DevRel(Developer Relations)ことはじめ 40

今後の「DevRelの在り方」を考える

最終回の今回は、本連載を掲載してきた約3年半の変化を踏まえ、今後の「DevRelの在り方」について考えていきたいと思います。

中津川 篤司

6:30

はじめに

2022年4月から続けてきた、この「DevRel(Developer Relations)ことはじめ」は今回が最終回となります。約3年半に渡ってDevRelに関わる様々なテーマで書いてきましたが、その間にDevRelの在り方も大きく変わってきたと感じています。

今回はそうした変化を踏まえつつ、今後のDevRelの在り方について考えてみたいと思います。

日本企業の変化

筆者がDevRelという単語を言い始めた2014年春頃は、ちょうどモバイル開発が盛んだった時期でした。そして、mBaaS(mobile Backend as a Service)や実機デバイスのテストサービスなど、モバイルに関連した開発者向けツールが多数出てきた頃だと思います。

また、LINEは2014年から「LINE DEVELOPER DAY」という開発者向けイベントを開催しています(2014年は「LINE Developer Conference」という名称だったようです)。LINE以外でも「Cookpad TechConf」(2016年〜)、「GREE Tech Conference」(2020年〜)、「DeNA TechCon」(2016年〜)など、多くの企業が開発者向けイベントを開催し始めたのもこの頃です。

また、2015年頃は「IoT」という単語が広まり、これも「SORACOM」や「obniz」のようなIoT向けのサービスが登場してきた時期でした。この頃は投資も盛んで、IoT関連のスタートアップが多数登場してきた時期でもあります。

コロナ禍前後からWeb3やメタバースが流行し、ブロックチェーン関連の開発者向けサービスも多数登場しました。ブロックチェーン自体はグローバルに展開されているものなので、日本発と言ってもサービス展開はグローバルを想定されていたと思います。

コロナ禍を経て2025年現在で見ると、日本発の開発者向けサービスが極端に減っているように感じます。俗に「Developer+」と呼ばれる自社サービスはコンシューマや企業を対象としているものの、開発者向けのAPIやSDKを提供しているサービスは増えていますが、開発者に特化したサービスはあまり見かけなくなりました。

さまざまな事情はあると思いますが、日本企業が日本市場しか見ていないことが大きな要因だと感じています。ことインターネットのサービスにおいて、ユーザー数が多いのは絶対的に優位です。それは価格面やサービスの機能面にも現れます。日本企業では日本語のサポートや請求書払いができるなどを強みに挙げることが多いのですが、グローバル企業の利便性・価格面の優位性を覆すのが難しくなっています。

例えば、Stripeは外資系企業ですが、日本のコンビニ決済をサポートするなど、強靭な開発力があります。こうしたグローバル企業に対抗するには、単に日本語サポートがあるだけでは難しいでしょう。

コロナ禍の変化

コロナ禍では、DevRel活動の多くがオンライン化しました。イベント開催やコミュニティ活動はオンラインで行われ、動画配信に注目が集まったのが特徴的です。その代わりに、これまで当たり前のように行っていた各国への出張が激減しました。

その結果として、2020〜21年くらいには旅費やカンファレンス費用が減り、予算に余裕が出てDevRelに関わる人材を一気に増やした企業が多かったです。しかし、それも長くは続かず、2022年のコロナ明けには立て続けにDevRelチームの縮小やレイオフが起こりました。

この流れの中で分かってきたのは、これまでのDevRel活動は出張やイベント参加が前提になっていたことです。しかし、オンライン化したことで成果が大きく下がったわけではなく、むしろオンラインのほうが効率的にDevRel活動ができる領域もあることが分かってきました。

その結果、旅行に伴う予算は大きく削減される傾向があり、各国のエバンジェリスト・アドボケイトが自分たちの地域に集中する傾向が強まっています。

## AIの登場

そこにきて、2024年末くらいからのAIの登場です。「AIによってSaaSが滅ぼされる」とさえ言われています。実際、SaaSがデータベース+αくらいのものであればAIで自作できるようにすらなっています。「SaaS is Dead」(SaaSの終焉)という言葉も度々聞かれるようになりました。

