APIマネージメントに関するソリューションを提供するKongが、ニューヨークで顧客とパートナー向けにテクニカルカンファレンス「Kong API Summit 2025」を開催した。2025年10月14日と15日の2日間、ニューヨークシティのモニュメントであるワールドトレードセンターの跡地、グラウンドゼロのすぐ脇にある会場で行われたカンファレンスには、初日の午前中一杯を使ったキーノートに加えてユナイテッド航空、プルデンシャル、ノードストローム、シーメンズ、BMW、HSBC、eBayなどの顧客によるセッション、Google、AWS、New Relic、Microsoft、アクセンチュアなどのパートナーのセッションが2日間に渡って実施された。高層ビルが立ち並ぶ大都会の会場では狭いながらも複数の部屋を効率的に使った多くのセッションが行われ、約500名の参加者は秋のニューヨークとは思えない温暖な気候の中、Kongが示すAPIとエージェンティックAIの将来について理解を深めた内容となった。
この稿ではCEOで共同創業者のAugusto Marietti氏によるキーノートの内容を紹介する。
生成AIはここでも大きなトピックとして扱われており、クラウドネイティブなシステムにおけるアプリケーション連携の鍵はAPIというメッセージングは、そのままAIを応用するための要点として提案されていた。
この大規模言語モデルを実装する際にAPIが必須となるというメッセージは、NVIDIAのCEOであるJensen Huang氏のコメントを引用する形で訴求されていた。ここではAIにおける重要なインフラストラクチャーに対してイノベーションを起こしたHuang氏が、APIエコノミーをポジティブな視点で捉えていることを強調したと言える。
またこれまでのWebベースのシステムに比べて、AIが消費/生成するトークンの数は凄まじい勢いで増加しているという。ここではGoogleの数値を引用して解説しているが、1年間で50倍以上の増加が確認されたという。
そのためにAPIとデータに対するガバナンスの必要性がこれまで以上に重要になると説明した。
このスライドで興味深いのは、AIが利用するモデルとクラウドプラットフォーム、データプラットフォームが横並びになっていることだろう。その上に推論とデータアクセスのためのハブが並び、さらにその上にKongが提供するコネクティビティが位置するという図式になる。これはデータ管理や推論という大きなタスクの上にAPIを位置付けることで、APIマネージメント層の重要性を印象付ける発想だろう。
このスライドでは、これまでのアプリケーションが外部サービスを利用する際のREST APIとエージェントが複数のLLMや外部サービスを利用する際のMCPを並べて解説。ここでは違いを見せるというよりも同じ構造であることを示して、同様のアプローチが有効だということを訴求している。そして「生成AI」ではなく「エージェンティックAI」という用語を使っていることに注目したい。単にトークンを生成するアプリケーションではなく、「エージェントによって駆動されるAIアプリケーション」という言い方をMarietti氏は使用している。
このスライドでもコネクティビティが最下層に位置してユーザーとエージェンティックAIを繋ぎ、その上にAPIとMCPのカタログ、セキュリティとコンプライアンスが制御を行い、さらに上にはオブザーバビリティやCDN、デベロッパーポータルなどが存在するという、これまでの発想とは上下が逆転した図式を使って説明している。ここで注目したいのは、中央に記載されたAgentsとAI Monetizationだろう。
それはこの後にKongが買収したOpenMeterが登壇したことでもわかる。つまり単に接続するだけではなくその利用を可視化することで、マネタイゼーション(収益化)につなげることが必須だとKongが考えていることを示している。
マネタイゼーションが必須であるという前提に立った上で、Kongは、AIのマネタイゼーションはトークン量やCPU/メモリーの利用量ではなくAPIゲートウェイによって行われるべきという思想を持っているように見える。その論理は以下の3つで成り立っている。すなわち「エージェントはAPIを利用する」「AIの課金はすなわちAPIの課金である」「APIの課金はメータリングによって実現できる」という3段論法だ。
ここで登壇したのは、2025年9月にKongが買収したOpenMeterの共同創業者であるPeter Marton氏だ。
KongによるOpenMeter買収については、以下の公式ブログから参照されたい。
●参考:Kong Acquires OpenMeter to Bring API and AI Monetization to the Agentic Era
Marton氏はデモを交えてOpenMeterによるメータリングを紹介。ここではMarietti氏もステージに残り、デモにコメントする形でOpenMeterの概要を紹介した形になった。
その後はCTOであるMarco Palladino氏にステージを譲り、MCPと連携する際の課題について解説を行った。Marietti氏が良い話をするGood Cop(良い警官)の役だったとすれば、Palladino氏は悪い話をするBad Cop(悪い警官)役として、エージェンティックAIにおける課題を紹介した形になった。
ここではエージェンティックAIの課題を紹介。特に生成される回答の品質管理、どのモデルを選択すべきか、個人情報の除去の難しさ、コスト管理、LLMのオブザーバビリティなど多岐にわたる問題点を紹介し、バラ色の未来というわけではないことを強調した。
その後、Palladino氏は創立150年という老舗の金融企業プルデンシャルのElizabeth Brand氏(VP、Global Head of Cloud)を招いて短いプレゼンテーションを行わせた後に、最新リリースであるKong AI Gateway 3.12を紹介。
ここではMCPのガバナンスやプロトコルの自動生成、セキュリティ機能、オブザーバビリティなどを紹介した。続いてJohn Harris氏が登壇し、ライブデモを実施した。Harris氏は2025年8月にKongのプリンシパルエンジニアとしてインタビュー実施しているので、以下を参照されたい。
●参考:API GatewayのKongのプリンシパルエンジニアにインタビュー。Backstageと差別化するScorecardsとは?
ここまでプレゼンテーション主体でやや冗長で観念的な雰囲気だったステージが、一気にテックカンファレンスらしく変容したと言える。
デモに続いてより細かな新機能として、LLMを使ってルーティングを行う機能や、GCPやAWSに特化した機能などを紹介した。
またKongが開発して公開している新しいSDK、volcano.devを紹介。これはTypeScriptをベースにしてMCPと連携するエージェントを開発するためのSDKになる。OpenAIやClaude、Mistralなどを並列実行できるワークフローを実装できるという。詳細は公式サイトを参照されたい。
●参考:Volcano SDK
キーノートの最後は、Kongの顧客であるユナイテッド航空がPalladino氏と対談する形式で登壇。ここではアメリカ最大の航空会社のひとつであるユナイテッドが、レガシーなシステムを含めてAPIマネージメントにKongを大量に採用していることを見せつける内容となった。
Marietti氏によるAPIとAI(MCP)アクセスの相似を印象付けた後に、OpenMeterによるマネタイズの必要性からPalladino氏による課題の紹介、そしてプルデンシャル、ユナイテッドという優良顧客によってエンタープライズに採用されていることを印象付けた。その後さらにライブデモを行うことで、テクニカルな内容も盛り込んだキーノートとなった。