ネットワーク遅延対策技術
エンジニアリングクラウドでの画面転送への対応
ここまでにご説明したRPSの処理では送信しようとしているパケットの全てを組み合わせて、実際に送信するパケットを生成しています。そのため、ファイル転送のように、転送前に必ずファイルサイズが決まっている必要があるのですが、エンジニアリングクラウドの仮想デスクトップの場合、画面の更新量に応じてデータ転送量が大きく変動してしまうため、転送前にサイズを知ることができません。そこで、転送量が変動するような場合では、送信するデータを一時的にメモリ上に貯め込んでおき、1つのデータとして統合することで、RPSの符号化処理を行えるようにし、ファイル転送の時と同様にUDPで送信します。
この時、メモリに一定量のデータが貯まるまで送信を待っていると、画面の更新量が少ない場合には送信が遅れてしまい、画面更新に遅延が生じてしまいますので、メモリに貯まったデータ量が小さい場合でも一定時間ごとに強制的に送信処理を行っています。
以上のような改良を高速データ転送に適用し、予備実験として画像転送に組み込んだ結果、RTTが200ミリ秒の環境においても、TCP通信のようにスループットが低下せずに、約半分の時間で画面描画が完了することが確認できました。今後この機能を実際にエンジニアリングクラウドの仮想デスクトップ転送へ組み込んでいきたいと考えています。
今回は、富士通研究所で取り組んでいるネットワーク遅延への対応についてご説明しました。これらの技術を用いることで、ネットワーク遅延が大きい場合におけるスループットの低下を改善することが可能になりました。しかし、ネットワーク遅延そのものをなくすことは困難であり、仮にネットワーク遅延が1000ミリ秒ある環境であれば、パケットは1000ミリ秒遅れて到着することになります。このようなネットワーク遅延を根本的に解決するためには、地理的に離れた複数のクラウドを用意し、クラウド間で自動的にデータを同期させ、ユーザーはネットワーク遅延の最も小さいクラウドを利用することができるようにすることが必要です。このようなネットワーク遅延への対応につきましても、今後取り組んでいきたいと考えています。
まとめ
これまで全3回の連載に分けて、富士通の次世代ものづくり環境「エンジニアリングクラウド」を支えるコア技術についてご説明してきました。エンジニアリングクラウドの、安全性・信頼性、既存システムや他クラウドとの連携、グローバルレベルでの標準化・共通化等は、これらの富士通独自の技術やノウハウにより支えられています。
今後も富士通では、エンジニアリングクラウドを通じて、お客さまのものづくりを支援していきたいと考えています。
【参考文献】
- 『雑誌FUJITSU』2011-5月号(Vol.62,No.3), pp.288-296(2011)
「エンジニアリングクラウド開発環境」(斎藤 精一, 伊藤 明, 松本 弘, 大田 栄二) - 株式会社富士通研究所プレスリリース (2011年5月2日)
「仮想デスクトップの操作応答性能を向上させる高速表示技術を開発」 - 富士通ジャーナル「仮想デスクトップ高速表示技術」(2011年6月1日)
- 富士通株式会社プレスリリース(2011年6月21日)
「次世代ものづくり環境「エンジニアリングクラウド」について」 - 富士通株式会社Webサイト
「エンジニアリングクラウド」 - 『雑誌FUJITSU』2009-9月号 (VOL.60, NO.5), pp.470-475(2009)
「クラウドコンピューティングに適した高速ファイル転送ソリューション」(亀山 裕亮, 佐藤 裕一, 吉田 義史, 瓜田 誠一) - 富士通ジャーナル「FTPの約20倍の転送速度を実現する技術『BI.DAN-GUN(ビーアイドットダンガン)』」(2009年1月5日)
- 富士通株式会社Webサイト
「高速ファイル転送ソリューション BI.DAN-GUN(ビーアイドットダンガン)」
<サイト最終アクセス:2011.07>