日本企業では「ChatGPT」や「Claude Code」「GitHub Copilot」などの生成AIを「利用する」側に回っており、日本から独自のLLMを使ったプロダクトはなかなか出てきません。法律や規制、文化的な背景もあると思いますが、グローバルに展開するにはあまりにも遅すぎる状況です。こうした状況では、日本発の開発者向けプロダクトはますます出にくくなるでしょう。

DevRel活動においても、AIは大きな影響を与えています。例えば、ドキュメントの翻訳をAIに任せるケースは増えています。SDKやデモアプリを生成AIで作成したり、ブログ記事やチュートリアルをAIで生成したりするケースも増えています。

最近では動画生成も高性能になっているので、ちょっとしたウェビナーであればAIで生成できるようになるでしょう。さらに「リップシンク」と呼ばれる技術により、さも自分が話しているかのように別な言語で話す動画も生成できるようになっています。一度動画を作ってしまえば、さまざまな言語で動画を生成できるのです。

Nano Banana Pro」の登場で日本語の画像も生成できるようになり、スライド資料すらもAIで生成できるようになっています。

そういった状況を踏まえると、DevRel活動においても多くの領域がAIに置き換わっていくことが予想されます。特にドキュメントやブログ記事、チュートリアル、動画などのデジタルなコンテンツはAIで生成されることが多くなるでしょう。

DevRelに求められる3つの変化

こうした事情を踏まえると、DevRelの変化が3つ見えてきます。

よりローカルな活動

かつてのDevRelは毎週のように世界中を飛び回り、カンファレンスで登壇したり、コミュニティに参加していました。しかし、それは過去のものになりつつあります。「DevRelCon NY 2025」では、サンフランシスコからの参加者すらほとんどいませんでした。多くがニューヨーク、またはその近辺からの参加者でした。

旅費の負担が減ったのは、その活動領域をよりローカルに絞り込んでいるためでしょう。リモートワークも当たり前になる中、1人が世界中を飛び回るよりも、各地域にDevRel担当者を配置するほうが効果的になっています。

より現地化が求められ、現地の開発者コミュニティとの積極的な関わりが求められているとも言えます。

対面重視

そして大事なのが「対面での交流」です。「A handshare is more worth than clicks(握手はクリックよりも価値がある)」というのはDevRelCon主催者であるHoopyのマシューの言葉ですが、これがまさに強く求められるようになっています。

デジタルな部分についてはAIを徹底的に活用し、効率化が求められています。逆に人に求められているのはAIで代替できない部分、つまり対面やリアルな交流です。たとえオンラインであっても、チャットやソーシャルで対話するのは大事です。ボットとの対話では、開発者の心をつかむのは難しいでしょう。

逆に、これまでブログ執筆やドキュメントの翻訳、デモアプリ開発などに注力していたDevRel担当者は、その時間の割当てを見直す必要があります。AIは日々進化しており、私たちの仕事を奪い取っています。私たちはAIにできることに固執すべきではなく、AIでは決して代替できない部分に注力しなければなりません。

成果の可視化・ビジネスとの連携

そして、最も大事なのが「DevRel活動の可視化」と「ビジネス面での連携」です。コロナ後のレイオフでも分かる通り、DevRelが必要だとは思われながらも、その成果が見えづらいために、真っ先に予算削減されてしまう傾向があります。

自分たちの活動がビジネスにどう貢献しているのか、数値で示すことが求められています。そのためにはマーケティングや営業、プロダクトマネジメントなど、他部門との連携が不可欠です。彼らのKPIを理解し、DevRelとしてどう貢献できるのかを明確にする必要があります。

DevRel活動は企業によって目的が異なります。それは、DevRel部門がマーケティングに属しているのか、プロダクトに属しているのか、あるいは開発部門に属しているのかによっても異なります。そのため「DevRelはマーケティングではない」といった声も聞かれますし、「プロダクトマネジメント(サービス開発のフィードバックを得る場)である」とも言われます。

こうした現状を踏まえると、DevRelはさまざまな部門と連携し、彼らの言葉を理解する必要があります。それはマーケティングであり、営業であり、サポートやプロダクト、経理、さらには経営層であるかもしれません。彼らの異なるKPIを理解し、DevRel活動がそれらにどう貢献できるのかを明確にしなければなりません。それができないと、DevRel活動の継続性は危うくなります。

