クラウド時代のアプリケーション配信を最適化するCitrix NetScaler

2011年8月18日(木)
的場 謙一郎

Citrix NetScaler

Citrix NetScaler は、これまで見てきたような現在のWeb技術に基づくアプリケーション配信に必要な機能をオールインワンで提供するロードバランサーである。従来型のL4-7スイッチに対し、オフロード、セキュリティ、アプリケーション高速化といった機能を総合的に提供するこれらの製品は「アプリケーション デリバリー コントローラ(ADC)」とも呼ばれる。NetScaler は、インターネットユーザーなら誰もが知っているいくつもの有名サイトの基盤となっており、毎日全インターネットユーザーの約75%がNetScaler で配信されるサービスを利用している、と言われている。

図6:Citrix NetScaler概念図(クリックで拡大)

従来の単純なロードバランサーを超えるADCの機能は、クラウドで提供されるサービス配信の最適化に必要不可欠なものであるが、一方で新しい要求も生まれている。まずトラフィックの変動が激しいということがある。人気が出たWebサイトへのトラフィックは一気に増加する。そのたびにハードウエアを交換して性能をアップグレードするのは効率が悪い。NetScalerは、共通のハードウエアを使用するモデルであれば、(ソフトウエア的な)ライセンスの追加のみで上位モデルの性能にアップグレードできる”Pay-as-You-Grow”ライセンスモデルを採用している。「成長に応じて支払ってください」という意味である。

図7:Pay-as-You-Growの例(クリックで拡大)

さらに、このモデルを応用したのが”Burst Pack”ライセンスである。これは90日間限定で、そのハードウエアの最上位モデルの性能を使用できるライセンスである。突発的なトラフィックの増加に対して、ハードウエアの交換や、恒久的なアップグレード料金を支払うこと無く、一時的な対応を可能とする。

図8:Burst Packの例(クリックで拡大)

また、クラウドを含む仮想化されたインフラ上で求められているのが仮想アプライアンスだ。NetScaler VPXは、物理的なハードウエアアプライアンスであるNetScaler MPXの機能をそのまま仮想アプライアンス(仮想マシン)として抜き出したものであり、同一の機能を実現できる。物理的な設置やケーブリングを必要としない仮想アプライアンスは、クラウドインフラにとって非常に重要な要素となると思われる。米国のSoftLayer社では、同社が提供するIaaSサービスのメニューの中でロードバランサーの選択肢としてNetScaler VPXを提供している。

一方で仮想アプライアンスにも弱点がある。仮想アプライアンスでは、すべてをサーバーCPUで処理しなければならないため、暗号通信を行う場合の性能は専用チップを利用する物理アプライアンスに譲らざるをえない。そこで、仮想アプライアンスの柔軟性と物理アプライアンスの性能を両立させる製品として、2011年4月に発表したNetScaler SDXを提案したい。NetScaler SDXは、NetScaler MPXのハードウエア上で、最大16のNetScalerのインスタンスが動作する(2011年8月現在)。個々のインスタンスの動作は完全に独立していて、インスタンスごとに再起動や停止、バージョンアップさえ行える。またインスタンスごとの性能も保証されていて、あるインスタンスの負荷が別のインスタンスの性能に影響を与えることもない。

Citrix NetScaler とクラウドインフラ

クラウドサービスを提供するデータセンターのエッジには、高速なスループットを持つNetScaler MPXの配備を推奨する。ここでは、データセンター全体をカバーする基本的なポリシー適用を行う。また、データセンター間のトラフィック管理を行う広域負荷分散も適用できる。

クラウドインフラ上の個々のテナントやアプリケーションに対しては、NetScaler VPXやNetScaler SDXが最適である。最大限の柔軟性を提供するNetScaler VPXと、専用ハードウエアによるSSL処理能力を備えたNetScaler SDX上のインスタンスを要件に応じて使い分けることができる。

図9:NetScalerの配備イメージ(クリックで拡大)

また仮想化されたインフラであればどこにでも導入可能なNetScaler VPXは、新しいサービスの開発にも活用できる。1台の物理サーバー上に必要なWebサーバー、アプリケーションサーバー、データベースサーバーとともにNetScaler VPXを展開し、Webアプリケーション開発の過程において、実際にL7ポリシーを適用したり、WAFとアプリケーションの動作を確認しながら開発を進めたりすることができる。

NetScaler は、単なるロードバランサーの機能だけでなく、Webアプリケーション配信の最適化に必要なあらゆる機能を提供する。また、クラウドコンピューティングの時代を見据えた進化を遂げているのである。

次回は、アプリケーション デリバリー コントローラという枠をさらに超えた「サービス デリバリー コントローラ」につながる、クラウドコンピューティングを最大限に活用するためのNetScalerの進化について紹介する。

シトリックス・システムズ・ジャパン株式会社 マーケティング本部 プロダクトマーケティング シニア プロダクト マーケティング マネージャー

外資系コンピュータ・メーカーにて、ネットワーク関連ハードウエアおよびソフトウエア、セキュリティ、サーバーおよびワーク・ステーションなど幅広い分野のプロダクト・マーケティングを経て、2009年10月より現職。ネットワークを中心とした、手元に情報資源を「持たない」コンピューティングを、15年以上にわたって追求中。
 

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