システム構築におけるLPARのメリット

2010年7月15日(木)
上野 仁

高可用性(HA)システムを組む

耐障害性も、業務システムに仮想化技術を適用する際に考慮しなければならない重要なポイントです。もちろん、システム障害は起こらないに越したことはありません。しかし、起こってほしくないときに起こるのがシステム障害というものです。備えあれば憂いなし、です。

障害発生時に迅速にサービスを回復させたいのであれば、ホット・スタンバイが適しています。サービスに用いる"現用系"(本番系)のシステムと、予備の"待機系"のシステムをセットで用意してシステムを2重化しておき、現用系に障害が発生した時に、即座に待機系で処理を引き継がせるのです。

こうした2重化構成を物理サーバーだけで組むと、現用系と待機系で、サーバー台数が2倍必要になります。一方、仮想化環境であれば、待機系の仮想サーバーを動作させるために必要となる物理サーバーを、他の用途と共用できます。

Virtageであれば、このように物理サーバーをまたがった任意の仮想サーバー同士でホット・スタンバイが可能です。ホット・スタンバイのためのソフトとしては、米MicrosoftのClustering Service(MSCS)やFailover Cluster(MSFC)、日立製作所の「HAモニタ」などを利用できます。

しかし、ホット・スタンバイには弱点もあります。待機系サーバーを常時起動させておき、障害発生時に即座に処理を引き継げるようにするためには、アプリケーションをホット・スタンバイと連携させる必要があるのです。

ところが、開発コストや運用コストを抑えたいといった理由から、アプリケーションに手をかけたくない(ホット・スタンバイとの連携機能を作り込みたくない)ケースもあります。こうした場合に有効な構成が、N+1コールド・スタンバイです。ホット・スタンバイと比べて、待機系による処理の引き継ぎに要する時間が大きくなるものの、システム構成が簡単であるため、特別な連携機能を新たに作り込む必要がありません。

N+1コールド・スタンバイでは、1台の待機系サーバーが複数台(N台)の現用系サーバーをバックアップします。例えば、現用系のサーバー・ブレード7枚に対して、待機系となる1枚の予備サーバー・ブレードを用意します。現用のサーバー・ブレードに障害が起こった場合は、現用系に接続されていたストレージを予備サーバー・ブレードに切り替えて、予備サーバー・ブレードを起動させます。

図2: 予備のサーバー・ブレードをN+1コールド・スタンバイ構成で1台用意しておけば、物理環境のブレードであっても仮想化環境のブレードであっても代替できる(クリックで拡大)

仮想サーバーを介さずにデータをバックアップ

仮想サーバー環境では、ディスクのデータ・バックアップも大きな課題となります。

一般的なサーバー仮想化ソフトの場合、バックアップ対象となる個々の仮想サーバーは、ローカル・ディスク上にあるバックアップ・データを、LAN経由でバックアップ・サーバーに転送します。つまり、サーバー間でのデータ転送が必要になります。小規模なシステムであれば、このようにサーバー間でデータを転送しても、LANのネットワーク負荷は少なくて済みます。

一方、SAN(Storage Area Network)を採用した大規模なシステムの場合は、バックアップ・サーバーからSAN上の共有ストレージに直接アクセスして仮想サーバーのデータを取得します。こうすると、仮想サーバーやLANを介することなく、データをバックアップできます。これを、LANフリー・バックアップ(LANを使わないバックアップ)と呼びます。

バックアップ・サーバーは通常、バックアップ・ポリシーやスケジュールの制御機能に加えて、バックアップ媒体に対してデータを出し入れするデバイス・サーバー機能を兼ねています(機能を分離できる製品もあります)。バックアップ媒体としては、LTO(Linear Tape-Open)などのテープ装置がよく使われており、こうしたデバイスを接続するために物理サーバーが用いられます。

ところが、一般的なサーバー仮想化ソフトを用いると、仮想サーバーから見えているローカル・ディスクは、外部のシステムから読み取ることができません。サーバー仮想化ソフトに固有のデータ格納方式となっているからです。つまり、SAN上の共有ストレージを使っていたとしても、バックアップ・サーバーからは読み取れないのです。

仮に、外部からデータを読み取ることができたとしても、SANストレージ上では、1つの論理ユニット(LU)に複数の仮想サーバーのディスク・イメージが格納される可能性があります。この場合、LANフリー・バックアップにとって必要な制御である「静止化」(ディスクへの書き込みを一時的に停止すること)が難しくなる可能性があります。

一方、Virtageでは、物理サーバーと同様に、仮想サーバーからSANストレージに直接アクセスします。このため、個々の仮想サーバーに割り当てる論理ユニット(LU)には、通常のOSによってフォーマットされたディスク形式(ntfsやext3など)のデータが書かれます。このため、問題なくLANフリー・バックアップが可能となります。

一般的に、バックアップ・サーバーは、仮想化環境での動作を保証していません。しかし、LPAR方式を採用するVirtageに対しては、物理サーバー同様にテープ装置などのバックアップ媒体を接続できることから、動作を認めるバックアップ・ソフトが出てきました(日立製作所が2010年6月2日に発表したニュース・リリース)。バックアップのためだけに物理サーバーを用意する必要がないため、データ・センターの構成がよりシンプルになります。

図3: LPAR方式は標準のディスク・フォーマットで運用できるため、物理サーバーと同様に、バックアップ対象サーバーを介することなくデータ・バックアップできる
日立製作所 エンタープライズサーバ事業部

(株)日立製作所エンタープライズサーバ事業部に所属。入社以来メインフレーム用OS、ファームウエアなどの研究開発を担当。現在はメインフレーム開発で培った仮想化技術をIAサーバに適用するとともに、利用システム拡大のために奮闘中。下手の横好きのゴルフにも頑張っている。
 

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