ネイティブアプリで作る?Webアプリで作る?

2012年5月22日(火)
安田 陽

2. モバイルWebテクノロジーの進化とともに

では、Walled Gardenからの脱却を模索するモバイルデベロッパーがなぜHTML5に注目しているのでしょうか。Walled Gardenと並んでよく使われているキーワードに「The Mobile Web」という言葉がありますが、ハイスペックなモバイルデバイス、HTML5、高速な4Gネットワーク、そしてパワフルなクラウドコンピューティング環境が整いつつあることで、モバイルWebの世界も劇的に変化してきています。つまり、ネイティブアプリと同等のリッチなモバイル体験を、Webアプリケーションとして「Walled Gardenの外で」提供可能になったのです。

また、併せて重要なことは、そのようなリッチなモバイル体験をWebアプリケーションとして提供することで、各社のスマートフォンやタブレットに対し、コストをかけずワンソースで開発、同じ内容を同じタイミングで提供・メンテナンスできるという大きなメリットがあることです。

日本ではかつて、携帯キャリア各社が定めるHTMLの仕様の差異や、ガラケー端末によって異なる画面の大きさの違い等を吸収するツールとして「携帯コンテンツ変換サービス」が大変重宝され、今もそれはスマートフォン対応するなどして進化を続けています。そこでは、iモード向けCHTMLコンテンツをひとつだけ作れば、他のどの携帯キャリアのどんな端末に対してもコンテンツをリアルタイムで最適化し配信するという「ワンソース・マルチユース」をコンセプトとしていましたが、スマートフォンやタブレット端末をプラットフォームとするモバイルWebにおいてもデベロッパーはやはり「ワンソース・マルチユース(ワンソース・クロスプラットフォーム)」を求め、また今、HTML5にその光を見いだしています。

図2:昨年9月27日にサンフランシスコで開催された「HTML5 Developer Conference」のキーノートスピーチの様子。参加は有償だったにも関わらず、 HTML5に関心を寄せる多くのエンジニアで会場が埋め尽くされた(筆者撮影)。

実際、Evans Data社が北米のモバイルデベロッパーを調査したところによると、今のところはWebアプリケーションよりもネイティブアプリケーションの開発手法が好まれているものの、今後2年のうちにネイティブアプリケーションとWebアプリケーションの利用の差は着実に縮まるであろうと予測されています。また、ネイティブアプリケーションの今後2年における複合年間成長率は-4.5%で下降しているのに比べ、Webアプリケーションのそれは3.75%の割合で上昇しているとのことです。やはり、コストを抑えながら複数のプラットフォームに対して等しい内容を同じタイミングで提供することを考えると、Webアプリケーションの形が理想的であると考えられます。
→参照:Evans Data: Developers are moving away from native platforms for app development(FierceDeveloper)

現在では、どんなビジネスを行うにせよ、企業がモバイルユーザーに対しスピーディーかつ十分な情報やサービスを提供していくことは必須です。しかしその際は、各モバイルOS向けのネイティブアプリケーションを大きなコストをかけて開発し、バージョンアップする際は審査結果を待たねばなりません。ユーザーも都度バージョンアップのたびに最新版をダウンロードし直さなければならないなど、費用と時間のロスが少なからず発生している今の状況は、モバイルWebを支えるテクノロジーの発達に伴い、デベロッパーにとってもユーザーにとっても徐々に受け入れ難いものになってくると考えられます。そういう観点では、ネイティブアプリケーションは、モバイルWebの各テクノロジーが十分に発達するまでの一過性のものであると予想することもできます。

現在ではWebアプリ開発環境も進化していて、PhoneGapやappMobiのようなツールを使うと、HTML5とJavaScript、CSSで開発したものをモバイル向けWebアプリケーションとして提供するだけでなく、ネイティブアプリケーション化して提供することも可能になります。その場合は、カメラやセンサーといったデバイス内の機能を利用することもできますし、特にappMobiの場合はCanvasの描画スピードをSafariの10倍高速化させたり、ゲーム等で利用される物理計算を25倍高速化、といったテクノロジーも利用できます。なお、ネイティブアプリケーションとは異なり、Webアプリケーションではダウンロード課金もしくはアプリ内課金ができないという懸念もありますが、上記のappMobiでは、Webアプリケーション上での課金を実現する「1 Touch Payment」という決済インターフェースの仕組みも提供しています。
→参照:PhoneGapappMobi

株式会社レキサス

2000年にレキサス入社後、開発部、営業部、社長室を経て現在マーケティングチームに所属。2009年2月にリリースした音楽系iPhoneアプリがランキング2位に。現在は沖縄と東京、シリコンバレーを行き来しながら新ネタを日々妄想中。
ツイッターはこちら > @yoyasuda

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