これまで企業向けSIに関わってきたエンジニアのためのサバイバルガイド
エンジニアの未来。クラウド市場サバイバルガイド
企業はビジネスモデルを受託開発から変え、個人はソフトウェア開発に従事するだけではない変化が必要なのではないか、と先にこう述べた。じゃあどう変化すればいいかというところでは、私は結局のところはしごを外し、皆がそれぞれ考えましょうというアドバイスにならない結論とした。ただそれだけでは一生懸命書いてきた自分に対しても甲斐が無いので、私が務めるサイオステクノロジー株式会社および株式会社グルージェントにて、Google Appsライセンスの販売を中心にしたビジネスを推進して、恥ずかしくも「クラウドインテグレーター」を名乗っているところから、ガイドっぽい発言をしてみようと思う。
私は現在、多くの企業のIT戦略が混乱し、何を優先して施策しなければならないか分からなくなってしまっていると思っている。また、事業継続についての危機意識と新しいワークスタイルを模索する動きは表裏一体に大いに普及しはじめた概念だと思っている。よってそれぞれを市場に潜在する課題として捉え、それまでのシステム受託開発を行うビジネスモデルから変えて、企業内に多数あるイントラシステムの刷新をSaaSで進めることを事業のコアとし、世の課題解決を行おうと考えるようになった。
図1:お客様の根源的な課題に応える(クリックで拡大) |
また私はエンジニアではなくなってしまったが、自社のエンジニアたちにはSaaSを提供する上で求められるスキルセットにそれまでの価値観を捨てて対応するように求めている。これは、それまでの受託した仕事を納期までに検収へ導くことに対して卓越するスキルセットからの変革である。
我々のコアコンピタンスの基盤には、Google Appsのライセンスリセールと導入役務の提供がある。今、IT投資に対して各企業が迷いを持つ中も、Google Appsに対する引き合いは大変強く、ドアノック商材として私をITに課題を持つエンドユーザーへ導いてくれている。Google Appsは機能的に今やどんな企業でも必要とするコミュニケーションおよびコラボレーションを支えるインフラとなっていて、大量にデータを蓄積することができ、蓄積した情報に対する検索技術があらかじめ組み込んだクラウドサービスで、企業内の古いメールおよびグループウェアを刷新する価値を提供している。これにGoogle Appsでは提供されていない、けれども企業内では定番の要求をサイオステクノロジー独自提供の補完サービスとしてSaaS提供することにした。特にAppsと組み合わせるワークフローサービスは市場への訴求力について手応えを感じられるようになってきて、Google Appsライセンスとともに我々のビジネスの柱に育ちそうな予感を持っている。
Google Appsを導入した次には、混乱している顧客企業のIT戦略コンサルティングを提供する。クラウドの利点を理解した顧客に対し「企業内を見渡せば、グループウェア以外のシステムもありますよね?」と聞くのだ。既存業務システムを丹念に棚卸しし、従量安価な費用にて運用したいシステムや、スマートフォンなどの新しいデバイスから使いたいシステムを見つけ、それぞれ移行シナリオを提供する。Googleは今年のマーケティングメッセージを「Work in the Future」と題してGoogle Appsがワークスタイルを変革する未来志向のソリューションであるとしているが、これは単にGoogle Appsだけが提供すべきものではなく、企業ITシステム全体がクラウド化を成し遂げて完了する、長い道のりの果てにある概念だと思う。これを最終ゴールとして価値提供してみたい。
自社のエンジニアにはそれまで経験が無かった領域の仕事を与え、意識の変革を期待している。企業としての戦略を明示する代わりに、その戦略への最適化を求めるのである。システム受託開発を専らにしてきた頃は期間によって関わる技術も顧客も変わってきた。一方で現在は自ら提供するサービスについて、一刻の付き合いではなく持続的に関わっていかなければならない。また、規模の大きなプリセールス活動や、サービスサポートの仕事が部門単位で発生した。プログラムを書くことだけでなく、書いたプログラムにいつまでも責任を持ち、気にかけ続けなければならない状況に置かれるのである。これはそれまで完成したと思っていた社内エンジニア文化に新たなる成長余地を見いだし、仕事に対するモチベーションを高めてもらうきっかけにもなったと思っている。おそらくこの記事を読ませること無くとも社内理解を得られているだろうことを祈る。
結びにて。短く。
賛否の否を、結びに至っても心配し続けているが、取りあえず思い切って放談してみた。いろいろ混じってしまった感があるが、取り散らかった文章の行間より趣旨をくんでいただければ幸いである。市場のクラウドへの偏重は間違いなく進んでいる。しかしそれは現象であって原因は複雑に多数隠れ潜んでいる。これまで企業内システムの受託開発に関わってきた同志たる皆さんには、自らが従事してきたSI市場の終焉を単に嘆くのではなく、変革のチャンスとして落ち着いた考察を行うことをお薦めしたい。原因たる市場の課題が見つかれば、対峙(たいじ)するソリューション提供をビジネスコアに採用してほしい。考察が幸運に一面の真実でさえあれば、結果として絶対に成功すると信じている。
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