再現することで具体的なアイデアや施策を立案します。

事例②:GMOリサーチ「デジタルツインチャット」
性格診断やウェブ行動データを統合的に分析し、個々の顧客に合わせたパーソナライズされた提案を可能にします。

生成AIで顧客理解を進化させる3つのポイント

生成AIを活用することで、顧客理解のプロセスを大きく進化させることができます。

ポイント1. データ統合で全体像を把握
生成AIは様々なデータを統合して分析できるため、顧客の包括的な理解が可能になります。あらゆる接点でのデータを一元的に分析することで、これまで断片的だった顧客理解がストーリーをもった理解へと進化します。

ポイント2. 隠れたニーズの発見
生成AIの分析能力は、人間では気づきにくい微細な変化や相関関係を見つけることもできるため、従来の分析では見落としがちだった潜在的なニーズを特定することが可能です。こうした深い洞察は、新たな事業機会の発見や競争優位性の確立につながります。

ポイント3. 迅速な施策展開
生成AIは、データ分析から施策立案までのプロセスを大幅に効率化します。分析から得られた洞察をもとに具体的な施策案を即座に生成できるため、市場環境や顧客ニーズの変化に迅速な対応が可能です。

これらの利点を最大限に活用するためには、生成AIに適切な指示を与えることが重要です。以下に、企業・ブランドの戦略立案に活用できるプロンプト例を紹介します。このプロンプトを使用することで、顧客セグメントの推測から企業・ブランドを取り巻く環境の理解まで、参考となるような包括的な分析が行えると思いますので、ぜひお試しください。

企業・ブランドの戦略立案に活用できるプロンプト例

# このコンテンツの詳細
ゴールは、ユーザーが提示した企業・ブランドについて、企業・ブランドがとるべき戦略と企業・ブランドを取り巻く環境を具体的かつ体系的に書き出すことです。

# ゴールを達成するための実行手順
1. 企業・ブランドがとるべき戦略
以下の情報を、Webブラウジングを実行して、テーブル形式で作成してください。
- 最初の列には、{企業・ブランド}にとって最も重要な顧客セグメントを、利用可能なデータから推測して、3つ書き出してください。
- 2列目には、顧客セグメントごとに、{企業・ブランド}が狙うべきのペルソナの特徴を具体的に記述してください。
- 3列目には、顧客セグメントごとに、{企業・ブランド}が狙うべきのペルソナが、{企業・ブランド}に求めるニーズを推測して書き出してください。
- 4列目には、顧客セグメントごとに、{企業・ブランド}の強みを詳しく書き出してください。
- 5列目には、顧客セグメントごとに、詳細な4P視点の販売戦略を具体的に提案してください。

2. 企業・ブランドを取り巻く環境
企業・ブランドを取り巻く社会環境を、以下の3つの観点から詳しく作成してください。
1. Webブラウジングを実行して、{企業・ブランド}に関連する社会トレンドの流れを詳しく記述する。
2. 上記の社会トレンドの流れから考えられる{企業・ブランド}にとってのビジネスチャンスを3つ書き出す。
3. 上記の社会トレンドの流れから考えられる{企業・ブランド}のビジネス課題を詳しく書き出す。

# 注意事項
- 情報収集の際は、信頼性の高い情報源を優先してください(公式ウェブサイト、業界レポート、主要ニュースメディアなど)。
- 必要に応じてデータの出典元を明記してください。

# 成果物の生成
1. 企業・ブランドがとるべき戦略をテーブル形式で作成してください。
2. 企業・ブランドを取り巻く環境の分析結果を詳しく作成してください。

# user intent:{}
企業・ブランド名:

このように、生成AIを活用することで、より深い顧客理解に基づいた戦略立案が可能になります。ただし、生成AIはあくまでも意思決定を支援するツールであり、最終的な判断は人間が行う必要があることを忘れてはいけません。

まとめ:顧客理解が切り拓く、マーケティングの新時代

マーケティングの成功において顧客理解は不可欠な要素です。生成AIの登場は、この顧客理解のプロセスを劇的に効率化し、新たな可能性を広げてくれると思います。デコムやGMOリサーチの事例が示すように、AIを活用した顧客理解はマーケティング効率の向上、顧客体験の改善、そして競争優位性の確立につながると思われます。

では、具体的にどのように始めれば良いのでしょうか。まずは自社の顧客データを収集・分析し、顧客のニーズや期待を把握する作業から始めることをお勧めします。その上で生成AIを活用し、データ分析の効率化と新たなインサイトの発見や仮説出しを進めていきます。そして何より重要なのは、得られた知見を実際のビジネスに活かし、継続的な改善を図ることです。

市場環境が急速に変化する今、顧客理解に基づくマーケティングは企業の持続的な成長に不可欠な要素となっています。2025年はより一層、生成AIを味方につけ、より深い顧客理解へと踏み出しましょう。

株式会社マクロミル
マーケティングリサーチを通じて、クライアントのマーケティング課題解決をサポート。
・社内生成AI導入推進プロジェクトマネージャー
・「生成AI EXPO in 犬山」でマーケティング関連コンテンツで登壇
・生成AIハッカソン、海外のプロンプトハッカソンで入賞実績あり

連載バックナンバー

AI・人工知能ニュース
第27回

【戦略と実践】顧客理解が変えるマーケティングの未来(実践的プロンプト付き)

2025/1/23
本記事は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」に所属するメンバーが、生成AIに関するニュースを紹介&深掘りしながら、AIがもたらす「半歩先」の未来に皆さんをご案内します。
AI・人工知能ニュース
第26回

【OpenAI vs Google】年末AI戦争から見た未来

2025/1/9
本記事は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」に所属するメンバーが、生成AIに関するニュースを紹介&深掘りしながら、AIがもたらす「半歩先」の未来に皆さんをご案内します。
AI・人工知能イベント
第25回

【号外:地域創生の1つのゴール】11月17日開催「生成AI EXPO in 東海」名古屋会場レポート

2024/12/25
本記事は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」に所属するメンバーが、生成AIに関するニュースを紹介&深掘りしながら、AIがもたらす「半歩先」の未来に皆さんをご案内します。

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています