連載 [第29回] :
  Gen AI Times

【知っておきたい】DeepSeekの衝撃とChatGPTの新機能、何が変わった?

2025年2月20日(木)
鍋谷 美帆
本記事は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」に所属するメンバーが、生成AIに関するニュースを紹介&深掘りしながら、AIがもたらす「半歩先」の未来に皆さんをご案内します。

はじめに

本連載は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」で活動している各分野のエキスパート8名が執筆を担当しています。この記事を通して、ぜひ皆さんも各々の半歩先の未来を想像しながら、色々な価値観を楽しんでいただけると嬉しいです。

前回の記事では、2025年のトレンドとして「AIエージェント」と「生成AIによるタスク実行」について紹介しました。自律的にタスクを遂行するAIエージェントの活用や、ChatGPTの新機能を実際に試してみた結果などを詳しくお伝えしました。

生成AI業界では、その後も次々と新しい技術やサービスが登場し、競争が一層活発になっています。今回は、中国発のAI企業「DeepSeek」の登場と、OpenAIによる新モデル・新機能のリリースという2つの動きに焦点を当てて解説していきます。

DeepSeekの登場
ー低コスト・高性能なAIモデルによる衝撃

DeepSeek-V3, R1の発表

中国・杭州発のAIスタートアップ「DeepSeek」は、2024年末に「DeepSeek-V3」、2025年1月には「DeepSeek-R1」を発表し、AI業界に大きな波紋を広げました。その最大の特徴は「高性能」と「低コスト」の両立です。

具体的には、以下のような特徴が挙げられます:

  • 高性能
     -ChatGPT等のようにチャットベースでのテキスト生成や検索などが可能
     -特に数学的推論やプログラミングが得意
     -DeepSeek-R1はChatGPT-o1に匹敵する性能を持つとされる
  • 低コスト
     -トレーニング効率の最適化により、従来のAIモデルより大幅な低コストで開発
     -ChatGPT-4の開発には1億ドル(約155億円)以上もの開発費がかかったと推測されているのに対し、DeepSeek-V3の開発費はわずか557.6万ドル(約8億7,000万円)とされている
     -API利用料金も従来サービスと比較し大幅に安価に設定

また、オープンソースで提供されるこのモデルは、研究者や企業が独自に調整や利用を進めることが可能です。これにより、これまでコスト面の制約から高性能なAIモデルの開発・利用が難しかった研究者や開発者にも、新たな活用チャンスが生まれると期待されています。

【出典・参考】

株式市場へのインパクト「DeepSeekショック」

【出典】DeepSeekショック、米AI株急落 NVIDIA時価91兆円消失(日本経済新聞 2025年1月28日)

2025年1月27日には、DeepSeekのAIアプリが米国App Storeで首位を獲得しました。これを受け、米国のAI産業の優位性が揺らぐとの警戒感から、米ハイテク株が下落。AI半導体大手NVIDIAの時価総額がその日だけで約5,900億ドル(約91兆円)減少するなど、株式市場にも大きな影響を及ぼしました。

【出典・参考】

浮上するセキュリティ懸念

一方で、DeepSeekの安全性や情報漏洩リスクに対する懸念も高まっています。

主な問題点として、以下が指摘されています:

  • データ保存先の問題:
     -ユーザーデータや個人情報が中国国内のサーバーに保存される
     -このため、中国の法律に基づき、政府機関がそのデータへアクセスできる可能性がある
  • 個人情報保護:
     -DeepSeekのプライバシーポリシーにはユーザーから広範な個人情報を収集し、中国国内のサーバーに保存すると記載されている
     -アカウント作成時の情報に加え、入力したテキストや音声、チャット履歴なども収集対象となっている
  • システムの脆弱性:
     -既知の脱獄(プロンプト・インジェクション)攻撃に対して防御が不十分で、攻撃者が安全フィルタを回避しやすいことが確認されている

これらの懸念を受けて、複数の国や政府機関、企業で利用制限の動きが進んでいます。2025年2月6日には、日本政府も各省庁へDeepSeekの業務利用に注意喚起を行いました。

【出典・参考】

DeepSeekの利用に関する議論は、こちらのXが分かりやすいので良ければチェックしてみてください。

OpenAIの最新動向

2025年はOpenAIからも数々の新機能・モデルが公表されています。特に、DeepSeek-R1が当時のChatGPT最新モデルo1の性能に並んだとされてから数日のうちにo1を上回る性能のo3-miniが登場していることからは、生成AI業界のスピード感や競争の激しさが伺えます。

▼OpenAIによる新機能・モデルアップデート

(NapkinAIにて著者作成)

Webブラウザを直接操作・自動実行するAI「Operator」

【出典】Introducing Operator(OpenAI 2025年1月23日)

OpenAIが発表した「Operator」は従来のチャットAIとは異なり、Webブラウザを直接操作してタスクを実行できる点が特徴です。例えば、レストランの予約やオンラインショッピング、各種フォームの入力などをAIが代わりに行えるようになります。執筆日時点では米国のProユーザーのみが利用可能ですが、今後はPlusやEnterpriseユーザーへの展開が予定されています。

このように、自動でタスクを実行する仕組みは前回で紹介した「AIエージェント」の一形態と言えるでしょう。AIエージェントについては前回で詳しく解説していますので、ぜひそちらもご覧ください。

高効率な新推論モデル「o3-mini」

【出典】無料GPT革命!o3-miniが拓く次世代AIの扉(NewsPicks 2025年2月1日)

新たに登場した推論モデル「o3-mini」は、以下のような特徴があります:

  • 従来モデルに比べてコスト効率が高く、より迅速な応答が可能
  • プログラミングや数学、化学といったSTEM分野での優れた性能を発揮
  • 専門家による評価では、難しい現実世界の質問での重大なエラーが39%減少
  • 従来の推論モデル(o1、o1-mini)では対応していなかった、Web検索と合わせた推論が可能

複雑・深掘り調査が可能なAIリサーチャー「Deep Research」

【出典】Introducing deep research(OpenAI 2025年2月2日)

最も注目を集めているのが、調査・分析に特化した新機能「Deep Research」です。このAIは、インターネット上の膨大な情報を高度に分析し、プロのリサーチャーのような調査レポートを作成します。

主な特徴:

  • ユーザーのインプットに対し、具体的な内容を質問したうえで調査計画を作成
  • 1つのテーマに対して、複数のステップを踏んで調査を実行
  • 収集して得た内容を分析して、さらに自律的に次の情報を検索・深掘りしていく
  • 多用なデータソース(テキスト、画像、PDF等)に対応

Deep Researchは、人間の数時間分の作業を数十分で完了できるとされ、その高いアウトプット性能が話題を呼んでいます。市場調査や競合分析、新規事業の提案、事業計画書の作成、科学研究への応用など、数多くの活用事例がSNS上で公開されています。なお、執筆日時点ではProプラン($200/月)ユーザーのみが利用可能となっています。

▼科学研究テーマの例:インプットされたテーマに対しDeep Researchが詳細を質問→ユーザーの回答を受け、詳細なレポートを作成している

現在、こうしたリサーチ支援ツールは、こちらで紹介しているGemini DeepResearchやGensparkのディープリサーチ、Feloの検索代理など複数存在しています。どのモデル・サービスが優れているかは用途や利用者によっても評価が分かれる部分なので、目的に応じて最適なツールを選ぶことが重要でしょう。

筆者個人としては、まだ使いこなせていない部分もありますが、本記事に向けたニュース把握のような基本的な情報収集はGemini・Genspark・ChatGPT(o3-mini、Tasks)を使用しています。一方、自社や競合のサービス評価・市場調査など、より深く分析を行いたい場合にはChatGPT DeepResearchの活用を想定しています。

【出典・参考】

おわりに

DeepSeekの登場とOpenAIの新展開は、生成AI業界に大きな変化をもたらしています。DeepSeekによる低コスト化の実現はAI開発や利用の裾野を大きく広げる可能性を示し、またOperatorやDeep ResearchといったOpenAIの新サービスの登場により、AIは私たちの日常やビジネスのより身近な存在となっていくと考えます。

こうした技術の普及に伴い、データ管理や個人情報保護などセキュリティ面での対応もより一層重要となりますが、これらの課題を1つずつ乗り越えながら、AIを活用してより豊かな暮らしを築いていければと思います。

【イベントのお知らせ】「全国生成AI研究発表会」を開催!

2025年2月24日(月・祝)、 TiB(Tokyo Innovation Base)にてIKIGAI Lab.主催の生成AIイベントを開催します!

2年近くのAIの最新情報をキャッチアップして活用法を広げているメンバーたちが、生成AIの成功導入事例や生成AI活用の現状と未来について幅広いテーマで語ります。

ぜひ、お気軽にお越しいただけますと幸いです!

お申し込みは下記URLからお願いします!
IKIGAI lab 全国生成AI研究発表会 in TIB(Peatix)

※本ニュースは「IKIGAI lab.」が配信しているコンテンツです。
 IKIGAI lab.はこちらをご覧ください。

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#経営企画/事業企画/DX企画推進等に従事

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