学べるリソース

例えば、前回で取り上げた「DevRelKaigi 2025」のDon Goodmanさんのプレゼン「Developers are Not Special Snowflakes(開発者は特別な存在ではない)」では、DevRelとB2Bマーケティングの融合について取り上げています。

このプレゼンの中で、従来のマーケティングではリード単位でしか対象を把握していなかったのに対して、DevRelでは個の開発者のフォーカスしている点がユニークであるとしています。ただし、DevRelとマーケティングから学び取れる点が数多く存在するため、両者を理解して融合させることが重要であるとしています。

リレーションからマーケティングへ。
継続するDevRelのために行うべきこと

同じDevRelKaigi 2025では、筆者は「リレーションからマーケティングへ。継続するDevRelのために行うべきこと」というタイトルでセッションを行っています(動画はまだ未公開です)。このセッションでは、DevRel活動を継続するために欠かせないビジネスの視点を解説しました。

DevRelのアウトプットとビジネスゴールを接続し、他部門との連携やROIの可視化の重要性を話しました。ビジネスとの連携が強化されることでDevRel活動の価値が明確になり、継続的な活動を可能にするでしょう。

Three Marketing Frameworks Every Advocate Should Know

DevRelCon NY 2025では、前述のMatthewとAdamが「Three Marketing Frameworks Every Advocate Should Know(すべてのアドボケイトが知るべき3つのマーケティングフレームワーク)」というセッションを行っています。本セッションの資料はこちらで公開されています。

ここで挙げられているフレームワークは以下の3つです。

  1. ジャーニーとファネル
  2. テック・パス・ペルソナ
  3. メッセージング

詳細は動画を見てもらうのが良いと思いますが、DevRel活動において役立つマーケティング手法とフレームワークを解説しています。ここでも、他部門との連携とDevRel活動の可視化が重要であることが強調されています。

Matty Strattonのブログポスト

Matty Strattonは「DevOpsDays Chicago」というカンファレンスの運営や、DevOpsに関するポッドキャストを行っています。そんな彼が最近連続してアップした一連の記事は、DevRel担当者がビジネス部門を理解するのに非常に役立ちます。

「101」というのは入門編という意味で、この一連の記事では営業、マーケティング、財務、プロダクトマネジメントの基礎とDevRelとがどう関係するのかを解説しています。DevRel担当者がビジネス部門を理解するのに非常に役立つ内容です。

今後への期待

「日本企業にとっては厳しい」とは書きましたが、AIの登場によりグローバルなサービスリリースがしやすくなっている状況ではあります。例えば、ROUTE06の「Giselle」はAIエージェントの設計・構築フレームワークです。これは英語のみで提供されており、かつオープンソース・ソフトウェアです。同社はデータベース設計プラットフォームのLiam ERD(こちらもオープンソース)も提供しています。

個人でも可能性はあります。「Repomix」はリポジトリをまとめ、AIフレンドリーにしてくれるソフトウェアです。Repomixは個人で開発されていますが、GitHubスターが2万超と大きな注目を集めています。AIに関連したプロダクトや、生成AIの活用で企業や個人がグローバルに展開しやすくなってきています。

また、DevRel関連の求人が軒並み高騰しています。特にサンフランシスコのAI系企業(Facebook、Anthropic、OpenAIなど)でDevRel関連職(デベロッパーアドボケイトやコミュニティマネージャーなど)の求人が数十万ドルも当たり前になってきています(一時100万ドルを超えて話題になっていました)。もちろん、経験が十分あることが前提ですが、DevRelの価値が高まっているのは確かです。

まとめ

DevRelに注目が集まるようになってから10年以上が経過しました。その間に様々な変化がありましたが、ようやくDevRelの価値を内外から認識されるようになってきたと言えます。DevRelに関わっている人は、自分たちの価値を適切に説明する必要があるでしょう。

「これからDevRelに関わっていきたい」という方は、AIではできない部分にこそ価値を見出して活動してほしいと思います。つまり、登壇であったり、コミュニティでのつながりを重視すると良いでしょう。また、技術力だけでなくビジネス面の理解を深めるのも重要です。「DevRel活動がビジネスにどう貢献しているのか」を明確にできるようになることが、今後のDevRel担当者に求められるスキルセットとなるでしょう。

この記事のキーワード

この記事をシェアしてください

人気記事トップ10

人気記事ランキングをもっと見る