Zabbix SummitはZabbixを愛するエンジニアのお祭りだが、2025年のカンファレンスではパートナー向けのミーティングも併催されていたし、セッション2日目にはパートナーによるユースケースがメインとなっていた。これらのことからわかるように、これまでよりもパートナーを重視した内容になっていた。この稿ではパートナーによるセッションをいくつかを紹介したい。
KubeConのようなカンファレンスではヨーロッパ開催であればヨーロッパ各国のベンダーやユースケースが、北米で開催される際にはアメリカやカナダのそれがメインになるように、登壇するプレゼンターの由来は開催される場所に強く影響される。しかしZabbix Summitではヨーロッパと南米のパートナーがそれぞれセッションを持ち、同じステージに立つというのが特徴的だ。Zabbixが北米、ヨーロッパに加え南米のブラジルで多くの支持を集めている証拠でもある。
ドイツ・Inqbeo マルチテナントにおけるモニタリング
最初に紹介するのはドイツのパートナーInqbeoのマルチテナントにおけるモニタリングのユースケースだ。プレゼンターはInqbeoのCEOであるChristian Anton氏だ。
プレゼンテーションとスライドは以下のページから参照できる。
●リンク:Multi-Tenancy Zabbix Metrics Processing and Streaming with Kafka, KSQL, and Grafana
このユースケースは医療業界の顧客においてZabbixがモニタリングを行い、システム管理者向けにはZabbixのユーザーインターフェースを提供するのと同時に、顧客向けにはGrafanaのダッシュボードでプレゼンテーション機能を提供するというものだ。
プラットフォームとしてはRed HatのOpenShiftを用い、ArgoCDでシステムへのデプロイメント機能を実装している。OpenShift上にKafkaを実装するオペレーターStrimziを使い、PrometheusからGrafanaでビジュアライゼーションを、そしてモニタリングデータの長期ストレージにはThanosを用いるというクラウドネイティブなシステムである。
マルチテナンシーを意識してはいるものの、中国のベンダーのユースケースでよく見られるクラスター内のアイソレーションを強固に行うことで、管理や課金という機能を実装したものではないようだ。医療関係のアプリケーションをサービスプロバイダーと位置付けて、その利用者ごとに可視化機能をGrafanaで提供するというレベルでのマルチテナンシーとなる。
クロアチア・Telelink Business Services マルチベンダーシステムにおける障害の原因究明
次はクロアチアのパートナーTelelink Business ServicesのエンジニアであるAldin Osmanagic氏のプレゼンテーションだ。スライドと動画は以下のリンクから参照可能だ。
●リンク:Beyond the Noise - Automated RCA & Scalable Reporting in Zabbix (A Croatia Telekom Case Study)
クロアチアテレコムはクロアチア最大の通信事業者ということだが、日本と比較するとかなり小規模なシステムである。携帯事業の契約数はクロアチアが256万人であるのに対し、日本の契約者数が2億2600万であり約100分の1の規模である。人口比でもクロアチアの人口415万人に比べて日本は1億2500万人、つまり約4%という規模の国になる。日本の都道府県で言えば、福岡県(約510万人)に近い規模である。
規模もさることながら、シスコ、Huawei、Juniper、HP、Ericsson、Nokiaという通信事業者らしいマルチベンダーでネットワークが構成されていることがわかる。
ここではZabbixの障害についてRoot Cause Analysis(根本原因解明、以下RCA)を行うシステムを実装したというのが、Osmanagic氏のセッションのポイントだ。
ただしこのRCA機能はルールベースで開発されており、SNMPで取得したデータから重大さをランキング形式に計算を行い、最もランキングが高い、つまり重大なエラーを起こしているデバイスを特定するという、言ってみればルールベースのエキスパートシステムのような構造を持っているようだ。
単にエラーをそのまま表示する発想ではノイズが大量に発生してしまい、問題解決に繋がらない。そのため、エラーを起こしているデバイスをネットワークのトポロジーから見つけるという発想のようだ。昨今のオブザーバビリティベンダーが競って実装している、生成AIを使ってエラーを対話的に辿っていきながら原因を解決するという発想ではないことに留意したい。
イタリア・Quadrata Service Group HPのシステムからZabbixへの移行の事例
次に紹介するのはイタリアにあるSTMicroelectronicsの2つの工場で稼働していたHP Operation Manager/OpenViewをZabbixに移行した事例だ。イタリアのパートナーであるQuadrata Service GroupのCEOの解説によるセッションだ。
リンク:HP to Zabbix: The Great Escape
QuadrataはHP OpenViewだけではなくOracle、SQL Server、Informix、MySQL等ののデータベースのためのエージェントなども移行しており、STMicroelectronicsのシステムがかなりレガシーな要素で構成されていたことがわかる。
QuadrataのCEOであるDimitri Bellini氏はZabbixを選択した背景について説明した。無償でコミュニティが安定していることなどの他にモダンなWebUIを利点として挙げているが、移行前のシステムのHP OpenViewがHP-UX上のMotifのUIであったことから、相当にレガシーなシステムだったことがわかる。
このスライドではAIをベースにしたインテリジェントな原因解決のための機能や故障の予測、自動修復などが項目として挙げられており、最後に「自前でそのような先進的なオブザーバビリティのシステムを構築するために開発を進めている」と赤字で書かれているところが興味深い。オブザーバビリティベンダーが生成AIを盛んに応用して新機能を発表していることを横目に見ながら、Zabbix自体があまり積極的に生成AIを取り込んだシステムに行こうとしないことに不満を持っているとも言えるし、それをパートナー側が担当するという強い自信の表れであろうか。
全体としてレガシーなシステムをZabbixで監視するという発想のシステムが多かったが、それぞれの国におけるパートナー企業が、顧客と一緒にユースケースを発表する機会を作ったことに意味があったパートナーセッションだったと言えるだろう。
今後、先進的なAIを応用したモニタリングシステムをパートナーや顧客が求め、それに応える形でZabbixが開発する可能性もあるだろう。しかし、これまでと同様に誇大広告をしないZabbixらしく、今回もAIについては控えめだった。引き続き注目していきたい。
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